2014 Fiscal Year Research-status Report
超高圧合成法による水銀を含む白金酸化物の新物質探索と物性開拓
Project/Area Number |
26410106
|
Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
山本 文子 独立行政法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (50398898)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 高圧合成 / 無機固体化学 / 物性化学 / 結晶構造 / 水銀複合酸化物 / 白金複合酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「超高圧を用いて可能な限りすべての水銀含有白金酸化物を合成し、その組成制御によって特徴のある物性や機能を引き出す」ことである。水銀(Hg)は、固体中で多様な結合状態を示すユニークな元素であるにも関わらず、その高揮発性や毒性のため、Hg 含有酸化物の探索研究は十分行われておらず、開拓の余地が大きい。今回、スピン軌道相互作用が強い5d 遷移金属で、かつ、2価と4価をとりうる白金(Pt)に焦点を絞り、超高圧下でのみ合成可能な Hg-Pt-O 系新物質の集中的な合成および物性開拓に取り組んでいる。具体的にはHg以外の2価典型金属(A=Cd,Ca)と白金の酸化物で報告されている4化合物(1)APt3O6, (2) APt3O4, (3) APt2O4, (4)A2Pt3O8 についてAをHgに置換することを試みた。その結果、(1)に関して、CdPt3O6と同構造のHgPt3O6を得ることができ、粉末X線回折像の解析により格子定数を、また、走査型電子顕微鏡付属のエネルギー分散型X線組成分析器により組成を決定した。この結果、Hgには、Cd同様欠損方向に不定比性があることが明らかになった。さらに、電気抵抗率の温度依存性の測定から、伝導特性は半導体的であった。抵抗率を熱活性型と仮定した解析からエネルギーギャップの解析からは非常に小さかった。CdPt3O6よりも格子定数が大きいにも関わらず、抵抗率の絶対値もギャップも小さくなっている点は興味深い。この結果は、HgPt3O6が組成変化、あるいは外部圧力で金属に転移する可能性を示唆している。なお、(2)-(4)に関しては、現時点ではHg置換体は得られておらず、さらなる合成条件(圧力、温度、時間、Hgの出発原料組成、酸素の出発原料組成)の検討をすすめている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の進捗状況はおおむね順調といえる。しかし、初年度の結果、当初の計画に基づき、さらに研究を加速させる必要があると考えている。平成26年度に合成する予定であった4化合物のうち、1化合物(HgPt3O6)は、予想通りの高圧高温条件(4万気圧,800度)で単一相を得ることができた。その実験過程において、この物質はHgの出発組成の過剰方向に数十%の幅がであっても、生成する物質の基本構造は同じであることがあきからとなった。また、同じ構造の単一相であっても、その合成条件により、化合物の格子定数(体積)や電気抵抗率の温度依存性に相違があることが明らかとなった。走査型電子顕微鏡および付属のエネルギー分散型X線組成分析器で組織、組成を調べたところ、原料の一部が析出する場合があること、あるいは定比から欠損する可能性があることがわかった。このようにHgPt3O6の固体化学に関しては十分に理解がすすんだ。さらに、当初合成可能と予想されていたHgPt2O4はこの組成から出発した場合、HgPt3O6が生成することがあきからとなった。今回対象にしている物質系(Hg-Pt(II)/Pt(IV)-O)は、HgとPtの金属比に加え、2価のPtと4価のPtの共存が関係している。このため、出発原料の酸素量も重要となり、物質の安定条件を探索する上での問題を複雑にしている。初年度の結果は、以上のようないくつかの重要な問題を洗い出す成果が得られたので、その結果を十分に整理しつつ、今後の方針を立てていきたい。これにより、第2年度も順調に研究が進められるものと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の方針に基づき研究を推進することで、当初の目的を実現させたい。HgPt3O6に関しては、Hgの不定比の量と構造、性質の関係を定量的に明らかにしたい。また、HgサイトのTl置換、Bi置換を行って、物性制御を行いたい。さらに、連携研究者とも議論し、構造の精密化および理論計算と実験の整合性の検証などをすすめたい。これ以外の当初目的としていた化合物については、AサイトがHgのみのでは安定条件の特定が困難な可能性も高い。そのため、同組成のCdおよび Ca白金酸化物の合成を我々の実験環境で行い、その条件を確定してから、徐々にHgの置換分率を増やしていくことで合成条件の最適化を図りたい。そして、最終的にHgのみの白金酸化物が得られる様にしていきたい。また、目的物質のみに限らず、広く新しい構造、組成の物質の探索を進めるべく、HgとPtの比を固定した上で、Pt2価と4価の比を決める酸素の出発組成、合成圧力、焼成温度を網羅的に変化させて、既存、未知を問わず、何が安定に出現するかのマップを作っていく。その中で組成や構造的に興味深い新化合物が得られれば、その周辺を詳細に調べたい。
|
Causes of Carryover |
高圧合成関係の消耗品が効率的に使用でき、また、破損などの消耗も予想よりも少なかったため、多少の残額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
合成実験をよりいっそう進めるためには高圧合成関係の消耗品が必要であるので、これに使用する。
|