2015 Fiscal Year Research-status Report
西太平洋における台風初期渦の実態と発達条件の明確化
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26400475
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
那須野 智江 国立研究開発法人海洋研究開発機構, シームレス環境予測研究分野, 主任研究員 (20358766)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 台風発生過程 / 西太平洋 / アジアモンスーン / 季節内振動 / 全球非静力学モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
西太平洋における台風発生過程に関する理解を深めることを目的とし、現場観測の行われた台風発生事例を主な対象として、大規模場(モンスーン循環、季節内振動など)、総観規模場(対流圏中層の気圧の谷)、およびメソスケールの過程に関する数値計算および解析を行った。具体内容と得られた成果について以下に記す。 1. 台風発生に関する環境場の役割について、H26年度に実施した2008年台風6号(TY0806)に関する感度計算の解析および追加計算を行い、季節内振動の寄与として渦度場だけでなく湿潤化による寄与も大きいことや、対流圏中層の気圧の谷(総観規模の渦度場)の寄与に関して変動の鉛直深さに対する感度が高いことが分かった。 2. 初期渦の発達過程について、H26年度に習得した初期渦の検出・追跡手法を全球高解像度(3.5 km 格子)計算データに適用し、台風の発生・発達過程における渦中心付近の温度や鉛直循環、潜熱加熱量の時間変化について詳細な解析を行った。モデルの物理過程や解像度を変えた計算を追加実施し、台風の中心気圧の低下が顕著なケースでは渦中心付近に深い対流が連続的に発生することにより効率的に鉛直循環が強まることが確認された。 3. 西太平洋夏季の基本場となるモンスーン循環と台風発生の関係について、全球非静力学モデルを用いた気候計算のデータを活用し、経年変動に着目した解析を行った。その結果、フィリピン海周辺のモンスーン循環に加え、赤道中部太平洋の東西風や太平洋高気圧の変動も台風の発生に影響を及ぼすことが示唆され、加えて季節進行に伴う月毎の特徴も検出された。 以上は、全球高解像度計算の台風研究や予測への利用可能性を示す先駆的試みとして意義がある。得られた研究成果を学会等において公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 平成26年度に行ったTY0608の事例研究を継続し、台風発生要因(環境場)が台風初期渦の発生過程に及ぼす影響について全球非静力学モデルを用いた感度計算(14 km格子)によって確認した。環境要因として(1)季節内振動あるいは(2)総観規模擾乱(波列)を除去した計算を行い、台風発生の可否、台風強度や発生タイミングへの影響を調べた結果、この事例においては季節内振動に伴う水蒸気変動の影響が力学的影響より大きかったことが示唆された。また、総観規模擾乱の影響については、擾乱に伴う渦度の深さに対する感度が高いことが分かった。力学的要因の感度調査においては、実験設定を注意深く選定する必要がある。研究協力者のTim Li 教授(ハワイ大学)と協議を行い、今後の方針を検討した。 2. TY0806の初期渦の発達過程について、全球高解像度(3.5 km格子)計算データを用いた詳細な解析を行い、急速な気圧低下の開始プロセスを追跡した。その結果、初期渦中心付近の対流活動に伴う補償下降流が渦中心域の発散や断熱昇温による温暖核の形成に寄与することが示唆された。得られた結果について、学会において発表し論文を投稿した。同解像度の計算および解析を追加して行い、モデルにおける台風の気圧低下率と雲による潜熱加熱量の関係の概要を把握した。 3. 西太平洋の夏季モンスーン循環と台風発生の関係について、長期データの解析に着手した(全球非静力学モデルを用いた気候計算データを利用)。太平洋高気圧の強度にも留意し(H26年度:今後の方策)、事例解析のみでは把握し難い経年変動に着目した解析を行った。その結果フィリピン海周辺の循環場に加え、赤道中部太平洋域の循環場や太平洋高気圧の変動も台風の発生に影響を及ぼすことが示唆された。研究協力者の菊地一佳博士(国際太平洋研究センター)を招聘し、得られた結果と今後の方針を協議した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年・27年度に開発した解析手法を用いて得られた結果をまとめ、対象期間を拡張して、一般性の検証や経年変動の理解に取り組む。具体的には項目1-3について得られた知見を更に明確化する。 1. 季節内振動や総観規模擾乱に関しては、既存の計算結果をベースに大規模場の風速や湿度場に変更を加えた感度計算を追加実施し、これまでに得られた知見を補強する。加えて、初期渦の台風への発達を抑制する要因(東西風の鉛直シアー等)の影響に関する解析を行う。 2. 初期渦の中心付近の構造変化に関して、雲による潜熱放出に関する解析を継続し、台風強度まで発達する渦と発達しない渦の違いを明確にする。これまでの実験の結果を踏まえた感度計算を行い、仮説を検証する。 3. 全球非静力学モデルによる気候計算データ(1979-2008年)を活用し、モンスーン循環の強さや季節内振動の活動度と台風発生との関係について知見を獲得する。 1.2.については、それぞれについて全球非静力学モデルを用いた十分な数の感度計算を行うことにより、得られた知見を確認する。計算対象年(事例)として当初計画では2008年のほか2013年と2010年を想定していたが、これまでに2011-2015年の各年夏季を対象とする予測計算を行っておりデータが利用可能であることや、気候計算のデータも利用可能になったこと、加えて夏季西太平洋の台風を対象とする全球非静力学モデルの比較実験プロジェクトに参加し始めた等の事情から、対象期間は制約しない。データ解析にはH27年度に導入したDISK装置を活用する。以上を連携研究者や研究協力者らと協議しながら進める。
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Causes of Carryover |
海外の研究協力者との研究打合せについて、当該年度に日本で開催された国際学会やワークショップの機会に依頼出張により行うことができたことにより未使用額が生じた。 打合せのための海外出張は次年度に行う。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
数値計算の設定の検討や計算データの解析を海外の研究協力者と共同して行い、研究成果を国内外の学会において発表するため、外国出張および内国出張の旅費に使用する。また、研究成果発表のための学会参加や論文投稿のための費用に充てる。
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