2015 Fiscal Year Research-status Report
集合組織制御した時効硬化型アルミニウム合金板の再結晶挙動と時効挙動
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26420742
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
井上 博史 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30137236)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 温間異周速圧延 / サブグレイン / 蓄積エネルギー / 大角粒界 / 方位関係 / 配向核生成 / 選択成長 / 微細析出粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
自動車ボディパネル用時効硬化型Al-Mg-Si合金のr値を大幅に改善し、優れた深絞り性を有する板材を得るために、冷間圧延と1パスの温間異周速圧延を適切に組み合わせた複合圧延を行い、r値向上に好都合な{111}<uvw>再結晶集合組織を溶体化処理中に効果的に発達させることを目的として、複合圧延した6022アルミニウム合金(Al-0.55mass%Mg-1.1mass%Si合金)における溶体化処理(高温焼鈍)中の{111}<110>再結晶集合組織形成機構を調査した。 配向核生成(Oriented Nucleation)説の立場から検討し、{111}<uvw>方位は他の方位と比べてサブグレイン内の転位密度が低く、蓄積エネルギーが低いことが示唆されたので、選択成長(Selective Growth)説の立場からSEM/EBSD解析により検討を行った。圧延後および再結晶初期段階において{111}<110>方位のサブグレインが高い割合で隣接粒と大角粒界を形成し、さらに{111}<110>方位は再結晶初期に約25%の比較的高い割合で周辺領域と共通<111>軸まわりの40°回転に近い方位関係を有することがわかった。{111}<uvw>サブグレインは高温焼鈍中に他の方位のサブグレインよりも速く再結晶粒になる傾向があり、特に{111}<110>再結晶粒は40°<111>に近い方位関係を有するため、優先的に成長しやすいと考えられる。また第二相粒子の影響として、{111}<uvw>サブグレインを取り囲む亜粒界または粒界に析出した微細粒子が少なく、{111}<uvw>方位粒はピン止めの影響を受けにくいことが示唆された。 時効挙動に関して、540℃-90s溶体化処理した試料(複合圧延・溶体化処理材)で時効挙動を調査した結果、ピーク時効では従来の冷間圧延・溶体化処理材とほぼ同じ0.2%耐力(約250MPa)が得られることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
85%の冷間圧延と200℃で30%の1パス温間異周速圧延を施した6022アルミニウム合金板に540℃-90sの溶体化処理を行うことによって、主方位が{111}<110>(体積分率:約30%)の再結晶集合組織が形成することが過去の研究で明らかとなっている。この加工・熱処理による{111}<110>再結晶集合組織形成の機構を解明し、この集合組織をさらに発達させ、深絞り性の優れた溶体化処理材を開発することは自動車車体軽量化にとって非常に重要な課題である。 析出物の影響も考慮した{111}<110>再結晶集合組織の形成機構がほぼ明らかになり、最適熱処理(再結晶焼鈍+溶体化処理)条件の検討段階に入ることができた。予備実験で行った熱処理法では、再結晶集合組織中に残存する、r値向上に不都合なCube方位{001}<100>をある程度低減することが可能となった。さらに再結晶焼鈍と溶体化処理の条件を検討し、{111}<110>再結晶集合組織をより発達させることを考えている。熱処理条件が決定すれば、その条件で作製した試料を用いて、集合組織測定、r値測定、深絞り試験を行い、再結晶集合組織制御による深絞り性向上の効果を評価できる。 最終的に最適化された再結晶集合組織を有する板材に焼付塗装に相当する時効処理(170℃-30min)を施し、150MPa以上の0.2%耐力が達成できるかどうかを調べることになる。上述の複合圧延・溶体化処理材で行った実験結果を考慮すると、時効材の強度に及ぼす温間異周速圧延や集合組織の影響はそれほど大きくないことが示唆されるので、今後の研究対象は、再結晶焼鈍の最適化を行い、溶体化処理材の深絞り性と時効材の強度を評価することが主体である。本研究課題で最も難しいと思われる再結晶集合組織形成機構の解明が達成されたことは今後の展開に非常に役に立つ。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、ほぼ解明された{111}<110>再結晶集合組織形成機構を前提にして、{111}<110>方位をより発達させるために、85%冷間圧延と30%温間異周速圧延した6022アルミニウム合金板の再結晶焼鈍条件を最適化する。実験範囲内での最適条件で再結晶焼鈍後に溶体化処理を加えた多段熱処理を施して複合圧延・最適熱処理材を作製し、X線回折による再結晶集合組織測定、引張変形によるr値測定、室温での深絞り試験を実施する予定である。 最適多段熱処理条件が決まれば再結晶挙動に関する研究を終了し、その熱処理条件で作製した試料を用いて170℃での時効挙動を調査する。時効挙動の調査として、硬度測定、DSC測定、引張試験による強度・延性評価を行う予定である。実用的な観点から、焼付塗装に相当する170℃-30minの時効処理を施し、150MPa以上の0.2%耐力が達成できるかどうかを明らかにする。この目標値が達成されない場合、時効処理前に低い温度で熱処理を行うなどの解決策を探る。 目標強度が達成されれば、溶体化状態で深絞り性に優れ、その後の時効状態(焼付塗装)で高強度を有するAl-Mg-Si系合金板が作製可能となり、自動車車体への応用が大きく進展する。このように、最終年度は主に再結晶焼鈍と時効処理の最適化を目的とする。
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Causes of Carryover |
当初の計画よりも業者に委託したEBSD測定の試料数が1個から2個に増加したことによる経費の増加を、人件費(博士前期課程1年の大学院生が研究を行ったため、不要となった)と消耗品費(物品費)の支出の削減で賄ったが、最終的に801円の端数が残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1,000円以下の少額のため、最終年度となる次年度の消耗品購入に使用する予定である。
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