2014 Fiscal Year Research-status Report
一電子還元反応モデルとしての新規な気相クラスター錯体の創生とその光反応特性
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26410004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永田 敬 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10164211)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 一電子還元反応 / 双極子束縛状態 / 分子クラスター / 水素結合ネットワーク / 光電子円二色性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、気相における溶液反応の追跡(probing solution chemistry in the gas phase)という発想に立ち、分子・水素結合ネットワーク・余剰電子が双極子束縛によって会合した新規な気相クラスター錯体M・(H2O)n・{e-}の構造と光反応特性を分光法と量子化学計算によって明らかにし、その特性を利用して一電子還元反応における過渡的な電子捕獲状態[M-]*の形成やM-イオンの水和安定化など、溶液中では直接に捉えることが困難な還元反応の分子ダイナミクスに関する知見を得ることを目的としている。この目的に沿って以下を実施した。 1. これまでにM・(H2O)n・{e-}の生成が確認されたニトロメタン、二酸化炭素の系に加え、Mとしてピリジン、アセトアルデヒド、アセトン、アセトニトリルを用いた系について光電子分光法によって双極子束縛状態の生成を確認し、さらに赤外光解離で生成するM-・(H2O)mのサイズ分布がM-の水和安定化エネルギーと熱化学的に強い相関があり、M・(H2O)n・{e-}が一電子還元溶液反応のミクロモデル系として機能することを明らかにした。 2. 非水溶液下の一電子還元試剤であるスーパーオキシド(O2-・)を1~2個の水分子でミクロ溶媒和することによって付加反応性を増大させ、ONOOCO2- (nitrosoperoxycarbonate)など、これまでに溶液中では単離同定できなかった反応中間体を生成し、その電子構造と反応特性を明らかにした。 3. M・(H2O)n・{e-}の構造推定に有効と考えられる新たな分光手法として光電子円二色性測定を導入し、キラル分子を含んだ負イオンおよび水和物を対象にした試行測定によって、キラル敏感な分光観測が可能であることを実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度に計画していた生体関連分子などの大きな分子を含むM・(H2O)n・{e-}の生成、赤外前期解離分光によるM・(H2O)n・{e-}の振動構造解析に関する進捗状況は必ずしも当初の期待通りではないが、溶液一電子還元反応モデルとしてのM・(H2O)n・{e-}の光反応特性の解明については一定の成果が得られた。また、光電子円二色性測定の導入やスーパーオキシドを含む反応系に関する新たな知見が得られる等の進捗があった。
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Strategy for Future Research Activity |
前項「研究実績の概要」で述べたピリジン、アセトアルデヒド、アセトン、アセトニトリルを含む系について更に測定を重ねてデータの精度を向上させ、一電子還元モデル系としてのM・(H2O)n・{e-}の系統的な光反応特性を特定して公表する。一方、M・(H2O)n・{e-}の構造については、我々がこれらの新規な双極子束縛型負イオンを見出した当初から、dual dipole-bound型M…{e-}…(H2O)nであるか、dipole assisted型M…(H2O)n…{e-}であるかに関する議論があったが、予備的な赤外前期解離分光測定および量子化学計算から、振動分光的に両者を区別することが困難である可能性が浮上してきた。そのため、M・(H2O)n・{e-}に束縛されている余剰電子が光脱離する際に近接分子と散乱を起こす現象を利用して{e-}とMのクラスター内相互配置に関する情報を得る可能性を模索して、当初の計画にはなかったレーザー光脱離分光における光電子円二色性の観測を新たに導入した。今後、この手法の測定精度を向上させ、(生体関連の)キラル分子を含むM・(H2O)n・{e-}系に適用することを目指す。
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Causes of Carryover |
前述の「今後の研究の推進方策」の項で述べたように、研究計画段階で想定した赤外前期解離分光測定によるM・(H2O)n・{e-}の構造推定の研究部分に関しては、予備的な分光測定から必ずしも有効な成果が得られない可能性が生じたため、この測定のために計画していた海外研究者との共同実験の実施を延期した。これにより、その実施に係る旅費分が残額となり、次年度使用額が生じたものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は,海外研究者との共同研究による赤外前期解離分光測定の実効性を慎重に検討し,実施する場合には昨年度残額をその旅費に充てる。また,必ずしも実効的ではないと判断した場合には,構造推定のために新たに導入した光電子円二色性測定の精度向上に充てる。
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