2015 Fiscal Year Research-status Report
マウス体系的遺伝解析系を用いたウレタン誘発肺腫瘍感受性の遺伝的解析
Project/Area Number |
26430088
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大野 民生 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90293620)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | マウス / 体系的遺伝解析系 / コンソミック系統 / コンジェニック系統 / ウレタン誘発肺腫瘍 / 肺腫瘍感受性遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
マウスSM/J系統とA/J系統を起源として作出されたSMXA・RI系統群やコンソミック系統群等は、複雑な多因子遺伝形質の原因遺伝子解析に極めて有効な体系的遺伝解析系である。A/J系統は肺腫瘍を自然発症するうえ、ウレタン等の化学物質の投与でより早期に肺腫瘍を発症する事から、肺腫瘍のモデルマウスとして汎用されているがその原因遺伝子は未だに明らかになっていない。本研究ではこの体系的遺伝解析系を駆使して、ウレタン誘発肺腫瘍感受性の原因遺伝子の同定を目的とした解析を行った。昨年度のSMXA・RI系統群の高精度のSDPパネル(遺伝情報)を用いた連鎖解析により、A/J系統由来の強力な肺腫瘍感受性遺伝子座は見出せなかったが複数の感受性遺伝子座を検出する事ができた。そのうち、Par1とPar3領域について、それぞれ単独でのウレタン誘発肺腫瘍感受性を検証するために、樹立したコンジェニック系統(A.SM-Par1, A.SM-Par3)のウレタン誘発肺腫瘍数を調査したが、何れもA/J系統との間に有意差がなく、Par1とPar3領域は何れも単独では肺腫瘍感受性効果を有さないことが判明した。一方、Pas1遺伝子座の効果を検証するため、感受性のA/J系統に抵抗性のSM/J系統由来のChr.6(Pas1遺伝子座を含む)を導入したコンソミック系統(A/J-6sm)のウレタン誘発肺腫瘍感受性は、A/J系統に対して明らかに低下していた。したがって、Par1やPar3遺伝子座とは異なり、Pas1遺伝子座は単独で肺腫瘍感受性に関与することが判明した。更に、A/J系統とSM/J系統間でエキソーム解析を行い両系統間のエキソン部分の変異情報を整備した。その結果とPar1、Par3領域の比較から、それぞれの領域内に興味深い候補遺伝子変異を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
SMXA・RI系統群の高精度のSDPパネル(遺伝情報)を用いたQTL解析では、A/J系統由来の強力な肺腫瘍感受性遺伝子座は見出せなかったが、複数の感受性遺伝子座を検出する事ができた。また、A/J系統とSM/J系統間でエキソーム解析を実施して、Par1、Par3領域内に興味深い候補遺伝子変異を見出した。一方で、Par1とPar3領域について、それぞれ単独でのウレタン誘発肺腫瘍感受性効果の検証を樹立したコンジェニック系統(A.SM-Par1, A.SM-Par3)を用いて行ったが、予測に反して何れも単独での肺腫瘍感受性効果を確認する事ができなかった。そこで、両遺伝子座の相互作用を検証するために樹立したダブル・コンジェニック系統(A.SM-Par1, Par3)を用いて同様にウレタン誘発肺腫瘍感受性の解析を実施しているが、系統樹立の遅延により、感受性を評価するために十分な個体数の解析ができていない。ただし、現状までの結果では、少なくとも両遺伝子座に顕著な相互作用は認められない可能性が高い。一方、Pas1遺伝子座の効果を検証するため、感受性のA/J系統に抵抗性のSM/J系統由来のChr.6(Pas1遺伝子座を含む)を導入したコンソミック系統(A/J-6sm)のウレタン誘発肺腫瘍感受性を解析したところ、A/J系統に対して明らかな腫瘍数の減少を認めた。したがって、Par1やPar3遺伝子座とは異なり、Pas1遺伝子座は単独で肺腫瘍感受性に関与することが判明した。これらの結果は、昨年度に実施したQTL解析の結果とは大きく異なるものであった。そこで、当初の予定を変更しPas1遺伝子存在下でのPar1やPar3遺伝子座の効果を検証するために、トリプル・コンジェニック系統(A.SM-Pas1, Par1, Par3)の樹立に着手したため、系統樹立が当初の予定より遅延した。
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Strategy for Future Research Activity |
作製中のトリプル・コンジェニック系統(A.SM-Pas1, Par1, Par3)に加え、ダブル・コンジェ二ック系統(A.SM-Par1,Par3)、両親系統(A/J, SM/J)系統についてウレタン投与量を変えながら肺腫瘍感受性を再調査する。更に、エキソーム解析で見出したPar1、Par3領域内の候補遺伝子変異についてサンガー法による塩基配列の確認作業を行う。また、Par1、Par3領域内の肺腫瘍感受性の原因となる候補遺伝子変異についてA/JとSM/J系統間で遺伝子発現量の解析を行い、有力な候補遺伝子をスクリーニングする。その上で、それらの遺伝子が作出したコンジェニック系統間でどの様な発現パターンを示すか解析する。
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Causes of Carryover |
本研究において最重要ターゲットにしているPar3領域であるが、肝心のこの領域を導入したコンジェニック系統(A.SM-Par3)の解析において肺腫瘍感受性の変化を見出せなかった事に加え、ダブル・コンジェニック系統(A.SM-Par1+ Par3)についても同様に肺腫瘍感受性の変化を見出せないという予想外の結果が出てきた。そこで、当初の予定を変更して、単独での効果が実証できたPas1領域を加えたトリプル・コンジェニック系統(A.SM-Pas1, Par1, Par3)を樹立する必要が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
設備備品は必要ないため、トリプル・コンジェニック系統(A.SM-Pas1, Par1, Par3)樹立に必要なマウス飼育経費やその遺伝子型判定に使用する試薬類に加え、候補遺伝子の塩基配列や遺伝子発現解析に使用する消耗品類の購入に充てる。
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