2015 Fiscal Year Research-status Report
波長チャープ量が制御された小型光変調素子とその応用
Project/Area Number |
26420313
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
榎原 晃 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (10514383)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河合 正 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (30275309)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 電気光学光変調器 / 波長チャープ / ニオブ酸リチウム / ラットレース回路 / 並列リング型 / 光周波数コム / プリチャープ変調 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、波長チャープ量が正確に制御された電気光学光変調器(EOM)を提案・実現し、有効な応用ができることを実証する。具体的には、非等分配ラットレース(RR)回路と呼ばれる変調信号を任意の電力分配比で分配するマイクロ波回路をEOM基板上に集積化する構成により、小型・ワンチップで実用性の高い波長チャープ変調器の実現を目指している。さらに、このEOMを、光ファイバ通信での波長分散の影響を回避するプリチャープ変調や、光周波数コム信号の生成に応用することを最終の目標としている。 27年度はチャープ光変調器の実現に向けて、実際に非等分配RR回路と光変調電極とを集積化し、一体型変調器を設計・試作し、特性評価に成功した。大きな電力分配比の非等分配RR回路を用いれば、大きな波長チャープが得られるが、線路のインピーダンス差が大きくなり、回路設計は困難になる。そこで、並列リング型と呼ばれる新しい回路構造を採用し、電力分配比1:4.5の高分配比の非等分配RR回路の実現に成功した。このRR回路を用いて試作した変調器は10GHzにおいて300mWの信号入力での変調指数は0.22π radで,0.47の大きなチャープパラメータが得られた。 また,長距離光ファイバ伝送実験によりチャープパラメータの精密な実測に成功するとともに、光ファイバの波長分散の影響を,波長チャープ変調により回避するプリチャープ変調に有効であることも実証できた. さらに、28年度計画の一部である光コム発生条件の詳細な検討を行った。また、チャープ変調の新たな応用として、計画にはなかったEOMの変調歪補償動作についても検討を行った。これら研究成果は論文発表、国内外での国際会議発表や国内学会発表などで公表している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年度計画では、小型・ワンチップ構成のチャープ光変調器実現に向けて、「RR回路一体型EOMの設計・試作と変調器構造の最適化、および、波長チャープ量の精密な評価」を行い、以下の2つの研究課題の解決を目標としていた。それぞれについて、内容と成果を述べる。 (1) 「RR回路一体型EOMの設計・試作」: 分配比6.5dB(4.5:1)の非等分配RR回路と光変調電極との一体化回路構造を設計し、実際に10μmの膜厚の金パターンを使って一体型EOMを作製した。試作評価の結果10GHzにおいて300mW変調信号入力での変調指数は0.22π rad,チャープパラメータは0.47が得られ、ワンチップ構成のEOMでのチャープ変調動作を確認した。 (2) 「変調器構造の最適化、および、波長チャープ量の精密な評価」: 上記のEOMを用いて、長距離の光ファイバ伝送実験を行い,波長分散を利用したチャープパラメータの精密な実測に成功し、0.47のチャープパラメータを確認した。さらに、この実験により、ファイバの波長分散の影響を波長チャープにより回避するプリチャープ変調にも有効であることを合わせて確認した。プリチャープ変調への応用実験は、28年度課題の一部である。ただし、当初目標の最大分配比10dB のRR回路の作成については所望の特性が得られなかったが、現在構造改善中で28年度早々には完了する見込みである。 28年度計画である「EOMによる光コムの発生条件を詳細な検討」についても一部実施し、7本の光コム発生には分配比6dBのRR回路を用いたEOMで4W程度の耐電力性能が必要であることを確認した。また、チャープ変調の新たな応用として計画にはなかったEOMの変調歪補償についても検討を行った。研究成果は論文発表、国内外での国際会議発表や国内学会発表などで公表している。
|
Strategy for Future Research Activity |
28年度計画は、一部はすでに着手しており、当初の研究実施計画に従って進めていく。最終年度である28年度の計画内容は「光コム発生、プリチャープ変調応用に適したEOMの設計・試作、および、実証実験」であり、27年度の成果を元にして試作したEOMを実際に様々な応用に適用し、その有効性を実証することである。 具体的には、「(1)光コム発生実験」では、すでに、EOMによる光コムの発生条件の解析・検討は終わっており、その結果をもとに、4W以上の耐電力性を有するRR回路一体型EOMを実現できれば、本EOMで光コム発生が可能であることを実証している。耐電力性向上と変調効率の向上のために20μmの厚膜パターンを用いることを予定しており、これにより所望の耐電力性とチャープパラメータ、変調指数が得られるものと思われる。 また、「(2)プリチャープ変調」については、昨年度、周波数10GHzでファイバ長40km付近での分散補償の動作を実証でき、目標は概ね達成している。本年度は、動作条件を広げて、広いファイバ長の範囲で分散補償可能であることを実証したい。 さらに、本研究でのチャープ変調器の新しい応用として、新たに検討し始めた歪み補償動作実験について実際に動作実証実験を進めていく予定である。 予算執行については、昨年度までに素子設計では概ね目処が立ってきたので、28年度は実験施設借用のための共同研究先(情報通信研究機構:東京都小金井市)への旅費と、研究成果発表のための旅費が中心となることが予想される。
|
Causes of Carryover |
米国で開催されるマイクロ波関連で最も権威のある国際会議(International Microwave Symposium 2016)に本研究成果を投稿し、論文が採択された。そこで、28年5月に研究発表に行くことになり、想定よりも多くの出張費が必要となると予想される。また、チャープ変調器の新たな応用として、計画にはなかった歪み補償動作の実験も追加で検討しており、研究経費も予定よりも多く必要になると考えられる。 27年度の研究遂行では目立った問題も無く、順調であったため費用の節約が可能であった。そこで、28年度に上に述べた費用を新たに捻出しても研究活動が順調に遂行できるよう、27年度予算の一部を28年度の経費に充て、全体の研究効率を向上させることを考えている。これにより、もし、計画通り進まなかった場合への対応もより容易になると判断した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
全体計画には変更はない。28年度に繰り越す費用を使って、国際会議への出張費用と、歪み補償動作実験のための諸費用に充当する予定である。
|