2016 Fiscal Year Research-status Report
活性酸素に着目した錯体形成に起因する光反応の分光研究
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26410006
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
渋谷 一彦 東京農工大学, 大学院生物システム応用科学府, 客員教授 (30126320)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 活性酸素 / 一重項酸素 / 錯体形成 / 二電子同時遷移 / 可視光吸収 / りん光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主要装置であるクライオスタットシステム「液体酸素の分光測定装置」の立上げが完了した。マイナス195℃までの低温領域で温度が可変な装置で、紫外可視から近赤外(200-800nm)で吸収スペクトルが測定でき、紫外可視から近赤外(300nm-2μm)の発光測定が可能である。液体酸素の吸収スペクトルを測定した。紫外領域と近赤外領域に酸素分子単体に起因するバンドが観測された。極めて強い紫外域のバンドは Schumann-Runge帯(<250nm)とHerzberg帯(<300nm)に帰属され、光解離によりオゾンが生成する。微弱な近赤外域の吸収は一重項酸素の生成と脱励起が起こり、その際、1.25μmのりん光を発する。300-750nmは酸素単体の窓領域で酸素二量体に起因するシャープなバンドが11本確認された。既存の分光データを基に電子振動遷移に帰属可能である。11本の各バンドの帰属と相対強度は下記の通りである。 励起一重項電子状態ペア 吸収強度(励起状態の各振動準位) 1Δg-1Δg 100(0):126(1):14(2):1(3) 1Σu-1Δg 51(0): 6(1):<1(2) 1Σu-1Σu 27(0): 51(1):13(2):3(3) ここでの吸収強度は、1Δg-1Δg(ゼロ点振動準位)への強度を100とした相対強度で示す。単分子では一重項励起状態(1Δgおよび1Σu)への電子遷移はゼロ点振動準位への強度が圧倒的に大きく、二量体で測定されたフランク・コンドンパターン(第一励起振動準位への遷移が極大強度であったりする等)と著しく異なる。さらに、各バンド線形も非対称であり、気相および固相での観測結果とも異なる。現在、アルゴン等の希ガスの添加による希釈の影響を測定している途中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
初期の実験計画では、外国製の市販装置を購入する予定であったが、為替変動の影響で世界の研究者間では圧倒的多数が使用している汎用型Oxford社製のクライオスタットセルが購入できなくなった。そこで国内の技術者に相談し、町工場での製作に切り替えた。結果的に、低コストで輸入品よりも高性能のセルが完成したが、時間的には大きな遅延を生じ、実験開始は大幅に遅れた。 純酸素の液化は予定通り実施できたが、酸素・アルゴンの混合気体は液化すると不透明・白濁化し、分光用モニター光の散乱のため、吸収スペクトル測定が困難となった。この問題の原因究明に月日を費やし、研究の遂行予定がさらに1年程遅れた。様々な原因をチェックした結果、「クライオスタットセル内での温度差が大きくなるとアルゴンがセル内の低温箇所でアルゴンが凝縮して白濁する」ことが分った。セル内での温度差を極力低下させた条件下で液化させる等の種々の改善策により現在では問題点は全て解決できている。アルゴンの凝固温度(-189℃)が酸素の液化温度(-183℃)に近いために生じた特種な問題であった。 現在は300-750nmの紫外可視領域で様々な環境下で酸素二量体の吸収スペクトルの測定を行っている段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
純粋酸素の系から希ガスで希釈した混合系に移行し、酸素二量体を取り囲む環境を変化させた際の吸収スペクトルの影響(強度、ピーク波長、スペクトル線型)を測定する。最終的には、既報の電子振動遷移の帰属法を修正する予定である。 液体系における吸収スペクトルの観測結果が、気相系および固相系での結果と異なるが、その相違を考察する。 近赤外りん光を観測し、励起一重項酸素二量体の反応・緩和過程を解明する。 最後に、研究成果を学会、専門誌等で発表する。
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Causes of Carryover |
当初、平成28年度で終了予定であったが、酸素・アルゴン混合系での分光測定がおよそ1年遅れたことにより、他の混合系での分光実験が繰り越しとなり、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
酸素液体の励起一重項状態に大きな溶媒効果をもつことが予想されているキセノンガス等の購入費用や、本研究成果の発表のための経費に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)