2015 Fiscal Year Research-status Report
大脳皮質の成体神経新生によって新しく産まれた抑制性神経細胞の機能解剖学的解析
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26430044
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Research Institution | Mukogawa Women's University |
Principal Investigator |
大平 耕司 武庫川女子大学, 生活環境学部, 准教授 (80402832)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 神経前駆細胞 / 成体神経新生 / 大脳皮質 / 老化 / 抑制性神経細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らは、成体大脳皮質1層に神経前駆細胞 (Layer 1 Inhibitory Neuronal Progenitor Cells: L1-INP細胞) が存在し、虚血依存的に抑制性神経細胞の成体神経新生が起こることを明らかにしている (Ohira et al., Nature Neurosci, 2010)。しかし、L1-INP細胞やそれらの細胞から産生されてきた新しい抑制性神経細胞についての機能解剖学的性質については、現在に至るまでほとんど明らかにされていない。本研究は、L1-INP細胞およびそれらの細胞から産生された新しい抑制性神経細胞について、機能解剖学的解析と生理学的解析を組み合わせることにより、L1-INP細胞による神経新生の基本的性質を明らかにすることを目指している。 本年度は、マウスをモデル動物として、生後5ヶ月、12ヶ月、17ヶ月、24ヶ月齢の大脳皮質におけるL1-INP細胞の密度変化について調べた。その結果、生後12ヶ月までは、ほとんど密度に変化はなかったが、12ヶ月から17ヶ月の間に顕著にL1-INP細胞の密度が減少することを見出した。また、生後17ヶ月以降、24ヶ月までは維持されることがわかった。さらに、大脳皮質を、体性感覚野や運動野などの1次領野と、前部帯状回や島皮質などの高次領野に分けて、L1-INP細胞の減少について解析すると、高次領野の方が減少率が優位に低いことを発見した。 この研究により、1)老化した大脳皮質にもL1-INP細胞が維持されていること、2)生後12ヶ月から17ヶ月の間に顕著に減少すること、3)高次領野でL1-INP細胞が維持されること、が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度において、L1-INP細胞の老化による変化について新しい知見を得ることができた。これは、L1-INP細胞による神経新生についての重要な基礎的データであるため。
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Strategy for Future Research Activity |
マウスの12ヶ月から17ヶ月は、ヒトの年齢に対応させると、およそ50代後半から60代中頃に相当する。この時期には、認知症の発生率が上昇する時期と一致している。また、神経精神疾患の多くにおいて、神経回路における興奮と抑制のバランスが崩れていることが見出されていることから、老化に伴うL1-INP細胞の抑制性神経細胞産生の減少が、神経精神疾患の原因となっている可能性がある。今後は、L1-INP細胞の神経新生を、遺伝子発現や薬物投与などによって人為的に操作したときに、神経精神疾患様の行動変化や脳内変化が生じるのかどうか検討していく。
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Causes of Carryover |
平成27年度より、武庫川女子大学に異動したため、研究計画に変更が生じた。そのため、支出が計画していたよりも少なかった。しかし、研究は、ほぼ計画通り進行できる様に努めた結果、L1-INP細胞の老化に伴う変化について明らかにできた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度の結果を受けて、L1-INP細胞の神経新生を人為的に操作したときの行動変容や脳内の神経回路特性の変化について明らかにするために、新たに行動実験のための機器購入を行う予定である。
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