2015 Fiscal Year Research-status Report
理論と観測に基づく東北日本弧・プレート境界面の絶対強度の推定
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26400451
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
寺川 寿子 名古屋大学, 環境学研究科, 講師 (30451826)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 絶対応力 / 断層強度 / プレート境界 / 地震 / 数値解析 / データ解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,東北日本弧における沈み込み帯での応力蓄積モデルの構築と地震データによる応力インバージョン解析を組み合わせて,東北日本弧のプレート境界面の剪断強度と広域絶対応力場を推定する大問題に挑戦する.当初は,2011年東北地方太平洋沖地震の震源域を横切る断面をモデル領域とし,単純な2次元問題としてプレート境界域での応力蓄積モデルを開発することから始める計画であった.しかし,現実的なプレート境界形状を用いると,曲率が一様でないためか,応力場を精度よく計算することが難しいという問題が発生した.このため,H27年度は,2014年9月の御嶽山噴火前後の山頂直下の局所的な応力場(以下、局所応力場)の変化に基づき,本来の目的である理論と観測を組み合わせて地殻の絶対応力場を推定することを試みることにした.火山直下の局所応力場は、一般に,プレート運動によって形成される広域応力場と火山活動によって形成される応力場との重ね合わせで表現できる.プレート運動による応力蓄積はゆっくりと進行するため,数週間~数年という中短期的時間スケールでは広域応力場の時間変化は無視できるほど小さい.もし,中短期的時間スケールで局所応力場の変化が捉えられれば,それは火山活動による応力変動そのものである.この考えに基づき,御嶽山直下で発生する火山性地震のメカニズム解と御嶽山周辺域の広域応力場の関係を分析し,局所応力場の広域応力場からのずれを定量的に測ることを試みた.局所応力場のずれは,観測された地震のすべり方向と,広域応力場から期待される理論的なすべり方向の角度差(ミスフィット角)を用いて評価した.この結果、2014年噴火の直前約2週間に局所応力場の有意なずれが検出され、火山活動の活発化によって引き起こされた顕著な応力変化があったことがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では,東北日本弧の沈み込み帯をターゲットとし,地殻の絶対応力場やプレート境界強度を推定することを当初の目的としていた.しかし,研究を進める中で困難が生じたため,地殻の絶対応力場と断層強度を推定するという本来の目的を保ちつつ,対象とする領域を2014年に噴火した御嶽火山周辺域に移すことを試みた.この結果,観測された地震データの分析から,火山活動の活発化に伴い局所応力場が時間変化する様子を実際に捉えることに成功した.今後,具体的に応力場のパターンがどのように時間変化したかを示すとともに,火山活動が引き起こす応力変動場をモデル化することで,地殻応力場を知ることができる可能性があることがわかった.
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度は,H27年度に求めた御嶽山直下の火山性地震のメカニズム解から,局所応力場がどのように時間変化したか推定することを目指す.応力場を推定するためには,大量な地震データを応力インバージョン法に適用することが有効である.従来の応力インバージョン法は,地震データの時空間変化を応力場の時空間変化で説明しようとするものである.しかし,実際には,震源域の間隙流体圧場の時空間変化による断層強度の時間変化があり,地震の断層運動のタイプが時間変化したかのように見えることがある.この影響を無視すると,応力場の時空間変化を過大評価することになる.とくに火山帯では,高圧流体の存在は確実である.このため,H28年度は,断層強度の変化を考慮した新しい応力インバージョン法を開発する.断層強度の変化を考慮した応力インバージョン法は,応力場の時空間変化の下限を推定することに相当する.従来法と新手法を組み合わせることで,山頂直下の局所応力場の時空間変化の上限・下限を推定することが可能となる.また,新手法の開発に成功すれば,本来の目的であった東北沖地震後の広域応力場の変化に関しても明らかになる.これらの応力場の時空間変化は,絶対応力場を推定するための観測データからの境界条件となる.
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Causes of Carryover |
対象領域を東北沖地震の震源域から御嶽山に変更したことにより,大型並列計算機の使用料が必要なかった.これに加え,国内学会への出張費や論文出版料は,運営費交付金などの別の費用から工面できたため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
断層強度を考慮した応力インバージョン法に関する論文を発表する予定であるので,その投稿料と別刷り代として約40万円かかる予定である.
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Research Products
(6 results)