2015 Fiscal Year Research-status Report
金属電極間に組織化された超分子金属錯体の新機能創成
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26410070
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
塩塚 理仁 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70293743)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 超分子金属錯体 / ルテニウム錯体 / 白金錯体 / 自己組織化 / りん光発光 / 電気特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の最終目的は「金属電極間に組織化された超分子金属錯体の新機能創成」を実現することである。そこで27年度は、昨年度までに確立した緻密なSAM作成法を使って金基板上に異なる分子サイズのルテニウムポリピリジル単核錯体を配列し、金基板―ルテニウム錯体間の光応答相互作用および基板上のルテニウム錯体の光励起状態からの失活過程を解明することに重点を置いた研究を行った。また、昨年度より開始したジエチニルフェナントロリン配位子のπ共役系を拡張した新たな配位子系のルテニウム-白金3核及び5核超分子金属錯体の単離に成功したことから、これまでのルテニウム-白金3核及び5核超分子金属錯体との光物理過程を比較検討することで光励起後のそれぞれの錯体ユニット間で生じている重要なエネルギー移動過程の存在を証明する結果を得た。そこで、この光励起後のエネルギー移動過程を明確にするために、5核超分子錯体の中心部分の錯体ユニットに対応する白金-ルテニウム-白金複合錯体を2種類の配位子系に対応した形で新たに合成し、その光物性も含めて比較検討することでπ共役系が異なる2種の超分子金属錯体における光励起後の失活過程の差異を明らかにした。 そこで、本年度に得られた金属基板とルテニウム錯体分子間の配列構造に関する知見および基板上での発光から推定される光励起に伴う金基板―ルテニウム錯体間の相互作用に関する新たな知見を踏まえて、数ナノメートルサイズの金電極間に配置されたルテニウム錯体の作成及び作成した分子素子の電気特性に関する研究を今後進めていく計画である。また、本年度の成果である超分子金属錯体の光励起に伴うエネルギー及び電子移動過程についての結果は、本研究課題が想定した超分子金属錯体の光応答電子デバイスとしての可能性を強く支持する結果であり、目的とする超分子金属錯体による新機能の創成に期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
金属基板上に非常に秩序だったルテニウム錯体の自己組織化単分子膜(SAM)が、チオフェノール基を有するルテニウム(II)錯体を用いることで容易に形成できることは昨年の研究で確認したので、27年度の研究としてはビスチオフェノールエチニルフェナントロリン配位子及びエチニル基をジエチニルベンゼン基に換えたπ共役拡張型フェナントロリン配位子をそれぞれ有する2種のルテニウム(II)錯体を用いたSAMの配列構造の比較と金属基板表面でのルテニウム錯体からの発光現象が観測可能かの確認を研究目的とした。その結果、フェナントロリン配位子の分子長の違いによる顕微ラマンスペクトルへの影響と非常に微弱ながら金基板上のルテニウム錯体からの発光スペクトルを観測することに成功した。 また、ルテニウム(II)-白金(II)超分子金属錯体の光励起状態下における白金錯体ユニットからのルテニウム錯体ユニットへのエネルギー移動はこれまで研究で明らかとなったが、ルテニウム錯体ユニット間の相互作用に関しては不明のままであった。そこで、ルテニウム錯体ユニット間の光励起状態下における相互作用を解明するために異なる分子長を有するフェナントロリン配位子を用いた2系列のルテニウム(II)-白金(II)超分子金属錯体の光物性を比較することでこの疑問を解明することにした。その研究成果として、以前の超分子金属錯体系と比較してπ共役系を拡張した新たな配位子系のルテニウム(II)-白金(II)3核及び5核超分子金属錯体の単離に成功した。更に、5核超分子錯体の中心部分の錯体ユニットに対応する白金-ルテニウム-白金複合錯体を2種類の配位子系それぞれに合成し、計6種の超分子錯体の時間分解発光スペクトル及び過渡吸収スペクトル測定結果を比較検討することで、π共役系が異なる2種の超分子金属錯体における光励起後の失活過程の差異を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画としては、ルテニウム(II)-白金(II)超分子金属錯体の光励起後の物理過程を解明する研究と超分子金属錯体による金基板への接合に関する研究を同時に進める。まずは、チオフェノール基を末端に有する形のルテニウム(II)-白金(II)超分子錯体を合成する方法と金基板へのSAM形成に関する研究についてはこれまでの方法論を応用することで可能と判断している。基板上の配列構造の解明と基板上の超分子金属錯体による発光現象を観測することによって超分子金属錯体と金属基板による新機能の創成を目指す。そして、ナノギャップ電極間に超分子金属錯体による架橋構造を形成することでこれまで試みられていない未踏の電子特性を明らかにする計画である。超分子錯体系の光電子物性に関しては、これまで研究されている多くの有機分子系の結果とは異なる新たな興味深い結果を与えるものと期待している。 また、ナノギャップ金電極に超分子金属錯体を導入する前段階として、我々が先に合成したビスチオフェノールエチニルフェナントロリン配位子を有するルテニウム(II)錯体を用いて、自己組織的に配列する方法で架橋された分子導線の作製を行い、両端のチオフェノール基を含むルテニウム(II)ポリピリジル錯体による架橋構造や金電極と錯体分子との光電子的相互作用に関しての研究を現在進めている。特に、ルテニウム錯体という小さな分子一つを架橋できる非常に狭いギャップ電極を用いることで分子デバイスの配列構造を自己組織的に形成できるのかどうかに関する情報を得るために表面増強ラマン散乱を利用した顕微ラマン測定データの解析と電気特性の評価を学内外の物性研究グループと協力して進めている。更に、超分子金属錯体による架橋構造に関してもこれから検討する予定であり、次世代ナノフォトニクス分野への発展を目指す。
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Research Products
(9 results)