2015 Fiscal Year Research-status Report
多様なドナー分子からなる電荷移動錯体高分子複合膜の作製と構造、機能評価
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26410223
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
西原 正通 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 助教 (40415972)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 電荷移動錯体高分子複合膜 / 高分子電解質膜 / 電荷移動錯体 / スルホン化ポリイミド / スルホン化ポリエーテル / 高温形固体高分子形燃料電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、単一ドナーCT膜として、電子受容性ポリマーであるスルホン化ポリイミド(SPI)を新規に合成し、CT錯体複合膜の特性評価とともに高温作動形燃料電池用電解質膜として評価を行った。ポリマーには、電子受容性がないモノマーを導入したSPIコポリマーを設計、合成した。このコポリマーとドナー分子である2,6-ジヒドロキシナフタレン(2,6-DHN)と混合し、CT錯体膜を作製した。合成したコポリマーと2,6-DHNは膜内でのCT錯体を形成していることが、可視スペクトルから確認できた。この結果は、CT錯体複合膜が、異なるポリマーにおいても成立することを意味しており、CT錯体膜の科学を拡張させる事に成功した。また、合成したコポリマーは、材料としての機械的安定性が高く、実際の応用に用いることが可能であるため、燃料電池用電解質膜としての機能を評価した。特に、他の材料であまり試みられない高温領域でのプロトン伝導性の評価を行い、高温稼働形の燃料電池への応用が期待できる結果が得られた。これらの結果は、論文として報告した。 上述のSPIは、主鎖が芳香族であるため剛直で、膜として用いる場合の柔軟性に乏しかった。そのため、SPI主鎖に柔軟性を持たせることを目的として、ヘキサメチレンジアミンを導入した脂肪族形電子受容性SPIを設計、合成した。得られた脂肪族形SPIも、2,6-DHNとCT錯体を形成し、CT錯体複合膜を形成した。さらに、予想された膜の柔軟性についても大幅に向上し、高分子材料としての実社会への応用も期待できる。 また、ブレンドCT膜として、アルキル鎖を有する電子供与性のスルホン化ポリエーテル(SPES)を合成した。合成したSPESは、エポキシから合成する新しいタイプのポリマーであり、今後、SPIと混合してCT錯体複合膜の形成能、およびその機能の評価を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コポリマーによるCT錯体複合膜の構築の確認、およびその特性評価が実施できたことが平成27年度の大きな実績と言える。これまでに用いてきたホモポリマーのSPIだけでなく、主鎖構造が異なった芳香族性コポリマーでも、ドナー分子とCT錯体を形成することが確認できた。このように主鎖構造を変えてもCT錯体高分子複合材料を作製でき、その可能性を示すことができた点で、平成27年度の目標を十分に達成することができた。また、合成したコポリマーのCT錯体複合膜の機械的安定性がホモポリマーのCT膜よりも高いことから、具体的な応用としてポリマー内のスルホン酸を利用したプロトン伝導性の評価を行った。ポリイミドは高い熱的耐久性を示すことから、100℃以上でのプロトン伝導性を評価したところ、100mS/cmを超えるプロトン伝導性を示すことができた。これは、CT錯体複合膜が高温稼働形の燃料電池用電解質膜としての使用することが可能であることを示唆している。 コポリマーからなるCT錯体複合膜の特性を明らかにすることができたため、より実用的に使用可能な材料(脂肪族モノマーの導入による柔軟性の高いCT錯体高分子複合材料)の作製にも取りかかった。ホモポリマー、2種類の柔軟性の異なるコポリマーによるCT錯体複合材料の作製および評価を実施できた点で、当初目標をさらに広げることに成功している。 一方、ポリマーブレンドCT膜に必要なドナー形ポリマーについては、平成26年度に明らかとなった分子設計上の問題を解決すべく、種々の高分子の合成を進めた。アクセプター性を有する芳香族を有するモノマーとドナー性モノマーによるポリマーでは、分子内で電子の授受が起こり、CT錯体を形成できなかった。そこで、主鎖にアルキル鎖を有するドナー性スルホン化ポリエーテル(SPES)を合成した。今後このSPESを用いて、ブレンドCT膜の作製を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、これまでに確立してきたCT錯体高分子複合膜をより現実的な機能材料として展開すべく、研究を進める。具体的には、これまでにCT錯体高分子複合膜の一機能として評価してきたプロトン伝導性を生かした燃料電池用電解質膜としての応用である。特に、SPIが有する熱的安定性を利用した100度以上で稼働する燃料電池用電解質の開発を進める。100度以上では、液体の水がほとんどないため、通常の電解質膜ではその機能が低下する。そこで、これまでドナー分子として用いてきた2,6-ジヒドロキシナフタレン(2,6-DHN)に、プロトン伝導性を示すスルホン酸を導入した新たなドナー分子(SDPN)を合成することで、通常困難な高温でのプロトン伝導性を向上させる。SDPNは、スルホン酸を有するため、水溶性が高くなり常温での加湿環境では溶解する恐れがある。また、2,6-DHNに直接スルホン酸を導入した場合、スルホン酸基により2,6-DHNのドナー性が奪われ、CT錯体を形成できなくなる。これらの問題を解決するため、2,6-DHNにアルキル差を導入しその末端にスルホン酸を導入する分子設計を行う。特にアルキル鎖は、SPIのスルホン酸基に近接する距離に位置する長さに設計し、スルホン酸基が高分子膜内で高濃度に密集した状態(プロトンパス)を形成させる。このようにCT錯体による構造安定化とスペーサーを介したスルホン酸基の導入によるドナー性の維持とスルホン酸基の高濃度化によるプロトンパスの形成を試みることで、高温化での高いプロトン導電性を示す高分子材料の開発を試みる。 ポリマーブレンドCT膜には、平成27年度に合成したフレキシブルなドナーポリマーを用いてCT錯体膜の作製を試みる。同時に、異なるアクセプター分子を用いたCT錯体形成も試み、CT錯体複合膜科学の適応範囲の拡大を試みる。
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