2015 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおけるアンリ・プロストの都市計画とミュゼ・ソシアルの役割に関する研究
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26420646
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
三田村 哲哉 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (70381457)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | パリ地域圏計画案 / ヴァール圏コート・ダジュール保護・開発計画案 / ユベール・リヨテ / 都市開発 / 自然保護 / グランド・デザイン / ジャン・ロワイエ / フランス都市計画家協会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主な研究成果は次の3点である。これらの成果はパリのフランス建築協会20世紀資料センター、フランス国立古文書館、ミュゼ・ソシアル図書館、ルーベ国立古文書館ほかにおいて収集した史料に基づいたものである。第一はパリ地域圏計画の背景についてである。ローマで建築家トニー・ガルニエに影響を受けた建築家を中心に帰国後、諸外国の主要都市において計画案を描きながら、20世紀型のフランス都市計画を模索していた。1919年3月14日に都市計画法案が成立した後、彼らが母国の地方都市の計画案を描くようになる。パリ地域圏計画もそのひとつで、総督ユベール・リヨテの下でモロッコ15都市の計画の立案と実施という卓越した実績のあるプロストに委ねられた。 第二はミュゼ・ソシアルについてである。1911年にその都市・農村衛生部会に所属する建築家や風景画家がレオン・ジョスリーらとともにフランス都市計画家協会を設立する。同法案はミュゼ・ソシアルによるアメリカやドイツの調査研究を参考・指示に基づいて、同協会の建築家らによって検討されたもので、この時代のフランスの都市計画はミュゼ・ソシアルが主導する形で形成されたものであるといえる。 第三はパリ地域圏計画についてである。こうした背景の下で描かれた同計画は、プロストがいう「交通・衛生・美学」に基づいて、航空写真という新たな技術を導入しながら、行政区画ばかりでなく道路交通、空地、ゾーニング、空路・鉄路、実現性という5つの項目について具体案が示されるとともに、パリ城壁外のヴェルサイユほか5箇所が保護の対象に定められ、周辺地域の建築規制や鳥瞰の保全が提案されたものであった。 戦間の近代主義全盛の時代に、パリにおいても開発と保護を組み合わせた都市計画が提案されており、それが後世の都市計画に大きな影響を与えることになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の主な考察の対象は、プロストが母国フランスにおいて手がけた都市計画で、ヴァール県コート・ダジュール保護・開発計画(1922-1939)、パリ地域圏計画(1928-1934)、モン=ドール(1926)、サン=ディエ(1927)、メッス(1928-1931)のために描かれた案である。初年度の研究対象はヴァール県コート・ダジュール保護・開発計画で、次年度はパリ地域圏計画である。両者はともにおおむね完了しつつある。また両研究対象に関する考察はパリのフランス建築協会20世紀建築資料センターFonds Henri Prostに保管された資料のみならず、それぞれヴァール県古文書館、パリ国立古文書館に保管された未公開資料の最終報告書に基づいたものである。 またこの時代の都市計画は先述の通り、スペインの都市計画家イルデフォンソ・セルダが描いたバルセロナに関する研究を遂行したフランスの建築家・都市計画家レオン・ジョスリーが“urbanisme”を伝えた後、20世紀初頭のフランスで波及したものなどを基本としつつ前世紀のとは異なる形で形成された。その背景ではミュゼ・ソシアルが非常に大きな役割を果たしていたことも明らかにした。 さらに本研究課題では建築・都市計画に関する資料のみならず、官報や公報などの政治・行政資料も必要になるが、それらの収集活動も順調に進んでいる。 研究対象の順番に変更が生じたものの、それぞれ着実に考察が進んでいること、背景にあるプロスト以外の建築家を含む20世紀前半のフランス都市計画や、ミュゼ・ソシアルが果たした役割についても明らかにしていること、いずれの研究も新資料に基づく新知見を提示していることを鑑みると、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えてよい。
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Strategy for Future Research Activity |
ルーベ国立古文書館に保管されているプロストの功績を称えたメダルにはローマ、アントワープ、モロッコ、メッス、ヴァール県コート・ダジュール、パリ地域圏、イスタンブールと記されている。したがってメッスの都市計画は研究対象からはずせない。最終年度の主な考察対象は、まず第一にメッスをはじめにモン=ドール、サン=ディエといったフランスの地方都市である。いずれも山間部の小都市であるため、ヴァール県コート・ダジュールやパリ地域圏とは異なる成果が期待できる。 第二はヴァール県コート・ダジュール保護・開発計画に基づいた実施案に関する考察である。本研究の目的は、プロストの建築・都市計画に通底する設計手法・設計理念の解明であり、実施案は本来の考察対象ではない。しかし20世紀型のフランス都市計画を明らかにする上で不可欠な考察対象であるといえる。ヴァール県コート・ダジュール内のガッサン市では、プロスト案に基づいた都市計画の実現に関する資料整理が進んでおり、有益な研究対象であると考えられる。こうした観点から同市の考察を検討している。 第三は資料収集についてである。プロストに関する史料は散逸しており、そのうち一部がファンテーヌブロー国立古文書館とブリュッセル近代建築資料館に保管されている。前者の史料は個人情報や私有不動産に関するものが含まれているため、原則非公開になっており、閲覧が困難な状態にある。資料目録によると、本研究に必要な資料が含まれているため、可能な限り資料収集を徹底する。 次年度は本研究課題の最終年度にあたり、以上の3点が今後の研究推進のための方策になる。これら一連の研究活動を遂行して、本研究課題をまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
当初の研究費使用計画では、ヴァール県コート・ダジュール保護・開発計画およびパリ地域圏計画の両者を中心に研究を遂行するため、主な経費には夏季休業期間と春季休業期間にそれぞれ2-3週間フランスに出張するための旅費と図書費・史料購入費を計上していた。出張期間の主な研究活動は資料収集と実地調査である。しかし本年度、夏季休業期間にフランス出張が困難になり、今年度の同出張は春季休業期間中に2-3週間を利用したもののみにとどまった。しかし研究の成果については先述の通り、ヴァール県コート・ダジュールとパリ地域圏に関する研究が進んでおり、本研究課題の全体を鑑みると、概ね順調に進展していると判断できる。 夏季休業期間に実施する予定であったフランス出張の旅費は、こうした理由に基づいて次年度の使用額として計上することを余儀なくされた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の使用計画の基本は、当初の研究費使用計画である。その内容はフランス地方都市に焦点を当てた研究であり、次年度使用額はそれらを中心に遂行する研究経費に使用する予定である。次年度も研究のためのフランス出張を計画している。その回数は夏季休業期間および春季休業期間にそれぞれ1回づつで、資料収集と実地調査のための出張を実施することを検討している。また本年度夏季休業期間に実施する予定であったフランス出張の業務内容が次年度に繰り越されることになったため、その期間は当初計画していた出張期間よりも長期に渡るものを検討している。 こうした形で今年度生じた次年度使用額を有効に活用して、最大限の成果を残すことを目指す。
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