2015 Fiscal Year Research-status Report
長寿命励起状態を有するd10金属錯体による光分子活性化
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26410077
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
坪村 太郎 成蹊大学, 理工学部, 教授 (70188621)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西川 道弘 成蹊大学, 理工学部, 助教 (60711885)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 光化学反応 / 銅錯体 / 発光 / 励起状態 / 金属錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
1【混合配位錯体の合成】27年度もさらに多くの新規銅(I)錯体の合成を行った。1つは二座配位子のジイミンと単座ホスフィン配位子を有する3配位型銅(I)錯体である。また、三座ホスフィン配位子(1,1,1-トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン)とアセタト配位子を有する錯体の単離と構造解析も行った。これは固体で発光を示し、長寿命励起状態を有することを確認することができた。銀錯体については単座カルベン配位子とジホスフィンを有する単核を新たに合成し、これも高エネルギーの青色発光を示すことを見いだした。 2【d10錯体の光化学反応性のスクリーニング】まず銅(I)錯体が光還元剤としての性質を有するかについて、メチルビオローゲンを用いたテストを行い、銅(I)錯体が光励起状態でメチルビオローゲンを還元したことを青色還元種の生成によって確認した。さらに、長寿命励起状態を有する二核錯体を用いて、二酸化炭素存在下とアルゴン下で電気化学測定を行った。その結果二酸化炭素存在下では還元側の電流が増大することを見いだした。これは銅(I)錯体又はその還元種と二酸化炭素が何らかの反応を起こしていることを示唆している。 3【d10錯体と二酸化炭素の反応】錯体と二酸化炭素の光化学反応を行い、生成物を確認する実験を行った。トリエタノールアミン(犠牲還元剤)存在下で、上記の電気化学測定に用いた銅(I)錯体溶液に二酸化炭素を吹き込み光照射を行ったところ、わずかな量ではあるが、一酸化炭素の発生が確認された。また、昨年に引き続き銅(I)錯体を光増感剤として用いることを考え、当研究室で以前見いだした長寿命励起状態を有する銅(I)錯体と、触媒としてのニッケル(II)-シクラム錯体を溶解した溶液に二酸化炭素を通じ、可視光照射を行い、反応条件を検討することで錯体の量と同程度の一酸化炭素の発生を観測した。これは昨年観測した量の約2倍である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年の実績報告書では本年は【d10錯体と二酸化炭素の反応性のスクリーニング】と【光励起状態での錯体と分子の反応】を行うこととしていた。ただ、これらの反応に用いる錯体の候補は多い方がいいと考え、27年度もさらに多くの新規銅(I)錯体の合成を行った。9項(研究実績の概要)に示した以外にも、パーフルオロフェニル基を有するジホスフィンをもつ銅(I)錯体やジホスフィンオキシドを配位子とする銅(I)錯体を合成した。以上の錯体は長寿命(数μ秒~数百μ秒)の励起状態を有し、光化学反応性が期待できる。 【d10錯体の二酸化炭素との反応性のスクリーニング】9項に示したとおり、第一に銅(I)錯体が光還元剤としての性質を有することを確認することができた。このことを踏まえ本研究室で合成したジホスフィン架橋構造の銅(I)二核錯体を用いて電気化学による研究を行い、その結果銅錯体の還元反応に二酸化炭素が関与していることが見いだされた。本研究室で合成した錯体のうち、今のところ上記の錯体以外では二酸化炭素との相互作用は見いだされていないため、錯体が特定の構造の場合のみ二酸化炭素との反応が進行することが分かり、初期段階としてのスクリーニングという目的は概ね達したと考えている。 【d10錯体と二酸化炭素の反応】研究実績の概要にも示したとおり、銅(I)錯体を光増感剤として用い、二酸化炭素の光還元反応の実験を行ったところ、反応条件の工夫により昨年の約2倍量の一酸化炭素の発生を観測することができた。さらに銅錯体を光触媒とすることを考え、トリエタノールアミン(犠牲還元剤)存在下で、銅錯体のみの溶液に二酸化炭素を吹き込み光照射を行ったところ、わずかな量ではあるが、一酸化炭素の発生が確認された。昨年度は定量の精度に問題があったが、今回は光照射の容器の工夫や、光照射後、気液平衡に達するまでの時間を十分とるなどの方策によって定量精度の向上を見た。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の交付申請書では、本年度は【光励起状態での錯体と分子の反応続き】と【量子化学計算による励起状態の解析】の上で【総合的な考察】を行うこととしている。この中では特に最初の項目、特に光励起状態と二酸化炭素などの反応を進めることが重要である。27年度に引き続き、電気化学によるスクリーニングを続け、その中から二酸化炭素との反応性が期待される錯体について光化学反応の実験を行う予定である。特に本年注力したいことは、1)二酸化炭素還元生成物の収量を増大させること、2)一酸化炭素以外の生成物の同定を行うこと、の2点である。昨年度までの実験で一酸化炭素濃度の定量についてはようやく目処が付いたため、添加物の検討や光照射条件の検討など繰り返しの実験を行い、一酸化炭素の収量増大を目指したい。また、2)に関しては、論文等で二酸化炭素の錯体による還元の際には一酸化炭素以外の生成物ができることが報告されている。特にギ酸に着目し、これを定量できるように環境を整えた上で実験を進めたい。金属錯体については実績概要に記した三座ホスフィン配位子を持つ銅錯体も有力候補となると考えている。 量子化学計算については、かなり本研究室でも経験を積んできた。三重項励起状態の構造最適化を含め、励起状態の特性を解明するために密度汎関数法や時間依存密度汎関数法の手法を用いて計算による考察を行う。 その上でこれらの結果を総合的に解釈し、本研究のまとめとする予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度末に輸入の試薬を購入使用しようとしたところ、品切れとなり、入荷に1ヶ月あまりを要することとなったためその分約7000円相当を次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年の計画に含めて使用、研究を行いたい。
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Research Products
(9 results)