2015 Fiscal Year Research-status Report
宇宙機用誘電体材料の極低温下における帯電特性に関する研究
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26420816
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Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
渡邉 力夫 東京都市大学, 工学部, 准教授 (20308026)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 極低温 / 誘電体 / 体積抵抗率 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,平成26年度に導入した10K冷凍機による冷却試験を引き続き実行し,真空チャンバ内に設置されたポリイミドフィルムを20Kまで冷却することに成功した.また,今年度は温度制御装置を導入し,20Kから353Kまでの温度範囲を実現することに成功した.冷却装置と試料を結ぶ伝熱経路を改良するとともに,試料台の設計を見直した結果,より早く極低温領域に到達することができた. 地球周回軌道上環境を模擬した電子線として,電子線エネルギー20keV,線量率1.0nA/cm2の電子線を極低温下のポリイミドフィルムに照射し,照射終了後の表面電位履歴を非接触表面電位計により計測した.計測温度は40Kと20Kとした.実験の結果,20Kの場合には,照射終了後に-6000Vであった電位は30日後においても-4000Vを維持しており,常温下における日数(2日)を大幅に超える長期間まで表面電位すなわち誘電体内部に蓄積した電荷が保持されることがわかった.40Kの実験においてもほぼ同様な期間電位は保持されており,極低温下における電荷蓄積の様子を明らかにすることができた.表面電位履歴から計算した体積抵抗率は20K,40K双方の温度下において10^17Ωmオーダーとなり,常温下における値(10^16Ωmオーダー)から1桁大きくなった.減衰時定数に関しても数10日間程度となり,極低温下において帯電した場合に蓄積した電荷の移動度が低く,誘電体内の空間電荷が長い期間とどまり続けることとなる.これは放電のリスクを高めることになり,極低温機器を宇宙機で利用する際に帯放電現象に十分注意しなければならないことを意味する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は当初の予定通り試料温度を一定温度に制御する温度調整システムを導入した.平成26年度に導入した10K冷凍機と合わせることにより,極低温から高温までの範囲で試料温度が制御できるようになった.これは当初の予定通りの進捗状況である.平成27年度前半は,冷却経路の改良や試料台の再設計に時間が取られて,思うような実験回数を実施することはできなかった.宇宙環境チャンバを研究室で共用していることも多数の実験回数を得ることができなかった原因でもある.また,極低温下において電子線を照射され,内部に空間電荷が蓄積した誘電体材料は,蓄積電荷の散逸が起こりにくく,電荷減衰(表面電位減衰)を観察するのに,月単位の時間を要することがわかった.今後は極低温試験専用のチャンバを用意する必要がある. 実験ケースとしては20Kと40Kの2ケースとなって,当初予定していた極低温域における温度変動が表面電位変化に与える影響を調査することはできなかった.しかしながら,それ以外は当初の予定通り順調に研究は進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
これまで計画通りの施設・設備導入が実現でき,実験を実施出来る環境が整った.今後は順次当初の予定通りの実験を実施し,解析作業を進めることとする.特に,極低温域における電子線照射された誘電体材料の表面電位特性に関しては,十分な時間を取って詳細な観測を行う必要がある.ただ,極低温域においては誘電体内に蓄積した電荷の移動後が極端に低くなるため,一度帯電した試料の表面電位が減衰するには数ヶ月かかるため,十分な実験回数をとることが困難である.また,真空チャンバと電子銃は他の研究室学生とも共用してるため,実験回数はさらに少なくなる.対応策としては既存試験装置を極低温試験専用として,新たに真空排気装置・真空槽・電子銃・表面電位計からなる計測システムを導入し,その他の試験を実施できるようにすることが挙げられる.その為,新規科研費申請や他の資金導入へ向けて検討を進める.
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Causes of Carryover |
平成27年度に実験装置・設備を概ね完成させた.旅費や消耗品もほぼ計画通りではあったが,計測器機の修理が生じたことなどにより若干の費用修正を行った.試験装置台なども自作するなど使用金額の削減に努めたことにより,ほぼ計画通りの支出となったが,1000円以下の端数までの調整は行わなかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の消耗品等の購入に充てる予定である.
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