2015 Fiscal Year Research-status Report
1990年代半ばに生じた熱帯太平洋十年規模変動の位相反転メカニズムの解明
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26400471
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Research Institution | Japan, Meteorological Research Institute |
Principal Investigator |
山中 吾郎 気象庁気象研究所, 海洋・地球化学研究部, 室長 (60442745)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 十年規模変動 / 熱帯太平洋 / インド洋 / 位相反転メカニズム / 海洋大循環モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度研究実施計画に従い、全球渦無しモデルデータを用いて、熱帯太平洋十年規模変動(TPDV)に関連した物質循環場の実態解明を行った。全球海洋を水平方向に11の海域、鉛直方向には3つの層に分割し、それぞれの領域における人為起源二酸化炭素の収支を計算した。その結果、海洋内部に取り込まれた後の人為起源二酸化炭素の輸送と分布には、太平洋表層の子午面循環(STC)が主要な役割を担っていることが分かった。STCは1990年後半以降強化していることが物理場の解析からわかっているので、このことは人為起源二酸化炭素の海洋内部の輸送についても、TPDVに関連した変動が存在することを示唆している。本解析結果を速やかにとりまとめて論文として発表した。 次に、全球渦解像モデルデータを全球渦無しモデルデータと比較することにより、海洋モデルの高解像度化が熱帯太平洋の海洋構造の再現性に及ぼす影響を調べた。高解像度モデルでは熱帯不安定波動が南北方向の熱輸送を促進するため、赤道の北側でより昇温する。一方、赤道上や南米大陸沿岸では下層からの冷水の湧昇が強まるため、高解像度モデルでは赤道の南側でより降温する。つまり、高解像度モデルは基本場の海面水温の南北非対称性を強めるようにはたらく。このことは、高解像度海洋モデルを大気モデルと結合させた場合に、熱帯の降水量など基本場の再現性が向上する可能性があることを示唆する。一方、TPDVの再現性については、振幅は増大するものの高解像度モデルにおいても定性的には同様の結果が得られた。上記のことから、海洋モデルの高解像度化の影響は、海洋単体実験よりも大気海洋結合実験でより明瞭になることが期待される。 高解像度海洋モデルを用いた大気海洋結合実験を行うための準備として、全球渦無しモデルに高解像度熱帯海洋モデルをネスティングした海洋モデル(熱帯ネストモデル)を新たに開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的で設定した二つのテーマ(①位相反転プロセスの実態解明、②位相反転プロセスの要因解明)について、全球渦無しモデルを用いた解析が順調に進んだ。本課題は3年計画であるが、物理場の解析については、1年目に結果を論文としてまとめ、国際誌に2015年1月に出版された。また物質循環場の解析についても、2年目に成果を論文としてまとめ、国際誌に2015年10月に出版された。2年目までに2本の論文の出版まで行えたことから、計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、テーマ②位相反転プロセスの要因解明を中心に以下の手順で行う。 (1)熱帯高解像度海洋モデルを用いた大気海洋結合モデルの開発:当初、大気海洋結合モデルの海洋モデルは全球渦無しモデル(1°x 0.5°)を用いることを想定していた。しかしながら、2年目に行った解析により、海洋モデルの高解像度化により熱帯太平洋やインド洋の平均場に顕著な違いが生じることが判明したため、高解像度海洋モデルを用いた大気海洋結合モデルを新たに開発する。全球渦解像モデルは計算機資源の制約から用いることができないので、代わりにコストパフォーマンスに優れた、熱帯域のみを高解像度化(0.2°x 0.2°)した海洋モデルを用いる。 (2)大気海洋結合モデルの解析:熱帯太平洋とインド洋の相互作用を明らかにするために、大気海洋結合モデルの結果を解析する。海洋モデル高解像度化の影響を評価するとともに、熱帯太平洋とインド洋の相互作用のプロセスに着目した解析を行う。シグナルの伝搬経路としては、(a)大気のテレコネクション(atmospheric control)と(b)インドネシア通過流の変動(oceanic control)が考えられる。(a)については、インド洋のSTCの長期変動を着目した解析を行い、インド洋の風の場との対応を調べる。(b)については、東部インド洋熱帯域の混合層に着目した解析を行い、混合層の変動とインド洋の風の場との位相関係を明らかにする。 上記の解析を通じて熱帯太平洋とインド洋の相互作用を明らかにする。
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Causes of Carryover |
新たに開発した熱帯ネストモデルが安定して動作するための調整に予想以上の時間が必要となった。そのため、2年目末に予定していた成果発表のための外国出張を取り止め、次年度初めに実施することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでに得られた成果を国内外に広くアピールするため、学会発表を積極的に実施する。そのため、2016年4月に開催されるシームレスな結合予測のための高解像度海洋モデリングに関するワークショップ(HRCP)や欧州地球科学連合年次大会(EGU General Assembly 2016)に出席し、成果発表を行う。また、2016年12月に開催される米国地球物理学連合秋季大会(AGU Fall Meeting 2016)に出席し、成果をとりまとめて発表する。
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Research Products
(4 results)