2015 Fiscal Year Research-status Report
多点間水素結合による可逆的接着機構を有する高分子設計
Project/Area Number |
26410139
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Research Institution | Kogakuin University |
Principal Investigator |
小林 元康 工学院大学, 公私立大学の部局等, 教授 (50323176)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 接着 / 表面 / ポリマーブラシ / 水素結合 / 濡れ / 界面 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は水素結合性の官能基を有するポリマーブラシを合成し、その接着特性を明らかにするだけではなく、系統的に設計された分子構造と接着・剥離特性との相関について化学的相互作用と界面構造の両面から検討するところに特徴がある。一般に、市販の接着剤および粘着剤はファンデルワールス力と機械的接合で接着を達成しているものが殆どであるのに対し、生物の細胞やタンパク分子などは水素結合やイオン結合など化学的相互作用により接着を達成している。本研究で得られる成果は新しい接着剤や粘着材料の開発や、細胞接着をはじめとする生体分子の接着機構の解明に寄与することが期待される。 平成26年度は側鎖にフェノールやアルコール性OH基、ピリジニウム基など水素結合性官能基を有するポリマーブラシを基板表面に調製し、その基板同士を貼り合わせることで可逆的に接着と解離を繰り返すことが可能であることを実証した。特に、ポリ2ビニルピリジンとポリ4-ヒドロキシスチレンは800 kPa程度の引張りせん断接着強度を示した。また、1分子でプロトン供与性と受容性官能基を合わせ持つアミノ酸含有ポリマーブラシを合成した。アミノ酸含有ポリマーブラシはpHにより表面の濡れ性や防汚性を変化させ、多点間水素結合による可逆的接着が可能であることが明らかとなった。さらに、表面をアミノ基で化学修飾したカンチレバーと走査フォース顕微鏡を用いて、セリン含有ポリマーブラシ表面における凝着力測定を水溶液中で行い、マクロな接着・剥離試験から得られる接着強度との対応関係について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は側鎖に水素結合性官能基を有するポリマーブラシを表面開始原子移動ラジカル重合により基板表面に調製し、その基板同士を貼り合わせることで接着することを実証した。特にプロトン供与性基として4-ヒドロキシスチレン、プロトン受容性基として2-ビニルピリジンからなるポリマーブラシで被覆した基板は強く接着し、800 kPa 程度の引張りせん断接着強度を示した。アルコール性水酸基を持つポリメタクリル酸2-ヒドロキシエチルブラシも500 kPa程度の接着強度を示した。一度接着した基板はアルコール中に浸すと容易に剥離し、再び貼り合わせると接着した。剥離はブラシ界面で生じており、凝集破壊は認められなかった。そのため、基板にはポリマーブラシが残存しており、再び洗浄することにとより可逆的に接着と剥離を繰り返すことができることを確認した。 また、1分子でプロトン供与性と受容性官能基を合わせ持つアミノ酸含有ポリマーブラシを調製した。過去に側鎖型アミノ酸ポリマーは合成されているが、フリーの1級アミンを有するポリマーは合成例がほとんどない。本研究ではセリンを骨格とする膜厚100 nm程度のポリマーブラシを制御ラジカル重合により合成し、多点間水素結合による可逆的接着が可能であることを実証した。さらに、表面をアミノ基で化学修飾したカンチレバーと走査フォース顕微鏡を用いて、アミノ酸含有ポリマーブラシ表面における凝着力測定を水溶液中で行った。水溶液の塩強度、pHが変化すると凝着力も変化した。現在、種々のpHで処理したアミノ酸含有ポリマーブラシのマクロな接着・剥離試験を行っており、表面凝着力と接着強度との相関を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
水素受容性官能基としてピリジン基以外にエーテル基やエチレングリコール基を有するポリマーブラシを調製し、その接着強度を比較することで水素結合強度との相関を明らかにする。また、また、分子量および分子量分布、グラフト密度の異なるポリマーブラシを調製し、これらが接着界面に与える影響について検討する。より多くの官能基が分子間水素結合を形成するためには接着界面においてブラシ鎖同士が相互貫入するような構造が望ましい。グラフト密度が高い場合にはブラシ鎖同士を対面させても排除体積効果により相互貫入は極めて困難である。そこでグラフト密度の低いポリマーブラシも調製し、その接着強度を測定する。ブラシ鎖が相互貫入すれば接着界面の力学的強度も向上することが期待される。ポリマーのグラフト密度は基材表面に固定化する表面開始剤の濃度を調整することで制御可能である。また、グラフト密度が高くても分子量分布が広い場合も接着界面では対向するブラシ鎖同士の混合が生じる可能性があり、分子鎖同士の相互貫入構造について検討する。 2枚の基板で挟まれた接着界面を直接観察するために、物質透過性に優れた中性子線を用いた反射率測定を試みる。ブラシ鎖同士が接触する界面においてグラフト密度や分子量分布が分子鎖混合に与える様子をとらえることができる。J-PARC-MLFの中性子反射率実験課題に応募し、接着における化学的相互作用の寄与だけでなく界面構造の寄与を明らかにする予定である。
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Research Products
(17 results)