2015 Fiscal Year Research-status Report
擬二次元積層化合物における多重自由度と新奇物性探索
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26410089
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
道岡 千城 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70378595)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 積層化合物 / 量子臨界点 / クラスター / スピンフラストレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
新たな複合積層化合物の発展と機能性材料の開拓を目指し,いくつかの物質系について物性研究,および新規物質探索を行った. 今年度の主な成果は,物質開拓として三角格子クラスター磁性体,Li2AMo3O8 (A=In,Sc)の物性を明らかにした.A=Inの合成報告はあるもののA=Scは新規化合物であり,系統的な物性を調べることによって,三角格子に特徴的な磁性を観測した.A=InはリチウムNMRから約15Kにおいて磁気秩序することを明らかにした.一方,A=Scは比熱測定から0.5Kまで磁気秩序せず,ハイゼンベルグスピン三角格子反強磁性体における基底状態である,スピン液体となっている可能性を見出した.比熱測定の結果から最低温において通常の金属における電子比熱のような比熱項があり,これはスピン流体のフェルミ面の存在を意味している.前年度報告したLa3Re2O10の特異な磁性とあわせてクラスター系に特徴的な新奇物性を発見した. またSrCo2P2とその周辺物質ついて遍歴強磁性量子臨界点近傍の物性研究を行った.以前の研究でSrCo2P2における強磁場磁化過程から60 Tでメタ磁性転移を発見している.今回,NMRを用いて遍歴磁性強磁性体LaCo2P2のスピンダイナミクスを明らかにした.その結果,層状化合物であるにも関わらずかなり等方的なスピン揺らぎを観測した.現在,Sr1-xCaxCo2P2 系固溶体のNMR研究を行っており,異方的なスピン揺らぎがメタ磁性転移と強く関わっていることが分かってきている.これらは最終年度において系統的に明らかにする.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は擬二次元積層化合物における多重自由度に関する新奇物性探索,およびその物性解明である.今年度物性研究を行ったLi2AMo3O8 (A=In,Sc)において,その内包されるクラスター磁性は,電荷の揺らぎとスピンの自由度が物質の電子状態を決定することに重要な役割を果たしていて,まさに研究目的と合致した物質である.つまり三角格子反強磁性体の理想的な基底状態であるスピン液体と,古典的な120度構造をもつ磁気秩序が,それらスピンと電荷の揺らぎの加減によって入れ替わる非常に興味深い物性を観測した. またSr1-xCaxCo2P2 系の理解も深まってきて,真の量子臨界点が近傍にあることはNMRによって初めて解明された.これらの結果は本研究の主題である新奇物性を探索する上で非常に重要な知見であり,今後の深い理解の研究に順調に発展するものと思われる.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で多重自由度に関する研究としてクラスター磁性体が有力であることを示した.本年度は,これまで前駆的な研究を行ってきた三角格子クラスター磁性体のうち,Nb3Cl8 に着目し研究を行う. また異常原子価・構造を有する化合物は通常の方法では合成困難である,そこで選択的リーチングから物質の準安定構造を実現させ,遷移金属の原子価を制御し,磁性強化を目指す.通常クロムは化合物中で,3価の状態を好む。例えばLiCrTe2はCr3+の状態にある.本研究では前駆的な研究で,このLiCrTe2からソフト化学的にLiを引き抜き,CrTe2単結晶を作成し,実際CrTe2が室温を超える高い強磁性転移温度をもつこと,約13Tの大きな異方性磁界をもつことを明らかにした.またこの物質の元素置換効果の研究から,この物質の格子定数を大きくするようなアレンジを物質に加えることが出来たならば,より興味深い物性が現れると考えられ,それらの系統的な研究を行う. またこれまで研究を行ってきSr1-xCaxCo2P2 系の辺化合物の新たな量子臨界近傍の微視的な物性をまとめる.またさらなる物質開拓から,今後のブレークスルーにつながる探索を行う予定である.
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Causes of Carryover |
本年度,試料合成,および低温物性の研究を中心に行ったため,当初予定していた極低温におけるNMR測定による系統的実験を来年度に回した.(低温測定に使用した寒剤費はその他に分類される.)従ってその寒剤費を次年度に繰り越した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究では消耗品として,主に物質合成に必要な高純度原料,石英管の購入を予定している.また低温の物性を明らかにするために寒剤を購入予定である.本学では購入した液体ヘリウムは低温センターで再凝縮され,また安価で購入することが出来るシステムとなっている.これにより,通常高価な寒剤代のかかる低温でのNMR研究を遂行することができる.
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