2015 Fiscal Year Research-status Report
酸素同位体の水を用いたメガヘルツから中赤外領域におけるスペクトルの完全測定
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26410015
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
富永 圭介 神戸大学, 学内共同利用施設等, 教授 (30202203)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 複素誘電率 / 誘電緩和 / 分子間振動 / デバイ緩和 / 水素結合 / H2(18O) / 水 / テラヘルツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、温度可変装置の製作・整備を行ない、3種類の水の同位体(H2O, D2O, H2(18O))について測定を行なった。200 MHzから20 GHzのマイクロ波帯を測定するベクトルネットワークアナライザ(VNA)については、恒温槽を用いて試料や誘電プローブを冷却する方法を採用し、D2Oについて0℃から90℃の範囲で測定を行い、既報のデータを再現することを確認した。VNAの測定では、各温度で校正を実施する必要があることを確認した。30 GHzから400 GHzのサブTHz帯、および5 cm-1から100 cm-1のTHz帯の複素誘電率を測定する時間領域THz分光装置については、分子科学研究所の装置開発室に依頼し冷媒を流す方式の液体組立セルを作成した。試料セルおよび参照セルを自動ステージで切り替え可能として、H2OおよびD2Oについて0℃付近から80℃付近まで測定した。またエアープラズマによるTHz波パルスの発生を行い、これにより350 cm-1までの複素誘電率の測定を行なった。これらのデータを二つのデバイ緩和と二つの減衰振動で線形解析を行なったところ、THz帯に成分を持つ速い緩和時間が温度に依存するという結果を得た。従来、この速い緩和時間は温度に依存しないと考えられてきたが、それと反する結果を得た。しかし、まだS/N比が十分ではなく測定の再現性を今後確認する。50 cm-1から600 cm-1の吸光係数を通常の遠赤外領域仕様のFTIRを用いて測定した。190 cm-1付近にピークを持つ水素結合分子間振動を三つの水の同位体で求めることができた。またMDシミュレーションと瞬間的基準振動解析法、さらに我々が開発した分子内振動と分子間振動を分離する方法を用いてTHz帯のスペクトル成分は水素結合の変角振動によるものであり、氷に比べると大きくゆがんだ変角振動であることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マイクロ波帯を測定するベクトルネットワークアナライザ(VNA)と二種類の時間領域THz分光装置について温度可変装置を製作することができ、精密測定が実際可能であることを確認することができた。当初、ペルチェ素子を用いて時間領域THz分光装置の液体セルを冷却することを考えていたが、分子科学研究所の装置開発室からの助言で冷媒を流す方式に変更し、装置製作を行なうことができた。また、遠赤外領域についてはエアープラズマ法による広帯域テラヘルツ波(15 cm-1から350 cm-1)による複素誘電率測定と通常の遠赤外領域仕様のFTIR分光器による吸収スペクトル測定を行うことができた。また、理論計算では、分子動力学計算とgaussian 03を用いた基準振動解析、さらに我々が独自に開発した、分子性結晶の格子振動で分子内振動と分子間振動を分離する方法を用いて、THz帯の液体の水の運動の特性を明らかにすることができた。特に、分子性結晶の手法をこの水の運動解析に使うことは当初考えておらず、連携研究者である分子科学研究所の斉藤教授との議論からアイデアを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、製作した温度可変のVNAと二種類の時間領域THz分光装置を用いて、三つの水の同位体で測定を繰り返し、実験データの再現を得る。そのデータに対して、複素誘電率に関するモデル関数(二つのデバイ緩和成分と二つの減衰振動成分)を用いてスペクトル解析を行なう。昨年度、速いデバイ緩和時間が温度に依存するという結果を得たが、その再現性を確認する。現在、以下の問題点が生じており、今後これを集中的に解決することを試みる。 1.100 cm-1以上の遠赤外領域の精密な複素誘電率のスペクトルが必要である。この振動数帯には二つの減衰振動が存在するが、その複素誘電率スペクトルを精密に求めることがTHz帯の速いデバイ緩和の時定数を求めることに直結している。現在、エアープラズマ法で350 cm-1までの複素誘電率の測定が可能であり、また遠赤外領域仕様のFTIR分光器で700 cm-1まで吸収スペクトルの測定が可能である。今後、二つの手法を併用して700 cm-1までの複素誘電率スペクトルを求めることを行なう。そのためには二つの装置で用いることのできる温度可変用液体セルの製作、およびKramers-Kronigの関係式を用いて吸収スペクトルから複素誘電率スペクトルを得ることを行なう。 2.現在、VNAでの測定上限周波数が20 GHz であり、サブTHz帯の分光装置の電磁波のパワースペクトルの下限が30 GHzであるが、実際にはサブTHz帯の装置ではサンプル部分で電磁波の集光が十分でないため、スペクトル測定可能な下限が40 ~ 50 GHzである。水の遅いデバイ緩和による複素誘電率スペクトルの虚部は20 ~ 40 GHzにピークをもつため、この周波数帯の精密測定は非常に重要である。そこで連携研究者の福井大の谷教授と相談し、サブTHz帯の時間領域分光装置の光学デザイン等を改良し測定周波数下限を改善させる。
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Causes of Carryover |
当初、二種類の時間領域THz分光装置の温度可変装置としてペルチェ素子を用いる構造を計画していたが、分子科学研究所の装置開発室との相談により冷媒を流す方式に変更し、装置開発室に作製を依頼した。温度可変の測定の確認にD2Oを用いており、昨年度はそれほど高価なH2(18O)を購入しなかった。また、H2(18O)を慎重に使用し測定しているため、使用量が少なくてすんでいる。28年度、装置の改良(エアープラズマ法によるテラヘルツ電磁波の発生とサブTHz帯の下限の改善)を行なう必要があり、レーザー分光実験に精通している研究者を雇用する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度は測定実験を行なうとともに、二つの装置の改良を行なう。すなわち、エアープラズマ法によるテラヘルツ電磁波の発生よる装置の測定条件の拡張とS/N比の改善である。THz帯のスペクトル成分の正確な評価には遠赤外領域のスペクトル成分の精密測定が不可欠であることがわかった。また、サブTHz帯の時間領域分光装置の測定下限周波数の改善を、連携研究者の福井大学の谷教授と相談して行なう。そのため、レーザー分光実験に精通している研究者を雇用する。また、本研究を国際学会で発表・討論するため、9月にイタリア・ピサで行なわれる広帯域誘電分光の国際学会に参加する。
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