2016 Fiscal Year Research-status Report
変動帯における底生動物生態系の詳細マッピング -プレート運動がうみだす生物多様性
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26400503
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
延原 尊美 静岡大学, 教育学部, 教授 (30262843)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
椎野 勇太 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (60635134)
徳田 悠希 公立鳥取環境大学, 環境学部, 講師 (30779765)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 生物多様性 / 軟体動物 / サンゴ類 / 腕足動物 / 堆積環境 / 海底地形 / 東海沖 / 古生態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
東海沖の大型底生動物遺骸(貝類、腕足類、サンゴ類)について種リストがほぼ完成し、海上保安庁水路部等のデータをもとに50mDEMで作成された赤色立体地形図にそれらの分布をプロットした。その結果、堆積速度や物理的撹乱などの堆積学的特性によって種の分布が左右される様子が明らかとなった。すなわち、波浪等で海底攪拌が起こりうる内側陸棚では、ホシムシ類に牽引させて移動する単体サンゴ類や内生生活型二枚貝類など、移動能力の高い要素のみが分布し、とくにファンデルタ近傍では、急速埋没からの脱出能力の高い堆積物食二枚貝類で優占される。これに対して外側陸棚では、表生懸濁物食二枚貝類や、自由生活型の単体サンゴ類、腕足類などの移動能力に劣る要素が増加し、とくにバンク、海脚、火山島周辺では固着生活者が優占する。陸棚斜面では、地形的高所と海底谷で群集組成が異なり、高所では懸濁物食二枚貝類や群体サンゴ類が、海底谷では堆積物食二枚貝類が優占する。 なお、伊豆半島沖の火山島の島棚斜面には、群体サンゴ類が大量集積し、貝類、腕足類も多様性が高い。このような特異点では、礁構築による再懸濁や微生息環境の分化が進むことが考えられ、深海における生物多様性に寄与している可能性がある。本成果は日本古生物学会第166回例会にて発表を行った。 底生動物のもつ移動能力は、上記のように急速埋積への耐性や餌資源の探査に直接関わっており、足の機能を中心とした移動メカニズムの進化は、底生動物の生息可能な場の拡大や繁栄の歴史を読み解く上で重要である。現在、様々な底生動物について飼育下での行動観察を行い、移動の動機や移動メカニズムを検証している。化学合成二枚貝であるシロウリガイ類については、硫化水素を得るために好適な生息スポットを求めて移動を繰り返している可能性が示唆され、ブルーアース2017において学会発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
東海沖の底生動物遺骸について、分布データベースを整備し各種の分布特性の傾向を抽出することはできた。これにより当初の目的であった変動帯における海底生態系マップの構築はほぼ完成したといえる。また、分類学的に混乱していたシラスナガイ類等の一部の二枚貝類についても、タイプ標本の検討を通してようやく同定作業が終了し、近縁種間で地形によって棲み分けている典型例を提示することも可能となった。しかしながら、いまだ一部の希少種や分類学的に混乱しているグループについては、種レベルでの識別はできるものの、既存種への同定あるいは新種としての認定に時間がかかるものがある。このため、種リストおよび分布データ自体の論文としての公表までには至らなかった。 また未同定種に関連する遺骸殻の中には、遺骸群集の形成や時代を考察する上で重要なものもあり、殻の一部破壊を伴うAMS年代測定のための試料選定については候補をあげるにとどまっている。このため、本研究課題の目的の一つである遺骸群集の形成過程の解明については十分な結果を得られていない。終了年度を一年延長し、同定作業を確定した上で年代測定を行い、上記課題に引き続き取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
大型底生動物の遺骸群集の中でも、火山島の島棚斜面等の地形的な高所では深海環境にもかかわらず高い種多様性を示すことがある。これらのサイトには群体サンゴが大量に集積しており、構造物としての礁が多様な微生息環境を作り出し、深海底生動物の種多様性を高めることに貢献している可能性がある。その一方で、堆積速度が遅いことから見かけ上、種数が増加している可能性もある。そこで、同定作業を完了させ種リストを公表する一方で、保存状態の良いものから悪いものまで、代表的な遺骸試料についてAMS年代測定を行う。これらのデータをもとに堆積期間中の水深、古気候の変化も考慮にいれて遺骸群集の形成過程を検討し、深海の礁構造が種多様性に与える効果について考察を行う。 また開発された簡易飼育装置では、現在、深海性二枚貝類が長期飼育されているが、移動・摂餌のメカニズムを解明するために行動観察を行うとともに、軟体部の解剖や電子顕微鏡での組織観察を行う。
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Causes of Carryover |
一部の希少種や分類学的に混乱しているグループについては、既存種への同定あるいは新種としての認定に至らなかった。深海での種多様性が高い、冷水サンゴ礁の可能性のあるサイトにおいてはとくに未同定の標本が多い。これらの種多様性の高い遺骸群集の形成期間を特定するためには、代表的試料についてAMS年代測定を行う必要があるが、測定には殻の一部破壊を伴うため、同定作業が完了するまで測定を保留し、次年度に年代測定を業者依頼することとした。また日本産の海生軟体動物に関しては、新たなモノグラフが出版されることもあり、最新の分類体系にそった形で種リストを公表したいと考えた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
冷水サンゴ礁の可能性のあるサイトについて、優先的に同定作業を進め、保存状態の段階別に10試料を目安として、AMS年代測定を業者に発注する。発注はすくなくとも9月までには行う。年代測定の結果を考慮に入れて、遺骸群集の形成期間、当時の海水準、古気候等を特定し、種多様性の高い遺骸群集が形成された背景について考察を行う。また、日本産の海生軟体動物に関する新たな出版物を購入し、種リストの一部を改訂、公表する。
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Research Products
(10 results)