2015 Fiscal Year Research-status Report
脳発達期におけるミクログリアのFcγ受容体を介したシナプス形成制御の可能性
Project/Area Number |
26430081
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大内田 理佳 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (80391887)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ミクログリア / 貪食 / 母体由来IgG抗体 / IgG抗体の受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、FcγRIおよびその下流のシグナル伝達分子Sykのミクログリア特異的な遺伝子欠損マウス、または抗体を持たない免疫不全マウスを用いて、IgG抗体とその受容体経路が脳発達期に果たす役割の解明を目指す。平成26年度では、主に、脳内におけるFcγRの発現を検討し、ミクログリア特異的に発現していることを突き止めた。一方、脳内のIgG抗体量を検討したところ、胎生初期により高く、その後徐々に減少し、出生後においてはあまり多く存在しないことが判明した。一方、平成27年度では、平成26年度より導入を開始したFcγRの遺伝子欠損マウスおよび免疫不全マウスNSGを用いて、 in vivoにおけるミクログリアの貪食機能を解析した。具体的には、ミクログリアは、胎生期の胎児脳内において、大量に生じる神経細胞による死細胞を貪食除去することが示唆されていることから、胎児脳内の死細胞の割合を組織染色(TUNEL法)で確認した。その結果、死細胞発生のピークである胎生14日前後において、胎児脳内の死細胞の割合が、抗体不全マウスNSGで顕著に多いことが分かった。これは、ミクログリアによる死細胞の貪食除去が遅れた結果ではないかと推察された。しかしながら、胎生後期である胎生18日目や、出生後4日目における脳内の死細胞の割合自体少なく、また野生型および抗体不全マウスでは違いが認められなかった。FcγRの遺伝子欠損マウスについては現在解析中であるが、予備的検討から、免疫不全マウスと同様に、胎児脳内における死細胞の割合が、野生型に比し増加していることが明らかになってきている。以上の結果から、胎生期に胎盤を介して胎児脳内に流入する母体由来IgG抗体が、その受容体であるFcγRを介して、貪食機能を含めたミクログリアの活性化を制御している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では当初、胎生期および出生初期の脳発達期における母体由来IgG抗体とその受容体の機能に着目するため、胎生期おに大量に生じる神経細胞による死細胞と、出生初期に顕著に観察されるシナプスの刈り込み(不要なシナプスの除去)を解析する予定であった。しかしながら、前年度において、胎児および出生後マウスの脳内に存在するIgG抗体量を測定したところ、胎生初期に高く、その後徐々に減少し、出生後においては抗体量としてかなり低いことが判明した。一方で、IgG抗体の受容体であるFcγRIは、胎生初期にミクログリアの細胞表面で高発現し徐々に低下するが、依然として成熟脳においても、ミクログリアに特異的に発現することから、何らかの機能を保持している可能性は考えられる。しかしながら、本研究は母体由来IgG抗体とFcγRの相互作用が果たす役割の解明になるため、母体由来IgG抗体があまり認められなかった出生後における、ミクログリアのシナプス刈り込みへの影響や補体経路との相互作用の解析には進まず、胎生期における生理的なミクログリアの機能として、死細胞の貪食除去に与える影響について解析を進めることにした。実際、抗体不全マウスやFcγR遺伝子欠損マウスの胎児脳内では、死細胞の割合が増えていたことから、ミクログリアによる貪食活性が減弱している可能性が考えられた。このように、母体由来IgG抗体とその受容体経路が無い状況下におけるミクログリアの貪食活性の減弱が、FcγRIを経由した貪食経路の破綻に起因するのか、または、FcγRI下流のシグナルの破綻によるのか、今後明らかにしていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの解析結果を受けて、平成28年度では、母体由来IgG抗体とFcγRIの経路が、ミクログリアの貪食経路の一つとして機能しているのか、または、それらを介したシグナルによりミクログリアの活性化を制御し、貪食活性に寄与しているのかを明らかにする。方法としては、ミクログリアの細胞表面マーカー特異的抗体と結合したマグネットビーズを用いて、脳組織よりミクログリアを精製し、in vitroにおける死細胞の貪食実験を行う。死細胞も胎生期マウスの脳内から調製し蛍光標識を施したうえで、培養ミクログリアへの取り込み量を評価する。さらに、マウス血清中のIgG抗体の存在下、非存在下における死細胞貪食量の違いを検討し、母体由来IgG抗体とFcγRIの経路が貪食経路の一つとして機能するのか否かを明確にする。一方、FcγRからのシグナルによるミクログリア活性化制御については、培養ミクログリアにSyk阻害剤を添加した際の死細胞貪食活性を検討する。さらに、ミクログリアは、脳環境に応じて、抗炎症性または炎症性ミクログリアという、相反する表現型に分極化することが知られており、これまでに抗炎症性ミクログリアは、IL-10などのサイトカイン産生や貪食活性などを経て、生理的な脳機能構築に関わる可能性が示唆されている。そこで、抗体不全マウスやFcγR遺伝子欠損マウスの脳内における炎症性/抗炎症性ミクログリアの割合や、それらが放出するサイトカイン量を測定し野生型マウスと比較検討する。
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