2015 Fiscal Year Research-status Report
電子衝撃によるプラズマプロセシングガスの励起およびフラグメント生成断面積の測定
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26400536
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
酒井 康弘 東邦大学, 理学部, 教授 (90235127)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プラズマプロセス / 混合ガス法 / 微分断面積 / エネルギー損失分光法 / 同位体効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子衝撃によるプラズマプロセスガス分子の励起断面積やフラグメント生成断面積は,エッチングやスパッタリングによる成膜過程において重要である.プラズマプロセスを精密に制御するためには,成膜速度や質を決定している要因が何であるかを明らかにする必要があるが,プロセスガスの多くが毒性や可燃性をもつことから現状では実験データが少ない.そこで本研究では,散乱電子と生成イオンの同時計測法を用いて,その励起断面積やフラグメント生成断面積の絶対値を得ることを目的とした.昨年度は,断面積の絶対値化のための方法として,relative flow法に代わる混合ガス法をほぼ確立することができた.混合ガス法は,微分断面積を知りたい原子・分子のガスと,ヘリウム(He)をあらかじめ混合させたガスを用いて一度にHeと標的原子・分子のエネルギー損失スペクトルを得る.微分断面積の絶対値化には,混合ガスの質量比をパラメータとしているが,基準ガスであるHeよりも軽い水素分子では質量比だけでは誤差が大きいことが見出されていた.そこで,今年度は混合ガス法の一般化を確実にするために重水素分子(D_2)を標的とした実験を行ったほか,四フッ化炭素(CF_4)の実験に取り掛かった.また,窒素に関する実験についての結果を整理し,国際会議で発表した. D_2に関する実験では,衝突電子エネルギー200eV,散乱角6degにおいて,散乱電子と生成イオンとの同時計測を行った.実験結果より,二重微分断面積とD+,D_2+の生成断面積を励起エネルギー(エネルギー損失値)の関数として決定し、特に,D_2の場合,最低の2電子励起状態からは,イオン化解離によるD+生成よりも中性解離によるDの生成割合が大きいことを示した.CF_4の実験については,衝突電子エネルギー200eV,散乱角3.7degでの電子エネルギー損失スペクトルを得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度までの研究で,混合ガス法の一般化はほぼ達成され,窒素(N_2)に関する結果を国際会議で発表(講演者:研究協力者,M2,長谷川徹)することができた.また,混合ガス法の一般化を確実にするためのD_2の実験は順調に進み,秋の時点で原子衝突学会第40回年会において発表(招待講演:研究協力者,博士研究員,高橋果林)することができた.現在,論文にまとめるべく執筆中である.さらに,一方で,プラズマプロセスガス実験のための簡易排ガス処理装置の整備はほぼ終了し,CF_4を標的とする実験に取り掛かることができた.一方で,予定されていたメタン(CH_4)分子標的および,重水素化メタン(CD_4)の実験を飛ばしてCF_4に進んだことから,現在までの達成度を「(3)やや遅れている.」とした. CH_4及びCD_4に関する実験を省いたのは,D_2の実験では水素(H_2)に比べて解離生成されるD+イオンの生成断面積が半分程度と少なく,統計を稼ぐために思いのほか時間を費やしたことによる.当初,1標的につき3か月の実験期間を考えていたが,D_2標的では6か月以上を要した.このため,最終段階に向けてできるだけ早くプラズマプロセスガスのうちフルオロカーボン系のCF_4の実験に早くと取り掛かりたいと考えた.H_2とD_2の実験における解離生成フラグメントイオンの生成量の違いは,いわゆる同位体効果によるものと考えることはできるが,そのメカニズムは今のところ不明である.しかしながら,その効果は深く考える価値があると思われる.電子衝撃によるD_2のイオン化解離,中性解離に顕著な同位体校がある場合,プラズマプロセスの面からはH_2ガスでなくD_2ガスを用いた方が都合がいい可能性が示唆される.また,同様な観点からは,今回CF_4へと歩みを進めたが,やはりCH_4及びCD_4に関する実験は必要であると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の研究は,オリジナルのものから若干変更されていた.それは,混合ガス法の一般化のために,D_2標的の実験を挿入したことである.この実験に時間を要したこともあり,2年目の実験でもCH_4及びCD_4を標的とする実験を割愛し,CF_4へと歩みを進めた.研究計画では他のプロセスガス(NF_3やBCl_3,C_2F_6,WF_6)の実験を行う予定であったが,実験計画を変更し,まずCF_4の実験を優先し,散乱電子と生成イオンの同時計測実験を行い,二重イオン化断面積及び生成フラグメントイオンの生成断面積を測定する.その後,CH_4および,CD_4の実験に進むものとする.残念ながら,NF_3やBCl_3,C_2F_6,WF_6といったプロセスガスのデータ取得はあきらめることになるが,CH_4についてのデータは十分にプラズマプロセスの初期過程の解明に貢献できるはずである.また,CD_4の実験結果は,姿を見せ始めている同位体効果の解明に一役を担うものである.確認作業も含めて,1標的につき3か月の実験期間を考えているので.年間3標的の実験は可能であると考えている. また,N_2に関しては論文執筆を,D_2に関しては学会発表と論文執筆を計画している.さらに,CF_4についても少なくとも学会発表を,CH_4および,CD_4についても同様に考えている. 以上のように,多種のプラズマプロセスガスへの拡張は果たせないものの,D_2,CF_4及び,CH_4,CD_4のデータを得ることで,本研究の目的である「電子衝撃によるプラズマプロセシングガスの励起およびフラグメント生成断面積の測定」を成し遂げることができると考えている.
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