2014 Fiscal Year Research-status Report
結合形態を越えて成り立つヒューム・ロザリー型相安定化機構の研究
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26420668
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Research Institution | Nagoya Industrial Science Research Institute |
Principal Investigator |
水谷 宇一郎 公益財団法人名古屋産業科学研究所, その他部局等, 研究員 (00072679)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 準結晶 / ヒューム・ロザリー電子濃度則 / 遍歴電子の干渉効果 / 擬ギャップ / 複雑構造化合物 / 結合形態 |
Outline of Annual Research Achievements |
巨大単位胞を持つ系のヒューム・ロザリー型相安定化機構をさらに進めるため、単位胞にN=160個の原子を含むNa-Au-Ga系1/1-1/1-1/1近似結晶群とN=680個の原子を含むNa-Au-Ga及びAl-Mg-Zn系2/1-2/1-2/1近似結晶についてFLAPW-Fourier解析を行なった.前者は3つのサブグループに分類され、それぞれが|G|2=42, 46, 50で指定される格子面群との干渉効果で安定化することを示した.後者では、2つのサブグループに分類され、それぞれは|G|2=109と126で指定される格子面群との干渉効果で安定化することを示した. 第2の研究実績として、金属結合、共有結合そしてイオン結合をそれぞれ定量化して評価する手法を開発して結合形態を越えてヒューム・ロザリー型相安定化機構が成り立つかどうかをP-基化合物群を使って評価した.具体的には、Allenの電気陰性度を使ってvan Arkel-Ketelaar三角図に各化合物の結合形態を位置づけることが出来た.さらに.構成元素のs-及びp-部分状態密度において占有状態の重心エネルギーを求め、Allenの電気陰性度の背後にある物理を明らかにした.この手法をPと周期律表の周期3及び周期4に属する元素との2元化合物に適用し、それぞれの系に存在する化合物群に対してFLAPW-Fourier解析を実施した.P単体は共有結合度(covalency)70%であることを示した.第15族のPにそれより離れた族に属する元素と化合物を作る程、イオン結合度(ionicity)が増大することそしてアルカリ金属とPの化合物ではイオン結合度が64%に達することを明らかにした.FLAPW-Fourier解析を行なった結果、イオン結合度が50%を越えるとヒューム・ロザリー型相安定化機構の決定精度が低下することを見出した.また、周期律表の3d, 4d, 5d遷移金属を含む52個に達する元素のe/aを精度高く決定した. 第3の実績として「複雑金属合金相の電子論」と題して100ページ程の本を出版した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
固体の結合形態は金属結合、共有結合、そしてイオン結合の兼ね合いで決まる.個々の貢献度をどう定量化するかが本研究課題で最も重要なテーマであった.幸い、Allenの電気陰性度の物理的位置づけに成功し、これを使って沢山の2元化合物に対して計算した3つの結合度をvan Arkel-Ketelaar三角図にプロットすることで個々の化合物の結合形態を定量化することに成功した.実際、FLAPW-Fourier法で得られた個々の化合物の電子構造はこの三角図で位置づけられた結合形態とよく整合していることを発見した.これを武器にヒューム・ロザリー型相安定化機構が三角図上でどの範囲まで成立しているかを明確に示すことが出来た.これは当初計画していた以上に早い進展であると位置づけている. ヒューム・ロザリー電子濃度則の基本的な解釈は1936年に提出されたMott and Jonesの自由電子模型に基づいている.しかし、遷移金属元素が含まれる系で自由電子近似が破綻する.自由電子近似を越える理論が構築出来ないまま今日に至っている.van Arkel-Ketelaar三角図で言えば、100%金属結合の左コーナーに限ってヒューム・ロザリー型相安定化機構が成り立つと信じているMott and Jones理論の信奉者がほとんどである.日本の理論家も世界で最先端の研究をしている研究者も例外ではない.これは遷移金属元素が入った系の理論体系の構築に誰も成功して来なかったからである.我々が開発したFLAPW-Fourier法こそこの難問を解決することが出来たと自負している.
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Strategy for Future Research Activity |
van Arkel-Ketelaar三角図上に分布する化合物群としてこれまでAl-, Zn-, P-化合物を対象にしてきた.今後はこの範囲を広げ、特に周期律表の第15族の元素であるAs, Sb, Bi、さらには第16族の元素S, Se, Teと遷移金属元素の化合物にまで拡大していく計画である.第15族の元素はe/a=5を持つ.また、第16族の元素は金属間化合物を形成するとそのマトリックスの中でe/a=6として振る舞うはずである.これら多価元素と遷移金属元素の組み合わせで出来る化合物群は強い共有結合性を持つはずであるにもかかわらず、我々は、これらの化合物でも電子濃度e/aで整理が可能であることを見出した.その結果、e/a=4.0に近い材料が次々と見つかるはずである.e/a=2.0及び4.0はブリルアン・ゾーンを電子で満たし、絶縁体や深い擬ギャップを形成しやすい電子濃度である.遷移金属と多価元素の化合物で特にe/a=4.0の材料探索を通じて新しい機能材料を提案出来る方向で研究を推進する計画である.
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Causes of Carryover |
FLAPW-Fourier計算を遂行するためのリナックス計算機が年度末に立て続けに故障した.次年度発売予定の安定性の高い機種を数台購入するための措置である.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
リナックス計算機 @150,000円x4台を予定します.
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