2014 Fiscal Year Research-status Report
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26410216
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Research Institution | Nara National College of Technology |
Principal Investigator |
松浦 幸仁 奈良工業高等専門学校, 物質化学工学科, 准教授 (00416322)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イオン液体 / ポリフェロセニルシラン / ケイ素系ポリマー / ドーピング / 複合体 / クロミズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究開発は国内で使用する電子ペーパーに用いる有機物を主成分とする軽量でかつリサイクル可能な電気化学的な変色可能な(エレクトロクロミック)材料の研究開発についてポリマー・イオン液体複合体(コンプレックス)を用いて行った。具体的には、ポリフェロセニルシラン(PFS)がイオン液体に溶解して形成された複合体をエレクトロクロミック材料として提案した。今年度は、クロミズム現象を良好に発現させるためにPFSの化学構造の修飾を試みた。特にPFSのシリコン原子に結合した側鎖の修飾を行うためにマイクロ波を用いて合成を行い、π共役系を側鎖にもつPFSを高収率で得ることに成功した。イオン液体を用いたPFSとの複合体の調製においては、様々な分子構造を持つイオン液体を検討することにより、ピラゾリウムを有するイオン液体が当該目的に有効に作用することを見出した。また、分光測定よりピラゾリウムに存在する2級アミンの水素原子がPFS内のフェロセンの酸化反応に深く関与しているという知見が得られた。さらに、紫外可視吸収分光スペクトル測定よりPFSは上記イオン液体内で完全にp型ドーピングされた状態であることが明らかになった。これらの結果を踏まえて国際学会発表を行った。さらに論文発表にも取り掛かり始めた。 上記以外にPFSの分子設計およびイオン液体内でのp型ドーピング状態の電子状態や電気伝導の解析を行うために遂行した量子化学計算では、学術的に上記実験結果と整合性のとれた電子状態の結果が得られたので、これらの内容をまとめて国際学会で発表した。さらに、PFSと同様のクロミズム現象が発現するポリマー構造を探索するために、PFSと同様のケイ素系ポリマーやπおよびσ共役を有する導電性ポリマーについて、量子化学手法を用いたバンド構造の計算や量子輸送計算を行い、PFS以外のポリマーを用いた場合のシミュレーションを遂行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、2色の可逆的な変化によるエレクトロクロミック材料を開発する予定であった。第一の目標は、PFS・イオン液体複合体のクロミズム現象におけるコントラスト比の向上および動作電力の低減である。そのためにPFSを酸化した際の可視域の吸収を増加することによりコントラスト比を上げる。このためには、PFSの側鎖をπ共役系が発達した官能基や電子供与基で修飾を目指した。特に、先に提案したマイクロ波を使用した側鎖の修飾で、シリコン原子に共役系が発達した官能基や電子供与性官能基を導入することを試みた。ところが、上記いずれのPFSに対する化学修飾においても可視域の吸収帯はあまり変化しなかった。量子化学計算においては、上記の化学修飾においてHOMO-LUMOギャップが減少して吸収スペクトルに変化が生じることが期待されたが、実際の系ではポリマーの立体的な不規則性が存在するために、上記ギャップの減少が有効に作用しなかったものと考えられた。これら結果から、PFSの化学的な修飾ではπ共役の拡がりが限定的になることが見出された。 一方で、PFS・イオン液体複合体のクロミズムにおける変色の繰り返しおよびメモリー特性を調べた。まず、イオン液体の骨格を修飾がクロミズム特性に与える影響を調べた。カチオンについてはピラゾリウムおよびイミダゾリウム、アニオンについてはBF4-とビス(トリフルオロスルホニウム)イミンを用いて検討した。その結果、2級アミンを有するピラゾリウムカチオンからなるイオン液体を用いるとPFSとの複合体にクロミズムが生じることが明らかになった。さらに、分光分析により2級アミンの水素原子が還元によりPFSのフェロセンが酸化されることがクロミズムの原因であることが判明した。つまり、イオン液体によりPFSはp型ドーピングされていることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度もポリマー合成及びイオン液体との複合体の諸物性の向上を目指して、合成化学的手法の探索および配合技術の開発を継続する。さらに、これらの材料を用いて電気化学セルの構築とその性能確認を行うとともにp型ドーピングされたポリマーの電子状態の量子化学計算および量子輸送計算を行い、そのセル内での挙動を予測する。また平成26年度の検討項目として検討する予定であった電気化学用石英セルにPFSを溶解したイオン液体を入れて印加電圧を変えながら行う紫外可視吸収スペクトルの測定についても検討する。この際に、空気中および窒素ガス雰囲気下の双方の実験結果を比べて、空気中での劣化の傾向を確認する。また、動作条件を向上するためには、イオン液体を封入する電気化学セルの構造も大きく影響するので、基板や封止材の選択やセル構造の最適化を行う。セルを組み立てた後にメモリー特性(記録の保持)の確認を行う。また、温度を変化させて動作確認も行う。 平成26年度では実験で使用する器具類や計算ソフト類を充実させたので、次年度の計画では材料開発を継続するための試薬類や消耗品類の支出を計上している。また、器具類の内訳には、分光測定の付属品やデバイス作製に必要な機械類への支出も検討している。また、昨年度はPFS・イオン液体複合体のクロミズムにおけるメカニズムが予想外に早く明らかになり、しかも量子化学計算の結果との整合性も良好であったので国際学会発表を行ったが、今年度も本複合体のクロミズムへの応用の優位性を主張するために国際学会発表を行う予定である。また、上記の分光測定の成果について論文を現在執筆中なので論文発表の準備のために支出を行う予定である。
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Causes of Carryover |
今年度はポリマーの合成とポリマー・イオン液体複合体の調製およびその分析に時間を割いた。特にポリマーの合成において新しい知見を得たので、その分、複合体からセルを作製して電気化学測定を行うまでには至らなかった。したがって、電気化学セルを作製する分の予算が次年度に繰り越すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度では理由の欄に記載の材料開発とともに、電気化学測定等のデバイスとしての基礎物性を測定する予定であり、その分に前年度に繰り越した予算を使用する予定である。
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