2014 Fiscal Year Research-status Report
負イオン源における負イオン引き出し機構・負イオンビーム光学特性の解明
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26400533
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Research Institution | Naruto University of Education |
Principal Investigator |
宮本 賢治 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (00532996)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プラズマ / 核融合 / 負イオン源 / 加速器 / シミュレーション / イオンビーム光学 / PIC法 |
Outline of Annual Research Achievements |
負イオン源で生成される負イオンビームには、ビームハロと呼ばれるビーム発散角の大きな成分が含まれることが実験的に確認されている。ビームハロは負イオンビーム電流値の損失や絶縁破壊の原因となり、その抑制は喫緊の課題であるが、物理機構は未だ解明されていない。本研究では、3次元PIC数値計算コードとモンテカルロ計算との結合によるPIC-MCC結合コードを構築し、負イオン引き出しの物理機構と負イオンビームの光学的特性、特にビームハロの発生要因の解明を目的とする。 負イオンビームの光学的特性は、負イオン放出面形状に左右されると言っても過言ではない。そこで、これを詳細にモデリングするために、今年度はPICコードの3次元化を行い、負イオン源の放電プラズマから引き出し部までの領域をモデリングした。 まず2次元PICコードでは再現されない物理現象として、電子のE x Bドリフトによる空間非一様性が報告されている。この空間非一様性が、引き出し領域における負イオン放出面の形状に及ぼす影響について検討した。その結果、負イオン引き出し用の電界とフィルター磁場や電子抑制磁場によるE×Bドリフトの影響で、プラズマ電極の近傍では電子分布が非対称性となることが分かった。さらに、電子分布の非対称性に伴い、プラズマメニスカスも非対称となる。プラズマメニスカスの非対称性から、負イオンビームプロファイルも非対称性となることを明らかにした。 次に3次元PICコードを用いて計算した引出部までの負イオンビーム軌道を基にして、加速部の負イオンビーム軌道を市販の計算コードを用いて計算した。その際に、引出部出口から20 mm離れた面の電位を境界条件とした。負イオンビーム軌道計算結果から加速部内の各電極熱負荷を求め、実験結果と比較した結果、PICコードの3次元化により、電極熱負荷の定量評価が改善したことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の実施計画は、3次元PICコードの開発と電子のE x Bドリフトによる空間非一様性が、引き出し領域における負イオン放出面の形状や負イオンビームプロファイルに及ぼす影響の検討であり、これについては計画通りに進展した。 上記に加えて、平成28年度に実施予定である加速部の3枚の電極(A1G, A2G, GRG)へ流入する負イオンの寄与による熱負荷の評価を先行して行った。今年度、開発した3次元PICコードとモンテカルロ計算との結合によるPIC-MCC結合コードの構築はまだ実施していないが、PICコードの3次元化による効果について評価した。その結果、A2GとGRGの電極熱負荷については実験結果とほぼ一致することが示された。また、A1G,A2Gの電極熱負荷の定量評価が、2次元PICコードの結果に比べて、顕著に改善したことを確認した。 さらに、平成27年度に実施予定であるPICコードとモンテカルロ計算との結合によるPIC-MCC結合コードの構築については、2次元PICにおいて相互中性化過程(H+ + H- →H + H)のモンテカルロ計算との結合を行った。ここで培ったモデリングの手法は、3次元PICを用いたPIC-MCC結合コードの構築へ活かされると考えられる。 以上から、当初の計画以上に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度については、平成26年度に開発した3次元PICコードとモンテカルロ計算を結合したPIC-MCC結合コードを構築する。モンテカルロ計算では、負イオンと中性粒子や電子、イオンとの衝突過程をモデル化する際に、ヌル衝突法を用いて計算の効率化を図る。キャビティリングダウンやHα分光測定による負イオン密度の空間分布に関する実験データが指摘しているように、プラズマ電極(PG)表面で生成された負イオンが、PGから十分離れたソースプラズマへ戻った後に、引き出し用の電界によって引き出されるかどうかを検討する。また、このようにソースプラズマに戻ってから引き出された負イオンと、PG表面で生成された直後に、引き出し用の電界で引き出された負イオンとのビーム光学特性を比較する。 平成28年度については、平成27年度に開発したPIC-MCC結合コードを負イオン源加速部まで拡張して、放電プラズマから加速部までの総合的なモデリングにより負イオンビーム軌道を計算するか、または負イオン引き出し領域については平成27年度に開発したPIC-MCC結合コードを用いて負イオン放出面や負イオンビーム軌道を計算し、負イオン引き出し領域から負イオン源加速部までは別の電磁界計算・イオンビーム軌道計算ソフトウェアを用いて負イオンビーム軌道を計算する。両者とも従来の3次元イオンビーム軌道計算とは異なり、負イオン放出面を自己矛盾なく解ける。よって、従来の3次元イオンビーム軌道計算コードでは再現できなかったビームハロのような詳細な負イオンビーム軌道解析が可能になる。加速部の各電極へ流入する負イオンからの寄与による熱負荷や負イオンビームプロファイル、エミッタンスについて、数値計算結果と実験結果とを比較・検討する。特に負イオン放出面形状の端部から放出された負イオンがビームハロの発生要因なのかどうか等、発生の物理機構を考察する。
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Causes of Carryover |
甲状腺機能亢進症の投薬治療を行っているが、今年度はこの病気の眼に係る病状が悪化したことにより、当初、計画していた出張を何件か中止した。そのため、旅費を十分に使用できなかったので、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初、計画していた以上に研究が進展しており、次年度使用額を研究成果の論文投稿費か、または学会発表用の旅費で使用したいと考えている。甲状腺機能亢進症については昨年度から新たに眼の治療を行っており、体調面はおおむね回復状態にある。そのため、この使用計画は実施可能であると思われる。
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