2016 Fiscal Year Research-status Report
燃料作物ジャトロファの安全性評価に基づく抗発がんプロモーション活性物質の取得
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26420801
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
梶山 慎一郎 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (20243496)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳原 格 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), 免疫部門, 部長 (60314415)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Jatropha curcas / phorbol ester / tumor promotion / anti tumor promoter / molecular probe |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者らは、バイオ燃料原料作物として有望な熱帯植物ジャトロファ(Jatropha curcas)の安全な普及と利用をめざし,本植物が産生するホルボールエステル類の毒性の詳細な検討や安全性の評価を行ってきた。 この過程でジャトロファの代謝産物中には,強力な発癌プロモーション活性を持つことが知られるトウゴマ由来の二次代謝産物であるPMA(phorbol 12- myristate 13-acetate)の作用を逆に抑制する作用を持つものが存在することを見出した。 昨年度(H27年度)までに、PE類を生産しないジャトロファ無毒株の抽出物を用いた発癌プロモーション活性評価を、マウス皮膚2段階試験および、ヒトバーキットリンパ腫細胞(Raji細胞)の間接蛍光抗体法を用いたEBV-EA(Epstein-Barr virus早期抗原)誘導試験、さらに、リアルタイムPCRを用いたEAのmRNAの定量解析を用いて検討し、無毒株抽出物は,マウス皮膚2段階試験においてPMAによる発がんプロモーション効果を抑制しないこと、有毒株抽出物がPMAの作用を有意に抑制すること,さらにこの抑制効果がジャトロファの産生するPE類に起因していることを示した。 一方、一般に化学発がん過程には多数の因子(タンパク質)が関与していると考えており、これらの因子が作用する各ステップに影響を与える化合物が見つかれば、発がん機構の解明に役立つ分子プローブとなりうるだけでなく、新しい抗がん剤の設計に示唆を与えるものと考えられる。 そこで、H28年度は,Jatropha curcasの産生するPE類の生理作用をさらに詳しく検討し、発がんの如何なる過程に本化合物が関与するかを明らかとする目的で、細胞増殖能と細胞形態変化誘導活性を調査し,腫瘍形成の過程と転移浸潤過程に与える影響をそれぞれ独立に評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の昨年度までの結果から、Jatropha curcasの産生するPE類(以下JcPEs)は、マウス皮膚に段階発がん試験および、EBV-EA誘導試験において活性を示すものの、その作用はPMAの活性の100分の1程度であること、PMAとJcPEsをこれらの試験に同時に供試することにより、JcPEsはPMAの活性をJcPEs 単独投与のレベルまで低下させることが明らかとなった。また、この研究過程でPE類添加に伴い浮遊細胞であるRaji細胞に形態変化が生じ、さらに形態変化したものは接着性を示すことを見出した。 細胞の接着性はがんの浸潤過程に関与すると考えられるため、H28年度は、JcPEsおよびPMAの細胞増殖能と細胞形態変化誘導活性を調査することにより,腫瘍形成の過程と転移浸潤過程に与える影響をそれぞれ独立に評価した。 試験の結果、細胞増殖活性においてはJcPEsは、供試した濃度範囲(0.001~10ppm)でほとんど活性は見られず、かつ1ppmのJcPEsをPMAと同時投与することによりPMAの細胞増殖活性を約5分の1にまで低下させることが明らかとなった。 一方、接着細胞への形態変化に関しては、0.0001ppm~1ppmの濃度範囲で活性が見られ、これはPMAの活性とほぼ同程度であった。このことから、JcPEsは細胞増殖活性はあまりなく、細胞分化活性が強いことが示唆された。今回得られた知見は、PE類の構造活性相関研究に有用な知見を与えるだけでなく、新しい分子プローブの分子設計にも資するものと期待される。このように本研究は現在のところ順調に推移していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のごとく、これまでの研究結果から、ジャトロファの代謝産物中に存在するホルボールエステル類(JcPEs)は、発がんプロモーション活性物質の標準として用いられるPMAと比して細胞増殖活性は低く、かつPMAに対して拮抗的に作用すること、さらに、細胞の形態変化を誘導し、接着性の細胞へ変化させることから細胞分化活性が強いことが示唆された。 以上のことから同じホルボールエステルに属する化合物でも分子構造の違いにより生理活性が大きく異なること、ホルボールエステル類が発がんに至る過程の複数個所で作用する可能性があることが明らかとなった。 一方、これまで実験に用いてきたJcPEsは、HPLC分析によりいまだ複数の分子種を含んでいることが分かっており、今後活性と構造の関係を詳しく解析していくためには、これらの分子種を分離し、分子種毎の活性評価を試みる必要がある。そのため、H29年度は、ジャトロファの産生するホルボールエステル分子種を各種クロマトグラフィーにて単離するとともに機器分析による構造確認をおこない、これらを個別に各種アッセイ系によって評価することにより、新しい作用機序をもった分子プローブ設計に資する情報を得たいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初予定していた旅費および謝金に関して実験の進行状況から最終年度にまとめて使用した方が妥当と判断したため。また物品費に関しては最終年度に分離用カラム等の支出が当初予想より多く見込まれるため、繰り越しとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H29年度は最終年度となるため、すべて計画通りに執行する。
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