2014 Fiscal Year Research-status Report
高機能性蛍光材料創成のための単分散無機ナノ粒子精密合成法の確立
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26410233
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
柴 史之 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 准教授 (10312969)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 無機微粒子合成 / 液相合成 / ナノ粒子 / 蛍光体 / 酸化ガリウム / タングステン酸カルシウム / リン酸カルシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は,蛍光体の前駆材料であるオキシ水酸化ガリウム(GaOOH),関連材料である水酸化リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト,HAP)粒子,および蛍光体であるタングステン酸カルシウム(CaWO4)粒子の精密合成法検討を中心に研究を実施した。また蛍光特性評価のための予備的検討を行った。 GaOOHについては,硝酸ガリウム水溶液を,弱酸性領域において恒温保持することで,エリプソイド形状の単分散粒子が生成することを見出した。この条件は反応速度が遅く,1週間の反応でも収率は40%程度であった。速度論解析から,[Ga(OH)2]+錯体が前駆体となり,ここにOH-イオンが付加し脱水して,GaOOHが生成していることが示唆された。水の解離により供給されるこのOH-イオンの濃度は,このpH領域では非常に低く,反応速度が遅い主因となっている。高pH領域で反応速度は速くなるが,単分散性・形態に影響がみられた。 HAPに関しては,ニトリロ三酢酸(NTA)ナトリウム共存下での水熱合成反応で,ワイヤー状の一次元形状粒子が選択的に生成することを見出した。硝酸カルシウム水溶液にNTAナトリウムを添加すると,30分程度でNTAナトリウムカルシウム(NTA-NaCa)の白色沈殿を生じる。これが水熱反応において,徐放性のカルシウム供給源となっている。この成果は,通常のキレート剤としての役割とは異なる,NTAの新しい利用法の提案につながると期待される。 CaWO4については,クエン酸によるサイズ形態制御を中心に検討を行った。クエン酸共存下において反応条件を適切に設定することで,単分散性の良好なスピンドル形状粒子生成することを見出した。一方で,この粒子は粒界の多い多結晶体であり,(多分散ながら,ほぼ単結晶である)クエン酸フリーで合成した粒子より,蛍光発光強度は低かった。単結晶性の向上も考慮する必要があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である平成26年度の目標は,蛍光体粒子の精密合成法の基盤を作ることにあった。この観点においては,オキシ水酸化ガリウム系,酸化タングステン系で,反応速度が遅いなどの問題は残っているものの,今後の進展につながる基礎的成果が達成されている。ヒドロキシアパタイト系においては,ワイヤー形状粒子という特徴的な粒子合成に成功した。加えて,NTA-NaCaという徐放性のCa貯蔵源を見出しており,これは,今後,新たな展開が期待出来る成果であると考えている。蛍光体という観点では,若干遅れているが,GaOOHからGa2O3への変換と蛍光発光の確認やCaWO4における評価など,今後の蛍光特性評価に必要な,最低限の準備は行うことができている。粒子合成系において,新しい展開の萌芽を見出せたことなど,予定外の成果が得られた面も考慮すれば,総合評価としては,概ね予定通りに進行していると判断できる。 2年目以降,遅れている部分の挽回を図ると同時に,新しい展開も積極的に推進し,予定以上の研究成果を達成すべく,更に研究を進めて行く。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度も引き続き,オキシ水酸化ガリウム,ヒドロキシアパタイト,酸化タングステンを中心として,これらの微粒子の精密合成法を検討していく。また,順次,得られた粒子の蛍光特性評価にも,研究内容を拡げて行く。 GaOOHについては,単分散性を維持したまま,反応速度を上げる方法を検討し,収率の向上を目指す。特に弱酸性領域での合成では,pHの影響が速度に大きく作用するので,これに着目した反応系を構築する。同時に,高pH領域における合成についても,強制核生成法の導入等により,単分散性の向上を目指す。またGa2O3への変換反応(焼成)条件を検討と最適化を進める。 ヒドロキシアパタイトに関しては,NTAの作用や,ワイヤー状粒子の生成期挙動を,より詳細に検討した上で,OHをハロゲン(F, Cl)で置換した,ハロリン酸カルシウム蛍光体粒子の合成へと発展させる。NTA-NaCaをCa源として用いることで,反応条件の選択性が拡がると期待できるので,ハロゲン導入が達成できる条件の確立を目指す。なお,ハロゲン導入の成否は,TEM-EDXにより確認する。 タングステン酸カルシウムについては,新たに,上述のNTA-NaCaをCa源とした反応系の可否を検討する。NTA-NaCaの生成条件や,CaWO4への反応条件の最適化検討が必要である。まず,反応そのものが進行する条件を見出した上で,単分散化を目指した精密合成の反応系設計へと進む。反応速度を考えると,オートクレーブを用いて,100 C以上で反応させることが必要であると想定される。これらが単結晶性に与える影響についても注意を払う。 いずれの粒子系においても,様々に制御された粒子の精密合成を行い,蛍光特性を,サイズや形態の関数として,評価を開始する予定である。
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Causes of Carryover |
分光蛍光光度計の導入に際して,購入するタイミングで,丁度メーカーのキャンペーンが行われたため,当初の予定額よりも低い金額で購入できたこと,および今年度の学会開催地が近隣で行われたため,出張旅費を支出する必要が生じなかったことが,今年度に,次年度使用額が生じた主な理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
この次年度使用額は,今年度の,試薬(特にガリウム塩)や電子顕微鏡関係消耗品等の購入費として使用する予定である。これらは,研究に用いる消耗品のなかでも,単価が比較的高額であり,研究の進展に伴い,使用量の増加が予想されることから,これを有効に利用する。
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