2015 Fiscal Year Research-status Report
糖鎖結合性タンパク質の分子認識/反応機構に関する分子基盤の構築
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26410031
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
石田 豊和 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター, 主任研究員 (70443166)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | QM/MM計算 / 自由エネルギー計算 / 電子状態計算 / 分子動力学計算 / 糖鎖認識 / キャプシドタンパク質 / 分子間相互作用 / アミノ酸変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質と糖鎖との相互作用は生体内の種々の分子認識・酵素反応過程で重要であるが、複雑な構造とそれを認識する糖鎖結合性タンパク質(レクチン)の糖鎖認識機構の詳細は、依然として不明な点が多く残されている。本課題ではウィルスキャプシドタンパク質などの糖鎖認識系、および糖鎖を基質とする酵素反応系を取り上げて、独自のQM/MM計算を中心とした複合シミュレーション技術を適用することで、弱い相互作用で反応する分子の基質認識および化学反応機構の原理を明らかにする。
糖鎖認識系のターゲットとしてはノロウィルスキャプシドタンパク質を取り上げて、実験構造を基礎に複合体の分子モデルを構築し、糖鎖認識の差異を生み出す分子機構を理論計算から解析した。複雑な糖鎖構造間の結合自由エネルギーを直接評価することは難しいと考えられるので、まずは糖鎖構造を典型的な糖鎖に固定して、アミノ酸変異が分子認識に及ぼす影響を自由エネルギー変化から解析する手法を考察し、結合サイトの構造パラメータと結合エネルギーの相関を解析した。本研究の重要な成果として、アミノ酸変異が及ぼすタンパク質と糖鎖の相互作用変化の程度よりも、局所的な構造変化に起因した溶媒和の変化の寄与が大きく、タンパク質側との相互作用をいくら精密に解析しても、溶媒和環境の適切な評価ができなければ糖鎖結合の強弱が予想できないことを明らかにした。
さらに自由エネルギー計算の問題点として、内部自由度が大きく比較的大きな基質が結合した場合の結合エネルギー変化を見積もること自身が容易ではなく、手法に伴う計算誤差と結合自由エネルギー差がほぼ同じオーダーで出てくるため、効率的な自由エネルギー計算手法の再検討が必要だと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
糖鎖構造を固定して一アミノ酸変化が糖鎖結合に与えるエネルギー変化を自由エネルギー計算から評価すること自体はすでに完了しており、必要なデータ解析、エネルギー差の見積もりも終了している。またこれとは別に、糖鎖構造自体を変化させたキャプシドタンパク質複合体のモデル化、QM/MM計算による構造精密化とエネルギー解析、複合体の分子動力学計算も並行して進んでいるので、計算科学研究自体としては、およそ当初計画通りに進行していると考えている。
ただ一番の問題は、研究実績の概要でも記載したように、計算から見積もられる自由エネルギー変化が非常に小さい値であり、計算手法に伴う誤差から切り離すことが難しいことと、また特に、比較となるべく実験データが現状ではほとんど存在しないために、結果の検証が計算ベースに頼らざるを得ない点にある。計算結果の検証のために、糖鎖の分子力場パラメータを数パターン用意して結合自由エネルギー計算を何度も繰り返し、計算結果の信頼性を何度も検証したために論文発表用のデータを揃えるのに随分と時間を要してしまった。この点を考慮して、表題の達成度の自己評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
理論計算の方向性、その際に用いる計算手法やプログラムに関しては、これまで作成してきた独自プログラムに修正を加えることで対応可能だと考えている。ただ最大の問題点は、対象とする系全般に関して共通する事実であるが、実験から得られるデータが巨視的な現象論的事実に限られて、分子スケールの反応過程に関する情報があまりにも少なく、計算結果と実験事実の直接の比較や対応が非常に困難な点にある。
ノロウィルスキャプシドタンパク質に関しては、当初は国内から発表された実験構造を元にモデル化を行ったが、理論計算から得られる自由エネルギー計算結果と比較、考察できる実験データが得られる見込みはなく、本研究課題の最大目的である反応機構の解明のためには、この実験構造を利用して研究を続けることが困難な現状にある。その一方、近年海外の有力な研究グループからは数多くの実験データが発表され、構造データに加えて結合定数のオーダーも明らかになりつつあり、実験側の力量差は大きいと考えている。そこで今後の方針としては、最初の段階に戻って初期構造の計算モデル化を再度やり直して、複数の実験構造と理論計算モデルを比較検討することで、計算手法の有効性を検証しつつ反応機構の解明を目指す。
結果として当初計画を変更することになるが、外部計算機資源の活用を通して計算機購入額を節約すると同時に、研究費の多くを旅費に割り当てることで出張旅費を確保し、海外の研究機関との積極的な共同研究を進めることで研究成果が最大限になるように再調整する。これら計画を踏まえて研究費の利用使途を再考察し、研究期間の一部延長も含めて、最も効率の良い研究体制をとることとする。
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Causes of Carryover |
当初計画では研究開始年度にワークステーションの購入を計画していたが、為替変動などの影響から計算機価格の変動が大きく、本提案申請書の時点と比較して価格が大きく上昇したため、計算機の購入を見送り、所属機関および外部の計算機利用申請を通して計算機資源を確保する方針に変更した。本課題に必要な計算に関しては、今のところ、内外の計算機を有効に活用することでほぼ想定内の計算が実行できているので、計算機購入に関しては、当初計画から見直す方針を考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本課題の最大の目的である反応機構解明に関しては、外部の研究機関との連携、場合によっては共同研究が重要なポイントとなり、このための外国出張、場合によっては海外機関での在外研究が必要になると想定しているので、研究費の多くの部分を旅費に振り分けて、本提案の最終目標達成のために最も効率の良い研究体制をとる。並行して今後は、これまで得られた研究成果を積極的に発表するために、国内外の研究集会に積極的に参加発表することとし、そのための出張旅費にも本研究予算の多くを利用する予定でいる。
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