2015 Fiscal Year Research-status Report
補体C1qファミリー分子による海馬CA3シナプス形成と成熟の分子機構解明
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26430023
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
松田 恵子 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (40383765)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | シナプス / グルタミン酸受容体 / カイニン酸 / 海馬 / 苔状線維 / CA3 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らはC1q/TNFaファミリーに属するCbln1が、小脳顆粒細胞-プルキンエ細胞シナプス形成と維持に必須であること、同じくこのファミリーのC1ql1分子が登上線維-プルキンエ細胞シナプスの強化と維持に必須であることを明らかとした。C1ql1に類縁するC1qL2およびC1ql3は、海馬歯状回顆粒細胞で合成され、苔状線維から分泌されて苔状線維-CA3錐体細胞シナプスに限定して存在する。C1qL2, 3による海馬苔状線維(MF)-CA3錐体細胞シナプス(MF-CA3シナプス)の形成・分化および維持機構を明らかにする目的で、両遺伝子を欠損したダブルノックアウトマウス(C1ql23DKO)を作製した。このマウスのMF-CA3シナプスでは、MF軸索末端の数は変わらず、またシナプス後部マーカーであるPSD95の数や大きさも変わらなかったことから、Cbln1やC1ql1とは異なり、C1qL2, 3はMF-CA3シナプス形成そのものに関わる分子ではないことが示唆された。MF-CA3シナプスはグルタミン酸受容体のうちカイニン酸型グルタミン酸受容体が特異的に集積することが知られるシナプスである。このためC1ql23DKOの海馬においてカイニン酸受容体を観察したところ、MF-CA3シナプスに局在するカイニン酸受容体が激減し、またカイニン酸受容体によるシナプス応答もほぼなくなった。またHEK293細胞を用いた細胞における結合実験やBiacore解析の結果から、C1ql2およびC1ql3はカイニン酸受容体のGluK2サブユニットとGluK4サブユニットに特異的に直接結合することが明らかとなった。以上のことからシナプス前部の苔状線維が分泌するC1ql2とC1ql3が、シナプスを超えてシナプス後部のCA3錐体細胞に存在するカイニン酸受容体に直接働きかけて集積させる、という全く新しい機構が発見された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
C1ql3は海馬歯状回顆粒細胞のみならず、線条体に投射する大脳皮質細胞にも発現している。C1ql23DKOでは線条体のカイニン酸型グルタミン酸受容体のシナプス局在もが減少していることが分かった。このようにシナプス前部の軸索末端が分泌するC1ql2とC1ql3が、シナプスを超えてシナプス後部細胞のカイニン酸受容体に直接働きかけ集積させる機構は、MF-CA3シナプスに特化しておらず、普遍的な機構であることが明らかとなった。 また、正常なシナプス構築のみならず、病態時に形成される異常シナプスにおいても機能することが分かった。側頭葉てんかん患者やそのモデル動物では、苔状線維が異常に伸び、通常は観察されないrecurrentシナプスが歯状回顆粒細胞自身の上に作られる。このシナプスにカイニン酸受容体が動員されることが神経ネットワーク活動の異常を引き起こし、てんかんを発症させやすくすると考えられるが、C1ql23DKOではrecurrentシナプスは歯状回顆粒細胞上に形成されるものの、このカイニン酸受容体の集積が起こらず、てんかん発作が起こりにくいことも分かった。 正常時のシナプス形成において、当初の予測よりも普遍的に機能しうることを明らかにした点、また病態時のシナプス形成にも関与することが明らかにできた点において、計画以上の進展があったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
分泌されたC1ql2やC1ql3は、シナプス前部を機能的に分化させる受容体であるNeurexin3の特定のスプライスバリアントにコードされるS5領域にも結合を明らかとした。つまり、C1ql2およびC1ql3はシナプス前部ではNeurexin3受容体に結合し、シナプス後部ではカイニン酸型グルタミン酸受容体のGluK2とGluK4に直接結合する。これによって、シナプスを挟んだ形でNeurexin3-C1ql2/3-カイニン酸受容体GluK2/4という三者複合体を形成することを培養細胞系で明らかにした。また、近年カイニン酸受容体の欠損マウスでは、シナプス形成期の初期において、MF-CA3シナプスの形態が未熟であること、のちにそれは野生型に追いついていくという報告がなされた。このためGluK2がC1ql2やC1ql3を介してNeurexin3と複合体を形成することが、この発達初期のシナプス形成に寄与している可能性がある。これを明らかとする目的で、まずC1ql23DKOにおいてもGluk2欠損マウスと同様に、発達初期にMF-CA3シナプスの成熟遅延が起こるかを検討する。さらにNeurexin3に対するmiRNAをウィスルによって発現させ、Neurexin3ノックダウンマウスを作製する。このマウスにおいても同様のシナプス不全が見られるか検討することでこの仮説を検証する。 今後はC1ql2 C1ql3がシナプス後部におけるカイニン酸受容体局在決定に加え、シナプス前部にどのような分子基盤を形成し、どのような機能に関わるかを明らかにすることで、C1ql分子を基とし、シナプス前部後部のシナプス形成や分化が協調して進めていく過程を解明する。
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Causes of Carryover |
研究室、および大学に既存の設備を利用することで代用できたため、本助成金で購入予定であった備品を購入しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ウィルスを効率的に脳内にインジェクションできるようにインジェクターとポンプのセット一式を新たに購入する予定である
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] Trans-synaptic modulation of kainate receptor functions by C1q-like proteins.2016
Author(s)
Matsuda K, Budisantoso T, Mitakidis N, Sugaya Y, Miura E, Kakegawa W, Yamasaki M, Konno K, Uchigashima M, Abe M, Watanabe I, Kano M, Watanabe M, Sakimura K, Aricescu AR, Yuzaki M.
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Journal Title
Neuron
Volume: in press
Pages: 未定
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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