2014 Fiscal Year Research-status Report
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26410222
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
彦坂 正道 広島大学, 総合科学研究科, 特任教授 (60087103)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 高分子 / 結晶化 / 伸長 / ひずみ速度 / 配向 / ナノ / 結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、従来困難だった高分子融液の伸長結晶化に成功し、“ナノ配向結晶(Nano-oriented crystals; NOC)”とよぶ新形態が発生して高性能化することを、ポリプロピレン(PP)を用いて発見した[Okada, K. et al. Polym. J., 2010 & 2013]。 本研究の目的は、代表的な結晶性高分子について1) NOCが普遍的に生成すること、2) NOCの構造と生成メカニズム、3) NOCが高性能・高機能を示すことを、明らかにし、NOC実用化の科学・技術的基盤を確立することである。 当該年度の研究は次の方法で行った。試料には汎用高分子のポリエチレンテレフタレート(PET)とエンジニヤリングプラスチック(エンプラ)でありポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むフッ素系樹脂を用いた。我々が開発した押出し・ロール型とプレス型の成形システムを用いて伸長結晶化した。平衡融点[Tm(eq)]より10~20K高い温度で融解後、ある結晶化温度(Tc)に降温してから圧延伸長し、シートまたはフィルム状に結晶化(成形)した。NOCの構造・形態は光学顕微鏡とX線散乱によって観察した。 研究の成果を以下に記す。i) PETと、PVDFと、VDFとトリフルオロエチレン(TrFE)の共重合体[P(VDF/TrFE)]などのフッ素系樹脂のNOC生成を確認しNOC生成の普遍性が検証できた。NOC生成の普遍性検証は、重要な成果である。また、ii) PETのNOCは構造・形態に三次元的秩序があり、高分子鎖の個性が反映されていることがわかった。 よって、伸長結晶化という新しい方法で新形態が普遍的にできること、および高性能・高機能材料開発の基盤を確立できることは科学と技術において意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PETと、PVDFとP(VDF/TrFE)などのフッ素樹脂の伸長結晶化において、NOC生成が確認できたから。iPPとは別の物質による伸長結晶化でNOC生成を示したことは、NOC生成の普遍性を示すうえで重要な成果であり、本研究が順調に進んでいることを示している。 PETのNOCの構造・形態において三次元的秩序があることがわかったから。高分子の典型的なモデル物質であるPPでは、NOCの構造・形態に三次元的秩序は見られず、ナノ結晶はパラクリスタル的な一次元的配列であった[Okada, K. et al. Polymer J., 42, 464 (2010)]。対してPETのように、高分子の主鎖にベンゼン環など嵩高い構造がある場合に、NOCの結晶化や構造・形態がどのように影響を受けるのかは興味深い問題であった。本研究の成果によって、高分子鎖の個性がNOCの構造・形態に強く反映して高結晶性固体へと結晶化することがわかったので、本研究は進展している。 さらにNOCの場合、生成した構造は「最安定相」になることがPPとPET、PVDFなどのフッ素樹脂の結果からわかった。最安定相は、高性能・高機能を発現する要因である。しかし従来の結晶化法では、融液からの結晶化において最安定相の構造が直接生成することは困難であり、二次的に延伸や熱処理などを行う工程が必要であった。よって本研究の「一段階工程で直接、最安定相の構造が生成する」という成果は、高性能・高機能材料の開発という点で研究が進展していることを示す。
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Strategy for Future Research Activity |
1) エンプラであるポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルやポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むフッ素系樹脂、およびポリ乳酸(PLA)の伸長結晶化を行い、NOC生成の普遍性を検証する。 2) 1)に示した高分子のNOCの三次元的な構造・形態を解明する。 3) PETと、PVDFを含むフッ素系樹脂を用いた伸長結晶化の伸長ひずみ速度(ε)依存性を明らかにすることにより、NOC生成メカニズムを解明する。一般に、結晶化メカニズム解明においては、結晶化の律速過程を明らかにすることが重要である。NOCの核生成速度(I)を以下に記すa)またはb)の方法から決定し、“速度論的研究”からNOC生成が核生成律速であることを検証する。Iは古典的核生成理論(classical nucleation theory; CNT)により定義と定式化がされている。実験的に求めたIの過冷却度(ΔT)依存性がCNTの理論式を満足する場合には、核生成律速であると結論できる。ここで、ΔTはTm(eq)とTcの差である。a) 構造・形態が従来構造からNOCへと一変する境である“臨界伸長ひずみ速度(ε*)”のΔT依存性からIを決定する。我々が定式化したε*とIの関係式を用いて、Iを決定する[Okada, K. et al. Polym. J., 45, 70 (2013)]。b) NOCのナノ結晶サイズ(d)のΔT依存性からIを決定する。CNTのIの定義式から定式化したdとIの関係式を用いて、Iを決定する[Okada, K. et al. Polym. Preprints, Jpn., 62(1), 645 (2013)]。 4) 1)に示した高分子のNOCの物性測定を行い、高性能・高機能を示すことを明らかにする。物性測定は、引張強度、耐熱性、耐寒性、透明性、強誘電性、圧電性等を行う。
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Causes of Carryover |
当該年度で研究成果が評価された結果、放射光施設SPring-8(兵庫県)への課題申請において、当初の想定よりも多くの実験回数と時間を獲得できた。そのため前倒し支払請求を行ったが、多少の残額が生じたために、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該年度において我々の研究成果が順調に進展した結果、放射光施設への次年度の課題申請において、多くの実験回数と時間を獲得できた。よって、当該年度に生じた次年度使用は、次年度の国内旅費として使用する計画である。
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Research Products
(7 results)