2014 Fiscal Year Research-status Report
常時微動の部分測定記録に基づく建物の局所的な損傷検出に関する研究
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26420560
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
飯山 かほり 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 産学官連携研究員 (90711870)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 構造ヘルスモニタリング / モード同定 / 損傷推定 / 局所損傷 / FDD法 / パワースペクトル / 劣化建物 / 高密度微動測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
目的と意義:本研究は,常時微動の高密度測定に基づき建物の局所的な損傷検出を行うための方法論を展開することを目的とし,代表的な構造ヘルスモニタリングの手法のうち地震計を導入していない建物に適用できる「常時微動を利用する方法」に焦点を当てている。この方法の大きな課題となっているのが,実建物の測定記録に基づく研究が限られており,損傷検出のための各種方法論の検証が十分でないことにある。方法論の発展に資するには,実建物の微動測定記録を得,これを丁寧に分析しながら課題を抽出することが重要となる。
具体的内容:今年度は,損傷建物の代替として著しく劣化した2棟の鉄筋コンクリート造建物を対象に高密度微動測定を行い,建物の劣化の現状と照らし合わせた分析・考察を行った。1棟は長辺方向の片側における基礎杭の露出が,もう1棟は廊下部床の局所的な剥離・腐食が大きな特徴であった。そこで,前者に対しては水平方向振動特性から建物全体のフレーム挙動を調べ,後者に対しては上下方向振動特性から局所的な床の振動性状を調べた。その結果,前者ではその振動特性が一般的な同種の建物と大きく異なりアンバランスで複雑な振動性状を有し,床面内の捩れ変形が回転ではなくせん断的に変形していること,長辺方向の床の面内変形が線形的でなく曲線的であること,面内の高次モードが10Hz以下の低振動数に出現することを明らかにした。また,後者では,局所的な床間の振動性状の違いをパワースペクトルおよび振動モードから比較することを試み,劣化が最も著しい床部においては振動エネルギーが大きいこと,またその床のみの振幅が卓越するモードが,全体上下モードの振動数(11Hz)以下の低い振動数(8Hz)に見られることを明らかにした。
意義と重要性:高密度な微動の実測記録の蓄積と分析は,損傷検出のためのより実用的な方法論に役立つものであると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の当初研究計画においては,測定データの信頼性精査および使用データ区間選定,文献調査,現地写真の整理,ポータブル振動計間の時刻ずれの補正方法の検討を予定していた。測定データは既に得られていたものを利用する予定であったが,10月より職場異動があり,そのデータの利用は難しくなった。 そこで,10月に新たに微動測定を実施し,これに対しては当初予定どおりに信頼性精査と使用データ区間選定,現地写真の整理,文献調査を実施した。ただし,新たな測定においては時刻同期が取れる振動計を用いたため,振動計間の時刻ずれの補正方法については省略している。 このため,当初計画についてはおおむね順調に達成できていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,当初計画どおりに基本的な床振動特性について文献に基づいて整理した上で,数値実験を併用することで,実測記録に基づく振動特性と,局所的な建物の劣化・損傷状態との関連づけを行う予定である。特に,上下振動特性はターゲットとなる振動数が高い振動数領域にあり,非常に複雑である。例えば,本年度の測定によれば,各位置の廊下床部の卓越振動数は,既述のように8Hz付近に見られたものを除いては,概ね25~35Hz付近にあると推察された。損傷同定を行う方法に,振動モードの傾きや曲率を利用する方法があるが,水平振動と比較して上下振動モードの振幅は建物の構造特性の影響を大きく受け,単純にモード振幅を比較することが難しい。すなわち,上下振動モードの振幅が固有振動数や支点の連続条件などによって異なるために,振幅の違いが構造に起因するのか,または損傷や劣化などによる質量・剛性低下に起因するのかを判断することが難しい。このため,特に床を含む振動特性については,立体フレームモデルまたはFEMモデル等の数値モデルを用いた固有値解析を行い,ベースとなる大凡の振動性状を把握することが必要となる。 なお,本年度微動測定を行った場所は,常時微動の主とした入力源である人工的な活動がない離島であったことから,全体として微動振幅レベルが非常に小さく,特にもともと振幅の小さい上下振動ではSN比が課題となった。必要に応じて測定を追加する際には,振動計の感度を考慮し,また人工加振が可能な方法について考案する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が79551円(>0円)となっております。 これは、10月に異動があった関係で予定していた微動測定記録の利用が簡単ではなくなったこと、ただし、本研究に必要となる微動測定を行う機会ができたことから、測定にかかる費用を前倒し計上したためです。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の金額については、国際会議参加費をすぐに計上する予定です。
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