2015 Fiscal Year Research-status Report
神経・筋接合に必須のレセプター蛋白LRP4の脳中枢神経系における役割
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26430014
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
棚橋 浩 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (90236654)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 龍雄 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (80162965)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 神経可塑性 / シナプス / 合指多指症 / 歯数過剰 / 不正咬合 / 腎臓欠失 / 羊水過多 / アクアポリン |
Outline of Annual Research Achievements |
Lrp4は神経筋接合に必須であり、ポストシナプス筋終板でMuSK(muscle-specific kinase)と複合体を形成し、MuSKを活性化してアセチルコリンレセプターのクラスター化とそれに続くシナプス形成に必須の蛋白である。また運動神経終末から分泌される糖蛋白アグリンと結合し、シナプス形成後のLrp4-MuSK結合を増強してシナプス形成を保持する為にも必須の蛋白である。 Lrp4欠失マウス(Lrp4 KO)を作成した処、Lrp4 KOは出生直後に呼吸ができずに全て死亡した。その肺胞は膨らんでおらず、合指多指症を呈し、多くのKOに両方(77匹 / 295匹 KOあるいは片方(126匹 [左73右53] / 295匹 KO)の腎臓の欠損が見られた。予期しなかった表現型としてLrp4 KOでは羊水過多が見られた。羊水は主として胎児腎臓で作られた尿が羊膜腔に排出されたものであり、胎児呼吸様運動で肺から排出される肺胞液も関与している。一方、羊水の羊膜腔からの排出には嚥下、卵膜や胎盤からの吸収が関与している。ところがLrp4 KOは両腎の欠損があっても羊水過多が見られた。そこで雄Lrp4+/-と交配した妊娠19日目の雌Lrp4+/-の羊膜腔に墨汁を注入し30分後に胎児を取り出し固定後、胎児の肺、胃腸を調べたところ、Lrp4 KO胎児では墨汁の取り込みが見られずKO胎児は呼吸様運動、嚥下に障害がある事が解った。またKO胎児羊水中の肺サーファクタント蛋白Aの減少も見られた。さらに羊膜腔からの水の取り込みに関与すると考えられる卵膜上のアクアポリン9 mRNA、胎盤上のアクアポリン1 mRNAの有為な発現低下がKO胎児で見られた。 以上の結果からLrp4 KO胎児は、羊水の羊膜腔からの排出に異常を生じ、主たる羊水成分である胎児尿の分泌が無くても羊水過多になったと考えられ、羊水量の調節は羊水の取り込みが本質的な役割を果たしていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Lrp4のconventional KOマウス、神経幹細胞特異的(Nestin-Cre)条件付きKOマウス、前脳特異的(CamK2a-Cre)条件付きKOマウスを作製でき、それぞれのKOマウスにコントロールと異なる表現型を見つける事が出来た。これらのことから当初の研究計画は、おおむね順調に進展している。 当初の研究計画以外の進展としてKO胎児に羊水過多が見られた。KO胎児は呼吸用運動・嚥下が出来ない事が分かった。更に羊水腔からの水の取り込みに関与する卵膜上のaquaporin 9、胎盤上のaquaporin 1 mRNAを定量するとE17.5、E18.5ではKO胎児において有為な発現低下が見られた。以上の結果から羊水の羊膜腔からの排出(嚥下)、卵膜からの吸収に異常を生じ、腎臓がないにもかかわらず羊水過多になったと考えられる事等があげられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの予備的な行動科学実験では一週間経つと文脈恐怖条件付けテストにおいて海馬依存的な記憶を維持する事ができなくなる可能性が示された。今後は1) 更に詳細な行動解析を行う。参照記憶を見るモリス水迷路テストや作業記憶を見る八方向放射状迷路テスト等を行う。順向性の蛍光色素を用いた嗅内皮質の海馬への投影先に異常がないか調べる。行動解析実験の裏付けとなる2) 海馬急性スライスを用いたCA1 神経細胞の電気生理学実験によりLrp4 欠損のLTP への影響を解析する。3) Lrp4 KO マウス脳におけるシナプス新生の解析、つまりspine の数、樹状突起の分岐、長さ等を定量解析すると共に電子顕微鏡解析によりPSD の形状解析に加えてシナプス前終末のシナプス小胞の数・形状やactive zone の解析を行う。4) 培養アストロサイト培養上清(KO、コントロールマウス) を用い、アストロサイトLRP4 の神経細胞に及ぼす影響を調べる。5) KO マウス脳のDNA チップ解析、質量分析を行い変動する分子、燐酸化蛋白を同定しLrp4 が関与するシグナル経路を調べる。6) LRP4 Ser1900 部位の燐酸化が脳発生、発達過程、神経細胞分化に関与しているか調べる。 これら包括的な解析からLRP4 のシナプス/神経回路形成、神経可塑性への関与を明らかにする。
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Causes of Carryover |
H27年度未使用額が 26万9,225円あるが、これは当初計画で見込んだよりも安価に物品の購入ができた事、一部購入物品の納品日が次年度となった事、当初計画では海外出張をH27年度実施予定であったが、研究の進歩状況によりH28年度実施することが次年度使用額を生じた原因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は平成28年度請求額と合わせて、主に動物飼育費、消耗品の購入に用いる。
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Remarks |
棚橋 浩 Lrp4欠失マウスが示す多様な表現型 武蔵野フォーラム2 平成27年11月21日(土) 東京
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Research Products
(1 results)