2014 Fiscal Year Research-status Report
変動帯における底生動物生態系の詳細マッピング -プレート運動がうみだす生物多様性
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26400503
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
延原 尊美 静岡大学, 教育学部, 教授 (30262843)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
椎野 勇太 新潟大学, 自然科学系, 助教 (60635134)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生物多様性 / 軟体動物 / サンゴ類 / 腕足動物 / 堆積環境 / 海底地形 / 東海沖 / 古生態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
地質調査所によって1977年に駿河湾全域で行われた堆積学調査の採泥試料(全200地点),および1997年に東海沖全域で行われたGH97, GA97航海の採泥試料(全262地点)について,大型底生動物遺骸(軟体動物,腕足動物,サンゴ類)のソーティング作業を行い,分類学的に問題の残る一部を除きあらかたの同定作業を終えた.その結果,軟体動物では二枚貝192属296種(巻貝類については251属417種以上),腕足動物18属33種,サンゴ類41属67種が識別され,海域・水深ごとに特徴的な種の組み合わせ(遺骸群集型)を認定できた. 次に,各採泥地点の位置情報を赤色立体海底地形図にプロットし,遺骸群集型の分布と海底地形との対応を比較した.従来,生物群集の分布は水深や底質により説明がなされてきたが,海底地形や堆積場の特性によっても大きく左右されることを明示する上での基礎データをまとめることができた.海底地形は急速埋積や有機物の再懸濁の起こりやすさを左右するが,それぞれの底生動物の移動能力がその分布を説明する上で重要であることが示唆された. なお,東海沖の陸棚斜面には複数種のオオシラスナガイの近縁種が生息するがその分類は混乱している.この分類の混乱を解決することは,陸棚斜面における種多様性を記載する上で重要である.そこでそのうちの一種であるミノシラスナガイについて,千葉県茂原の模式産地において標本の採取と産状の検討,あわせて国立科学博物館所蔵の現生ミノシラスナガイの太平洋側集団標本について殻形質の集団変異を検討し,東海沖の標本群との比較を行った.その結果,ミノシラスナガイは黒潮域の陸棚外縁部に生息するオオシラスナガイの集団とは形質が連続せず,北方域水塊に由来し中層水塊に侵入した別種である可能性が示唆された.この成果の一部については,第146回古生物学会例会にて口頭発表を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画では,大型底生動物遺骸のソーティングと同定作業をあらかた終えること,そして軟体動物,腕足動物,サンゴ類の異なる分類群間で分布を照らしあわせることで,各採泥点の遺骸群集の特性を議論することを目標としていた.これに対し,分類が混乱している一部を除けば一次リストがほぼ完成した.また,各採泥地点の正確な位置についても赤色立体地形図にプロットしGoogle Earth上で閲覧しながら地形的なセッテイングを議論できるようになった.さらには予察的ではあるが,海底地形と遺骸群集型の対応関係について傾向をとらえ,第146回古生物学会例会にてそれらの結果についての打ち合わせを行うこともできた.群集型の分布傾向についてはメール等でも議論し,底生動物の移動能力と急速埋積への耐性を捉える必要があることが確認され,重要な分類群について飼育実験の準備を開始した. なお,分類学的に混乱している種群については,代表種や多産種について調査を開始した.そのうちミノシラスナガイについては模式産地での標本の採取や現生集団における殻形質の変異を検討し,その成果については学会発表を行うことができた.しかしながら,いまだなお分類学的に検討すべき種群は多く残されている.生息環境と種多様性との関係を論じる上で重要な分類群に研究対象を絞って同定作業を継続していく必要性がでてきた. なお,生物多様性の特に高い地点については場所が特定できたものの,当初予定していた殻のAMS年代測定については測定試料の選び出しを次年度以降にすることとなった.また,今回認められた東海沖の現生の遺骸群集型と代表的な化石群集の照らしあわせについては,ミノシラスナガイの化石産地をのぞけば調査地候補を絞るにとどまった.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に作成した分類群の一次リストを見直し,同定にいたらなかった試料については文献等を購入して再検討を行う.また,分類学的に問題の残っている主要種については,博物館での標本調査を継続して行う予定である.これらの作業を通じて得られた未記載種や分布新発見等の知見については,順次,学会発表・論文作成に取りかかる予定である. 初年度に二枚貝類を中心に識別された遺骸群集型については,軟体動物,腕足動物,サンゴ類を統合した形で再整理し,優占種,多様性,構成種の食性・生活型の観点から記載し,論文作成を進める.また相同性の高い化石群集についても参考データとして付与できるよう補足調査を行う. また,赤色立体地形図に大型底生動物の遺骸量・種多様性等をプロットした図を作成し,種多様性の高い地点を絞り込んで,遺骸殻のAMS年代測定を業者に依頼する.それらのデータをもとに遺骸群集の形成過程,共に遺骸として採取された分類群の同時生息の判定等を行い,深海域における種多様性のホットスポットの成立条件について検討する予定である. なお,遺骸群集の分布傾向をとらえた結果,急速な堆積作用への耐性が分布を左右する原因としてうかびあがってきた.これに対して主要分類群(とくに懸濁物食二枚貝類と堆積物食二枚貝類)の移動・脱出能力を検証するために,試作した簡易飼育装置を用いて,人工埋積実験等で行動観察を行う予定である.
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Causes of Carryover |
軟体動物の分類学に関する文献を購入する予定であったが,ソーティングや一次分類に時間がかかっため,必要文献の購入までには至らなかった.また分類の混乱している分類群は多く,その中から海底地形と種多様性との関係を論じる上で重要なものについて絞り込みを行っていたこともあり,購入を次年度に行うこととした. 遺骸殻のAMS年代測定に関しては,一試料あたりの依頼測定料が高額であるため,種多様性の高い地点にしぼって,遺骸群集の形成や互いの同時生息関係の特定を行う計画である.このため底生動物遺骸の一次同定リストの完成をまって,測定対象を絞り込んだところ.伊豆諸島周辺,遠州灘沖海底谷入り口周辺が候補となった,しかしながら,遺骸殻の保存状況などを検討しながら測定対象の試料を選別する必要があり,次年度に実施することとした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
伊豆諸島沖には分布新知見となる熱帯系種や新種と思われる軟体動物殻が見つかっている.それらの分類群を特定するために,アジア・南方海域の貝類に関する文献を中心に購入を検討している.なお,近年,軟体動物の分類は分子系統学的な進展を受け大きく変わりつつあり,最新の分類体系を網羅したモノグラフ等も購入対象とする. AMS年代測定に関しては,伊豆諸島周辺の多様性が高い1地点,遠州灘沖の海底谷入り口周辺から2地点を対象に,群体サンゴ,二枚貝類,腕足類を対象に,それぞれもっとも保存度のよいものと悪いものとを測定する予定である.いずれも本年度後半,測定業者に10~15試料程度をめどに依頼する.これにより,遺骸群の形成年代および堆積期間,互いの分類群の同時生息性を確認する.
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Research Products
(1 results)