2015 Fiscal Year Research-status Report
水溶液に替わる新規電解溶媒からの磁性膜創製に関する研究
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26420274
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
柳井 武志 長崎大学, 工学研究科, 助教 (30404239)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 深共晶溶媒 / めっき / 磁性材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
Fe-CoやFe-Ni-Coなどの材料系を中心に成膜を行い,浴組成やめっき条件が各種膜特性に与える影響を検討した。H27年度は主に,結晶構造や成膜速度の向上および膜質改善に注力した。高い飽和磁化が期待されるFe70Co30付近の組成を有する膜のTEM観察を行ったところ,結晶粒径が数十nm程度の極めて微細な組織が形成されていることがわかった。高飽和磁化かつ微細組織が得られたことから,ナノコンポジット磁石のソフト相への応用が期待される結果となった。また,電流密度の増加による成膜速度の向上を検討したところ,100 mA/cm2程度の電流密度までは,ほぼ電流密度に比例した成膜速度が得られたが,それ以上になると成膜速度が低下することが確認された。詳細に検討を行ったところ,高電流密度領域で電流効率が低下することが判明した。これに対して,浴濃度を増加させ同様の実験を行ったところ,電流効率の低下が抑制され,500 mA/cm2程度までの高電流密度を適用できることがわかった。この時の成膜速度は約500 um/hであり,スパッタ法などの代表的な成膜手法と比較すると著しく高い速度であった。Fe-Ni-Co膜の磁気特性では,おおむね既報の水溶液で得られたものと一致したが,保磁力に関してはFe-rich組成の領域で大きな差異が観測された。新規電解溶媒浴から作製したFe-rich組成の膜は,先述のように微細な組織が観測されたことから,形成される組織の違いが保磁力に影響を与えたと推察している。また,光沢剤に対する検討を行い,Niを多く含む膜にて一部光沢作用が確認された。AFM観察を行ったところ,膜の平滑性が改善する傾向が得られており,膜質の改善に関する実験にも着手できた。希土類元素のめっきを検討すべく,Sm-Co系膜の検討を行ったところ,Smの析出は確認されたが,熱処理後に大きな保磁力が観測されず,高保磁力の発現が今後の課題となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度は,Fe-NiやFe-Coなどの合金系膜の作製およびその特性評価を研究計画に掲げていた。Fe-Niに関しては,H26年度に一部着手できていたことから,H27年度は主にFe-Coの2元系およびFe-Ni-Coの3元系合金膜を検討した。H26年度にSEMやXRD測定から微細な組織が構築されている可能性を得ていたが,実際にTEM観察を行ったことでその直接的証拠を得ることができた。また,その微細組織が新規電解溶媒から作製した膜特有のものであり,水溶媒から作製したものとは異なる可能性を示唆するものであった。Fe-Ni-Coの3元系合金膜についても,電流密度や膜質,磁気特性など一通りの評価は行うことができた。H28年度に計画していた実験の一部(希土類元素のめっき膜)にも着手した。H26年度およびH27年度の大部分の実験は,基礎的な知見を得るために,光沢剤や表面平滑剤などの添加剤を用いずに成膜を行ったが,得られた膜は軟磁性材料・高磁性材料ともに磁気特性が十分とは言えなかったため,その改善に向けて膜質の改善にも着手した。イオン液体を用いたAlめっきの報告を参考にし,光沢作用があると報告されていた添加剤を数種類検討したところ,Niが多い試料で光沢作用があることが確認され,新規電解溶媒を用いためっき浴においても添加剤によって光沢ある膜を作製できることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
H26~27年度の研究を通じて,深共晶溶媒(DES:Deep Eutectic Solvent)を電解溶媒として用いれば幅広い組成範囲で高い電流効率が得られることはわかってきたが,磁気特性には改善の余地があることが確認された。現在,その理由に関して,表面平滑性の改善に着目し,検討を進めている。H28年度は主に添加剤とめっき条件による表面平滑性の改善ならびに磁気特性の改善を検討する。加えて,Sm-Coなど希土類元素を含む合金系の膜の作製を行う予定である。H26~27年度の研究では,DESには主にエチレングリコールと塩化コリンの組み合わせを用いてきたが,還元電位が大きく卑である希土類元素のめっきには,このDESの組み合わせでは不十分であることが予測されるため,新規DESの組み合わせの適用も予定している。また,Sm-Co膜にて高保磁力を発現させるには,Smの酸化抑制が必要であると予測されるため,雰囲気制御した環境下でのめっきや真空中でのめっきも必要に応じて実施する。また,Sm-Co膜では高保磁力発現に熱処理が必要となることから,熱処理条件に関する系統的な評価も行う予定である。
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Causes of Carryover |
調達方法の工夫などにより,当初計画よりも経費の節約ができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
試薬購入費用の一部として使用する。
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Research Products
(13 results)