2015 Fiscal Year Research-status Report
プレート境界堆積盆地における津波・洪水堆積物の認識とその地層形成上の役割
Project/Area Number |
26400486
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
保柳 康一 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (30202302)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 洪水堆積物 / 津波堆積物 / 3.11津波 / 貞観津波 / 仁和洪水 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き,洪水堆積物については長野市塩崎においてジオスライサーによる2m試料の採取をおこなった.また,津波堆積物については,福島県南相馬市小高区井田川地区で,ジオスライサーによる2m試料に加えて,完新世の津波堆積物採取と堆積環境変遷研究のため,完新統26.5mを掘削し,鮮新統大年寺層に達するボーリング調査を実施した. 長野県の千曲川洪水堆積物については,河川より離れた氾濫原では,数枚の砂質堆積物が観察されるが,それが888年の洪水に起因するものかは,現状では不明である. 一方,南相馬市小高でのボーリング調査では,次のことが明らかになった.最終氷期後,堆積環境は下部外浜から内側陸棚の外洋にさらされた環境から内湾環境へと変化し,数回の海進・海退を繰り返し,再び外洋へと変化した.さらに,海退により内湾へと変化し,その後の人為的な埋め立てにより現在の陸域環境へ変化した.内湾堆積物中にイベント性の砂質堆積物が複数確認できたことから,津波などにより海側から砂質堆積物の運搬が複数回あったと考えられる.特に,コア上部のイベント性の砂質堆積物は津波に伴い運搬されたものである可能性が高い.放射性炭素同位体年代からこのイベント堆積物は貞観津波によるものである可能性が高い.コア最上部の砂質堆積物とその上位を覆う泥質堆積物は東日本大震災に伴い発生した津波によって形成された3.11津波堆積物である.なお,この地域は,氷期後の8000年頃より,海進して外洋環境からエスチュアリー(内湾)となって,そこに何層かの津波堆積物が流入していると考えられる.さらに,堆積学的な検討と年代データを増やすことにより,これらの砂層の起源の詳細を明らかすることが可能である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長野市の塩崎遺跡における,千曲川洪水堆積物のジオスライサーによる2m試料の採取は,26年度,27年度とも長野県埋蔵文化財センターの協力で,順調におこなわれている,しかし,耕作による人的擾乱が激しく,河川近くの自然堤防で認められている888年の仁和洪水堆積物を確実に氾濫原遠方に追跡することは難しい,これらの砂層の対比手段を考える必要がある. 一方,南相馬市小高地区におけるジオスライサー試料採取,およびボーリング調査は順調に進み,試料の分析をおこなっている.堆積相解析はほぼ終了しているが,粒度分析,かさ密度測定,化学分析などが必要である.特に,最上部については,人為的な埋め立てによって,かなり圧密されており,その効果を除いて堆積速度を求めて,年代モデルを作成する必要があり,かさ密度測定を進めている. これらの試料の分析により,28年度はまとめに入る予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
千曲川洪水堆積物については,長野県埋蔵文化財センターの発掘が氾濫原側に広がるので,協力を得て発掘現場での観察と試料採取を進める.それらの試料について,堆積相解析,粒度分析,年代決定をおこない,西暦888年の仁和洪水堆積物の認定とその出水過程を明らかにする. 南相馬市小高地区の津波堆積物は,28年度はコアの化学分析分析と年代決定を中心に進め,過去の津波襲来時期の特定や津波後の環境変化を復元する. なお,26年度,27年度におこなったジオスライサーによって採取された深度2mまでの試料に基づく3.11津波の小高区井田川における堆積物分布などの研究成果をまとめて和文論文として公表する.また,同地区で27年度に採取したボーリングコア分析に基づく,1万年間の堆積物中に見られる津波堆積物の認定と堆積環境変化についても論文としてまとめ発表する.
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