2016 Fiscal Year Research-status Report
固相と水溶中イオンの新統合熱力学の開拓と使用済核燃料蓄積危機への対応
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26420758
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
森下 政夫 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (60244696)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 国際情報交換 フランス / 第3法則エントロピー / 標準生成エンタルピー / 標準生成ギブズエネルギ- / 標準溶解ギブズエネルギー / 飽和溶解度 / デバイ・アインシュタイン関数 / 地球化学シミュレ-ション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の成果は、経済協力開発機構(OECD)パリ本部が推進する核廃棄物管理のための地球化学シミュレーション電算機データバンクに登録された後、データブックとして刊行される.本年度、まず、使用済核燃料ガラス固化体中に生成する水溶性の有害相イエロ-フェーズ結晶群のホスト物質である三酸化モリブデン(MoO3)の第3法則エントロピ-を絶対零度付近からの熱容量測定により決定し、標準生成エンタルピーと組み合わせて標準生成ギブズエネルギ-を決定した。このMoO3(cr)の測定値と前年度までに実測に基づき決定したCaMoO4(cr)、SrMoO4(cr)およびBaMoO4(cr)の熱力学諸量との関係に基づき、カチオンが正2価であるときの、負2価のモリブデン酸イオン(MoO4 2-(aq))の熱力学諸量を決定した。すなわち、水溶液中イオンのMoO4 2-(aq)の標準生成ギブズエネルギ-、電気化学的標準電位、および第3法則エントロピ-を決定した。 決定したMoO4 2-(aq)の標準生成ギブズエネルギ-の結果に基づき、MnMoO4(cr)、FeMoO4(cr)、CoMoO4(cr)、NiMoO4(cr)、ZrMo2O8(cr)、 ThMo2O8(cr)およびUMoO6(cr)の 水溶液中への標準溶解ギブズエネルギ-および溶解度積を決定した。実験困難なアクチノイドのThMo2O8(cr)およびUMoO6(cr)の溶解度積を決定したことは特筆される。 本年度、Journal Chemical Thermodynamics誌より、原子力関連物質特集号にOECDプロジェクトの進捗を公知するため、学術論文として寄稿することを招請された。以上の成果をまとめ投稿した。現在、minor revisionの審査結果を受け、近々掲載確定見込みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H26-H28年度の研究成果は、国際学術論文誌に、4編が掲載、1編が掲載確定、1編が投稿中である。また、2編が投稿準備中である。国際会議において3度発表し、うち1回は招待講演である。 水溶液中イオンの熱力学諸量を決定するためには、固相からイオンに至る熱力学サイクルを完成させなければならない。固相から水溶液中イオンに変化する標準溶解ギブズエネルギ-は、水溶液中イオンと固相の標準生成ギブズエネルギ-の差として定義される。すなわち、未知の水溶液中イオンの標準生成ギブズエネルギ-を決定するためには、固相の標準生成ギブズエネルギ-および標準溶解ギブズエネルギ-を測定する必要がある。固相の標準生成ギブズエネルギ-を決定するためには、標準生成エントロピ-と標準生成エンタルピーを決定しなければならない。標準生成エントロピーを決定するためには絶対零度付近から熱容量を測定して第3法則エントロピ-を求める必要がある。標準生成エンタルピーを決定するためには、溶解熱カロリメトリ-を実施する必要がある。標準溶解ギブズエネルギ-を決定するためには、分光学的に飽和溶解度を測定する必要がある。水溶液中イオンの標準生成ギブズエネルギ-とファラデー定数を用いて電位に換算することで、電気化学的標準電位を決定できる。 以上の複雑な熱力学サイクルを、多岐に渡る熱力学測定によって完成し、水溶液中モリブデン酸イオンMoO4 2-(aq)の標準生成ギブズエネルギ-、電気化学的標準電極電位および第3法エントロピーの決定に成功している。 また、MoO4 2-(aq)の熱力学諸量を決定すると、未知物質であるThMo2O8(cr)およびUMoO6(cr)などのモリブデン複酸化物の溶解度積を予測することができることを実証している。 本研究によって体系化した方法論は固相と水溶液中イオンを統合する熱力学の概念を与えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに、カチオンが正2価であるときの、負2価のモリブデン酸イオン(MoO4 2-(aq))の熱力学諸量を決定した。カチオンが正3価であるとき、負2価のモリブデン酸イオン(MoO4 2-(aq))の熱力学諸量がどのように変化するのか検討する。この目的のため、希土類モリブデン複酸化物La2(MoO4)3(cr)およびNd2(MoO4)3(cr)の熱力学諸量を検討する。これらの固相は、前年度までに、絶対零度付近からの熱容量測定により、第3法則エントロピー決定した。今後、溶解熱カロリメトリーを実施し、これらの標準生成エンタルピーを決定し、標準生成ギブズエネルギーを求める予定である。 熱力学サイクルを完成のため、La2(MoO4)3(cr)およびNd2(MoO4)3(cr)の飽和溶解度測定の温度依存性を継続して測定する。この目的のため、当該申請研究において導入した吸光度式溶解度測定装置および申請者所属機関のICP発光分析を活用する。ただし、これら飽和溶解度の分光学的装置において、原理的に温度調節機能を付帯できないことから、室温でのみ測定が可能である。そこで、飽和溶解させた溶液を、厳冬期、春秋期、猛暑期に調整し、長期に渡り分光測定する予定である。吸光度法では、厳冬期、春秋期、猛暑期にすでに測定を実施した。ICP法での長期に渡る測定を行い、飽和溶解度の温度依存性を明らかにする予定である。 また、絶対零度付近からの熱容量測定を継続的に行い、Ce2(MoO4)3(cr)およびSm2(MoO4)(cr)に対象を拡大する予定である。 なお、CaMoO4(cr)-SrMoO4(cr) 擬2成分系のリップマン状態図の作成に着手する予定である。
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Causes of Carryover |
研究発表覧に記載したように、「使用済核燃料ガラス固化体中有害相Nd2(MoO4)3の第3法則エントロピー」と題して、日本金属学会(首都大学東京南大沢キャンパス)にて成果発表した。当初、生じた次年度使用額をこの成果発表旅費に充当する予定であった。H28年度末(H29年3月)、H29年1月14日および15日実施の大学センタ-入試試験監督業務手当が機関研究予算に振り替えられて支給された。支給予算額は成果発表旅費の相当額であったことからこの追加予算を成果発表に充て、その結果、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、研究成果をH29年度の国内学会発表のための旅費として支出する。
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Research Products
(12 results)