2015 Fiscal Year Research-status Report
行動に関連した神経ネットワーク;音脈分擬の基盤をなす音節間の時間間隔を脳に見る
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26430034
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
小島 久幸 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 講師 (00104539)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀川 順生 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50114781)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | リズム識別 / 脳活動 / 聴覚皮質 / 条件付け / 行動実験 / 膜電位感受性色素 / モルモット |
Outline of Annual Research Achievements |
モルモットに堤示間隔(テンポ)を変えた2種の音を行動学的に識別させ、その脳活動の差異を見いだしてリズム認識の神経機構を調べることを目標とした。 行動実験:一つの自然音セグメント(約100ms)をその堤示間隔を変えて繰り返すことにより異なるテンポを持つ刺激音セットを作成した。間隔は約0.1秒、0.2秒、1秒、2秒、3秒である。その内間隔1秒のテンポ音に動物を条件づけし、段階的に変えた他の間隔をもつ試験音に対する識別能を行動学的に調べた。モルモットでの行動実験は従来難しい事が知られていたが、新たに開発した競争行動を利用した訓練法を用いて、約2週間で1秒間隔音に条件付けすることができるようになった。 条件付けした音以外のテンポを持つ音を試験音として用い、条件行動の有無に基づいて判定を行いその識別能を調べた。テンポを速くする(間隔を狭める)と動物はその音に対し条件行動を開始するが音提示中にその行動を停止した。その割合は間隔0.1秒音では約9割に達し、間隔0.2秒では約5割の動物が試験音を条件音から識別した。一方テンポを遅くした(間隔を広げた)試験音にたいして動物は条件付け音に対するのと同様に音堤示時間中は条件行動を継続し、提示間隔を相対的に広げた試験音を条件付け音から識別しなかった。 イメージング実験:膜電位感受性色素で脳を生体染色し皮質活動を時空間的にイメージングした。2週間条件付けした個体では、条件音の個々の音セグメントに顕著な皮質応答が生じたが、0.1秒間隔音では最初の5個のセグメントにのみ顕著な皮質応答が生じ、それ以降のセグメントに対してはほとんどないし非常に減衰した皮質応答が生じるに過ぎなかった。0.1秒間隔音では、ヒトで早いテンポ音がバズ様の連続音として聞こえてしまう現象に類似した感覚を動物は持った可能性が示唆される。 発表:誌上発表と国際学会において口頭発表を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
”研究実績”で述べたように2週間条件づけした提示間隔(テンポ)音に対し動物は識別行動を示したが、より早いテンポ音(非条件音)には識別行動を示さず、テンポの違いを短期間の訓練で学習することができることを示唆した。しかしこれら2種の音をさらに安定して識別させようとして、2週間以降も訓練を続けたところ予想に反して非条件音に対しても識別行動が徐々に引き起こされた。このような非条件音に対する識別行動が生じる理由ははっきりしないが、動物にとってそのような反応は何ら不快な結果を招くこと(例えば電気ショック等)ではないことから、動物は“とりあえず音がしたら識別行動をする”という戦略の変更を行なったと推察した。 脳活動を記録するには学習が十分に完了しているほうがより強い活動コントラストが得られるため、上記予想外の訓練結果を踏まえ長期間での訓練でも両刺激音を識別できるように実験プロトールを変更しつつある。即ち、非条件音のテンポをより条件音のそれと識別しやすくして(より早いテンポにして)実験を行ったところ、1週間程の追加訓練で徐々に両音を識別するようになった。 このような延長訓練を1から2週間にわたり行なった訓練動物に対して、その脳活動を膜電位感受性色素を用いて計測し始めた。予備的な結果だが、ともに一見するとテンポの遅い条件音に反応し、テンポの早い非条件音に反応しない行動様式を示す2週間訓練個体と4週間訓練個体の間に脳活動の差が見られた。その差は繰り返し音への脳活動の追随性の違いとして検知されるように思われるが、より多くの個体数で確認する必要がある。現在、訓練とイメージングを押し進めて、結果の再現性を検証しつつある。なおこの予備実験の結果は米国耳鼻咽喉学会にて口頭発表を行なった。 以上予想外の行動結果に直面したが、既に改善方法等を見いだしたためおおむね順調に研究はすすんでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度は訓練手技の改善と脳活動測定に供する訓練個体数の増加、および音刺激を受けないナイーブ対照群動物からの記録例を増やし、訓練期間の長短によって早いリズムと遅いリズム音に対しどのように脳活動が異なっているかを明らかにする。 ”現在までの進捗状況”で述べたように、より多くの長期訓練動物からイメージングを行ない、2週間訓練での早いテンポ音に対する聴覚皮質の活動パターンと4週間訓練での同一音に対する活動パターンにみられる相違が単に反応の揺らぎではなく、何らかの脳活動の差異によって生じていることを確認する。このために訓練を継続し、識別能の改善が見られるように行動実験の手技にさらなる工夫を加える。また訓練を全く行なわない、いわゆる”ナイーブ”個体から異なる提示間隔をもつ音ペア(早いテンポと遅いテンポ音)に対する皮質活動パターンを記録し、音に暴露されていない皮質のこれら音に対するdefaultな活動パターンを明らかにする。この早いテンポ音と遅いテンポ音に対するdefaultでの脳活動差とそれらを識別した際の脳活動差を見いだして、学習による堤示音間隔の識別能の改善が脳活動としてどのように表現されているかについての疑問に答えたい。
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