2014 Fiscal Year Research-status Report
HTLV-1 HBZタンパク質によるストレス応答シグナルの撹乱
Project/Area Number |
26430128
|
Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
大島 隆幸 徳島文理大学, 薬学部, 准教授 (10397557)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | ウイルス性発がん / 白血病 / HTLV-1 / HBZ / mTOR / ATL |
Outline of Annual Research Achievements |
HTLV-1は、成人 T 細胞白血病 (ATL)の原因となるレトロウイルスであるが、未だ効果的な予防法および治療法は確立されていない。これまでに HTLV-1 プロウイルスゲノムのマイナス鎖にコードされるウイルスタンパク質としてHBZが同定されており、HBZ は他のウイルス由来産物と異なり、ATL 症例において例外なく発現していることから、その発症および悪性化に寄与していると示唆されているが、その細胞内での機能は未だ不明な点が多い。そこで宿主細胞内における HBZ の機能を明らかにするため、これまでに酵母ツーハイブリッド法を用いて HBZ と相互作用する宿主因子を網羅的に探索し、様々な因子を同定していた。本研究課題では、得られた因子と HBZ の相互作用におけるその生理学的意義について解析を行い、これまでに以下 の2点のことについて明らかにした。 (3) 細胞が外界からのストレス (UV照射、栄養飢餓等) を受けた場合、細胞質因子である GADD34 の発現が誘導される。HBZ は GADD34 と相互作用し、その機能抑制を介して 恒常的にmTOR シグナルを活性化することで、オートファジー誘導を有意に抑制することを見いだした。さらにHBZ は核外輸送シグナルを有し、核と細胞質をシャトルしていることを明らかにした。 (4) 染色体のキネトコア構成因子の 1 つである CENP-B は正常な染色体分配を行なうための重要な因子であると示唆されている。今回、HBZ と CENP-B は互いの中央領域を介して相互作用し、HBZ は CENP-B の二量体化には影響を及ぼさないが、DNA結合能は顕著に抑制することを明らかにした。さらに、HBZ は CENP-B の機能を阻害することで、CENP-B 依存的なヒストン H3K9 のトリメチル化を減弱させることを見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの結果は、HBZ は核、細胞質およびその区分けがない細胞分裂期のいずれにおいても作用することを示している。さらに、HBZ はアポトーシスやオートファジーを介した HTLV-1 感染細胞およびウイルス粒子の排除機構から回避するために、これらに関連した因子の機能を積極的に抑制していることを明らかにした。また今回、HBZ はヒストン修飾の調節に関与することを見出し、染色体の形成、維持にも影響を与え得ることが示唆された。これらの結果より、HTLV-1 は HBZ を介して 様々な宿主機能を破綻させることで、ウイルスにとって都合のよい生存環境へと変化させていることが示唆された。 ウイルス性発がんでは、ウイルスゲノムにコードされるウイルス由来のタンパク質による宿主因子の機能制御が深く関与することが、C型肝炎ウイルスやヒトパピローマウイルスなど、多くのがんウイルスで明らかになっている。HTLV-1 においても例外ではなく、これまでの我々の研究経過から、ウイルス由来のHBZタンパク質による宿主機能の撹乱が白血病発症に関与している可能性を示唆する結果が得られている。特に細胞質への輸送へ輸送されること、また細胞質でオートファジーやアポトーシスなどの宿主のホメオスタシスを制御することにより、ウイルスの生存環境への基盤構築の一端を明らかに出来たと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の予定として、細胞質に存在する宿主因子とHBZとの関わりについて、もう一度結合宿主因子の網羅的探索を行うとともに、すでにこれまでの研究過程で得られている細胞質因子に着目して、以下の通り進めて行く。 1)、末梢性T細胞を用いてオリジナルなcDNAライブラリーを作製し、酵母ツーハイブリッド法によってHBZ結合因子の網羅的探索を行う。 2)、これまでの相互作用因子の中で、ユビキチンE3リガーゼ複合体の構成因子の一つであるCULファミリーに着目し、その相互作用の生理学的意義について解析する。
既にCULファミリーとHBZの相互作用を動物細胞で確認しており、今後はそれぞれの結合最小領域の決定とともに、その欠損変異体作製等を行って行く。そしてCULファミリーがターゲットとする宿主因子群、特に細胞増殖や細胞のがん化に関与する因子のユビキチンプロテアソーム系による分解への影響を解析する。またHTLV-1キャリア由来の細胞株を用い、shRNAによるHBZのノックダウン系を確立するとともに、細胞機能に関して解析して行く。 これまでの研究過程でHBZ の宿主細胞内における役割はいくつか見いだすことができたが、直接ATL 発症へと繋がる機能は明らかとなっていない。今後は臨床検体や患者情報など、細胞レベルの研究のみでなく、臨床現場の情報を入手しながら研究を展開して行く予定である。そのために宮崎大学や京都大学のグループとの連携を密にしながら、情報や資材を共有しつつ研究を推進して行く予定である。HTLV-1 キャリアから ATL 発症への分子機構の解明は、ATL の治療法開発のための重要な要素であるが故に、HBZ による宿主機能への影響に着目した研究が果たす意義は大きいと言える。
|
Causes of Carryover |
今年度、当研究室において博士後期課程を修了した学生が4月からも引き続き博士研究員として当該研究課題に取り組むため、その消耗品および人件費としての予算を確保するため。業績報告にもある通り、当該研究の研究成果に関してはこの博士研究員の力によるところが大きく、今後も研究課題を大きく発展させて確実に成果を出すためには必要な人材である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に繰り越した分も含め、その大部分を博士研究員の人件費に充てる予定である。研究に係る一般消耗品に関しては、私学助成金や民間助成金に積極的に応募し、外部予算の獲得を目指す。また、昨年度採択された民間助成金(200万円)を研究費として使用することで対応したい。
|
Research Products
(5 results)