2015 Fiscal Year Research-status Report
M3S2クラスター錯体を用いたCO2を触媒とする新奇な水素発生反応の反応機構解明
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26410071
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小林 克彰 京都大学, 物質―細胞統合システム拠点, 特定助教 (30433874)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 水素発生 / CO2還元 / 電気化学 / Coクラスター / Ru錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
[(CoCpMe)3S2]n+クラスター触媒(以下Co3S2)は、水中、CO2加圧下で、極めて小さな過電圧で水素を発生する。この反応は、Co-COOH種を経由したCo-H種(ヒドリド種)の生成が重要と考えられている。即ち、小さなエネルギーでヒドリド種を生成することが水素発生において重要と考えられる。そこで、今年度はM3S2クラスター種の中心金属にRh及びIrを選び、Co3S2との反応性の比較を行い、M-COOH種の重要性を検討した。また、M-H種のような無機ヒドリドの他に、NADHの反応を基とする非貴金属型のヒドリドの生成と反応についても検討した。 [(RhCp*)3S2]n+ (Rh3S2)及び[(IrCp*)3S2]n+ (Ir3S2)を用いて、15気圧CO2の水中で、-0.75 V vs SCEで電解反応を行った。室温で反応したところ、水素生の電流効率はRh3S2で36%、Ir3S2で25%とCo3S2(67%)に比べて減少したが、CO2還元生成物としてギ酸が21、39%生成していることが判明した。M-C結合の安定性は、Ir>Rh>Coであるため、IrやRhの系では脱炭酸反応の進行が抑えられ、水素の発生の代わりにCO2還元が進行したと考えられる。この結果から、低原子価金属(M)とプロトンが直接反応してM-H種を生成するよりも、M-COOH種を生成して脱炭酸反応によりM-H種を生成する経路の方が、活性化エネルギーが低いことが考えられる。一方、NADH型の配位子を有するRu錯体は、可視光照射下でヒドリド種を生成した。有機ヒドリドの方が無機ヒドリドよりも安定で保存も可能なことが判ったが、水素生成は進行せず、酸素を還元して過酸化水素を定量的に生成することが判った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目標は、CO2存在下で水素の過電圧が下がる理由を解明することであり、反応中間体としてM-COOH種が重要であろうことを考えている。本年度は、M3S2クラスターの金属イオンをCoからRh、Irに変えて反応性を検討し、反応機構の類推を行った。上記の結果により、M-COOH種の安定な金属は水素発生よりもCO2還元が進行する傾向があることが判り、M-COOH種の脱炭酸反応によりM-H種の生成が起こって水素発生が進行することが示唆された。その結果、水素発生の活性種と考えられるM-H種の生成に関して、以下のことが考えられる。低原子価のMとプロトンが直接反応してM-H種を生成するよりも、M-COOH種を生成して脱炭酸反応によりM-H種を生成する経路の方が、活性化エネルギーが低いと考えらえる。従って、この反応でCO2は触媒として機能していることが考えられる。当初の予定にあったRh3S2(COOH)またはIr3S2(COOH)種の単離は今年度も試みたが、今のところいずれの錯体でも成功していないが、M-COOH中間体の生成について間接的にではあるが説明できたことは極めて重要であると考えられる。 無機ヒドリド(M-H)だけでなく、有機ヒドリドの生成ついても比較検討した。有機ヒドリド種の方が安定で、光によるヒドリド生成も可能で効率も極めて良いが、水素発生には機能しなかった。これらの研究を通して、CO2の水素発生における触媒としての可能性、無機ヒドリド、有機ヒドリドの性質の対比などが示され今後の研究の発展に貢献すると考えられるため、「おおむね順調に進行している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果として、低原子価のMとプロトンが直接反応してM-H種を生成するよりも、M-COOH種を生成して脱炭酸反応によりM-H種を生成する経路の方が、活性化エネルギーが低いことが示され、また、無機ヒドリド、有機ヒドリドのそれぞれの利点、欠点が明らかとなった。これらの結果を統合し、両者の利点を活かした分子設計をすることで、過電圧が低く(活性化エネルギーが低い)、効率的な水素発生反応が可能と考えられる。 CO2を触媒とする反応機構に関する直接的な知見は、M3S2クラスターとCO2が相互作用した結果生ずるM3S2(COOH)種の合成・単離によって得られる。RhとIrを用いたクラスターではM3S2(COOH)種が安定と考えらえるので、両錯体の合成は引き続き検討していく。特に単核Rh錯体系では、ギ酸をヒドリド源とした触媒的な有機物の還元反応が知られており、本研究の反応中間体Rh-COOHと同様な機構でRh-H種が生成して有機物を還元していることが考えらえる。今後は、主にRh3S2系に拘らず、Rhを用いたRh-H種の生成について検討していく予定である。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画として、M3S2(COOH)錯体の脱炭酸によるM-H種の生成の解明が重要であると考えられていた。この脱炭酸過程を温度ジャンプ法による反応速度論解析により明らかにする予定であった。この計画を遂行するためには、M3S2(COOH)錯体の単離合成が必要であるが、未だ同錯体の合成に成功していない。そのため、温度ジャンプ装置の購入は見合わせた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の成果としてRh3S2またはIr3S2クラスターでは、適度な反応性と安定性を示し、今後の反応検討を進める上で有用であることが示された。M3S2(COOH)錯体の合成は今後も続けていくが、主にRh錯体を用いた反応系で検討を進め、Rh3S2以外のRh錯体を用いたRh-COOH種の合成を行う。そのため、次年度以降は、本年度の差額分も含めてRhのモデル化合物合成のための貴金属試薬の購入に主として使用する。
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