2015 Fiscal Year Research-status Report
ナノスケールCO2による次世代安定地中隔離技術の開発
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26420138
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
植村 豪 東京工業大学, 理工学研究科(工学系), 助教 (70515163)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | CO2地中隔離 |
Outline of Annual Research Achievements |
大気中への多量のCO2排出を防ぐ二酸化炭素回収隔離(Carbon Capture and Sequestration, CCS)において,CO2地中隔離が最も量的寄与の大きなCO2削減技術として期待されているが,CO2は浮力によって地下帯水層中を上昇するため,地表へのCO2漏洩リスクを低減させる,社会的受容性の高い地中隔離手法の確立が求められている. 前年度までの研究では,高圧水中でナノスケールCO2液滴を生成し,帯水層を模擬した多孔質内における浸透現象のX線透過計測を行った.その結果,ナノスケールCO2と通常の液体CO2では,多孔質モデル内における浸透挙動が大きく異なり,浸透したナノスケールCO2がゆっくりと上昇する様子が捉えられた.本年度の研究では,多孔質内のミクロな流路におけるCO2のトラップ・浮上の基礎的挙動を明らかにするため,多孔質の空隙構造を想定した模擬流路(くびれガラス管)を用い,ミクロスケールのCO2液滴のトラップ・浮上の基礎的なメカニズムを解明し,界面活性剤が及ぼす影響を明らかにすることを目的とした. 実験の結果,水-CO2系ではくびれガラス管内でCO2液滴がトラップされる際,上端接触角と下端接触角に僅かな差異があり,接触角差とガラス管径差に起因する毛管圧差で保持されるCO2液滴の大きさが決定づけられていた.一方,界面活性剤水溶液-CO2系でもCO2液滴がトラップされたが,CO2液滴は壁面と直接接触していない可能性が示唆された.これはCO2液滴表面とガラス壁面には界面活性剤分子が吸着するため, CO2液滴とガラス壁面の間には界面活性剤水溶液が介在していると考えられる.このため,界面活性剤を用いたナノスケールCO2が砂岩多孔質中でトラップされる場合においても,空隙構造を構成するポア・スロート径がCO2のトラップ・浮上現象の重要な因子になっていると考えらえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,屈折率の低いガラス粒子で多孔質モデルを構成すると共に,二種類の非混和な試験流体の屈折率をガラスと完全に一致させる,屈折率マッチング法を用い,多孔質内での二流体の流れ場をリアルタイムで捉えることを想定していた.しかし,さらに基礎的な構造としてくびれガラス管を対象とし,高倍率顕微鏡を用いることで,実際の単一CO2液滴の静的・動的な挙動の可視化に成功した.ミクロスケールのCO2液滴が空隙部分でトラップされる様子が捉えられ,CO2液滴の基礎的なトラップ・浮上メカニズムに資する知見を得ることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により,基礎的な空隙構造に対するCO2液滴のトラップに関する知見が得られ,さらに界面活性剤の存在によってCO2相と壁面の間には水相が介在しながらCO2液滴がトラップされる可能性が示唆された.一方,空隙中を浮上するCO2液滴の動的挙動の解明が今後の課題である.実験的には本年度に実施したガラス素材を用いた可視化実験を展開すると共に,格子ボルツマン法(Lattice Boltzmann Method, LBM)を用いた数値シミュレーションを行う. LBMは複雑な流路構造における二相流の解析に適した手法であるため,空隙中を浮上またはトラップされるCO2液滴の動的挙動を解析することが可能である.実験系と対応させた数値シミュレーションを実施すると共に,最終的にはこれまで得られた結果から多孔質モデル内のナノスケールCO2の浮上・トラップ現象に関する総合的な考察を進め,帯水層におけるナノスケールCO2地中隔離の実用化に向けた基礎的知見を統括する.
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Causes of Carryover |
既存装置の軽微な改良でCO2液滴の浮上・トラップ現象を高倍率顕微鏡で観察できた結果,X線CTによる三次元計測のための可視化容器分の繰越額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越し分については,平成28年度に実施する数値計算で用いる大型計算機使用料,および実験機器(観察光学系部品等)・消耗品(多孔質サンプル,試薬等)に用いる予定である.
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