2015 Fiscal Year Research-status Report
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26430189
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
布施 直之 京都大学, 生命科学研究科, 研究員 (80321983)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 環境適応 / ゲノム / トランスクリプトーム / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物は地球上の様々な環境に適応し進化してきた。近年のゲノム科学の進歩によって多数の生物種のゲノム配列が決定されているが、ゲノムと環境適応を直接結びつけた例は少なく、環境適応のメカニズムは未だ多くの謎が残されている。 京都大学動物学教室において、ショウジョウバエが61年間1500世代に渡って暗闇で継代されてきた。私達は、この「暗黒バエ」を用いて環境適応を分子レベルで理解することを目指している。本研究の目的は、暗黒バエの暗闇適応に関与する遺伝子を同定し、暗黒バエの遺伝子変異の役割を、ゲノム編集技術を用いて実証することである。 暗黒バエの暗闇適応に関与する候補遺伝子の1つとして、光受容体のロドプシン遺伝子(Rh7)に注目している。過去に、暗黒バエのゲノム解析から、28遺伝子に終止コドンを挿入するナンセンス変異が見つかった。そのうちの1つが、Rh7遺伝子である。ゲノム編集技術を用いてRh7のノックアウト(KO)系統やノックイン(KI)系統を作製し、Rh7の機能解析を行う。 暗黒バエの暗闇適応に関与する候補遺伝子を絞り込むために、もう一つのアプローチとしてゲノムの再選択実験を行った。暗黒バエと野生型ハエを混合した集団を明所と暗所で継代し、集団のゲノム構造を解析することによって、暗所の集団で優位になるSNP(1塩基多型)を同定した。さらに、暗闇で選択を受けるゲノム領域を絞り込み、暗闇適応に関与する候補遺伝子を同定した。候補遺伝子は、暗黒バエで遺伝子発現が変化している可能性がある。この可能性を検証するために、トランスクリプトーム解析を行った。ゲノム・トランスクリプトームのデータを統合的に解析することによって、暗黒バエの暗闇適応に関わる候補遺伝子を絞り込む。候補遺伝子の役割は、Rh7遺伝子と同様に、ゲノム編集技術を用いて検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度までに、CRISPR/Cas9システムを用いて、Rh7遺伝子のKO系統の作製を試み、高い効率(約10%)でKO系統を作製できることがわかった。現在、KO系統の表現型を解析中である。さらに、KI系統の作製法を確立するために、Cas9やguide RNA、置換するDNAをどのような形(DNAやRNA、1本鎖や2本鎖など)で胚に導入するか、条件検討を行っている。 暗黒バエの暗闇適応に関与する候補遺伝子を絞り込むために、暗黒バエと野生型ハエを混合した集団を明所と暗所で継代し、49世代目の集団のゲノム構造を解析した。この解析から、暗所の集団で優位になる約6000のSNPを同定し、これらのSNPが3つの選択パターン(暗所で正の選択、明所で負の選択、その両方)に明確に分離することを見いだした。選択様式の違いは暗黒バエの形質の違いに反映すると考えられるので、暗黒バエは少なくとも3種の適応的な形質をもつことが予想された。さらに、暗闇で選択を受けるゲノム領域の絞り込みを行い、暗闇適応に関与する候補遺伝子として、84遺伝子を同定した。このリストには、概日リズムや嗅覚に関与する遺伝子が含まれていた。これらの結果を投稿論文(Izutsu et al., G3: Genes, Genomes, Genetics, 2016)として発表した。また、暗黒バエの遺伝子発現を調べるために、暗黒バエと野生型ハエを恒明条件、恒暗条件、通常の12時間の明暗サイクルの条件で飼育し、成虫からRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を行った。現在、データを解析中であるが、約300の発現変動遺伝子を同定しており、これらの遺伝子の多くが、概日リズムで制御され、末梢組織において様々な生理機能(例えば、自然免疫など)に関与することがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、KO系統を用いて、Rh7遺伝子の役割を明らかにする。さらに、CRISPR/Cas9システムを用いて、効率の良いKI系統の作製法を確立する。KI系統の作製はKO系統の作製よりも効率が悪く、その簡便で確実な作製法は、多くの研究者が待ち望んでいる技術であり、農学や医学にも応用可能な重要な技術となる。最新の技術を取り入れながら、複数のアイデアを試し、効率の良い作製法を確立する。 私達は、暗黒バエの暗闇適応に関与する遺伝子の同定を目指している。そのために、集団ゲノムの解析から、暗闇で選択されるゲノム領域を絞り込み、適応遺伝子の候補を同定した。さらに、光環境における暗黒バエと野生型ハエの遺伝子発現を比較し、約300の発現変動遺伝子を同定した。ゲノム・トランスクリプトームのデータを統合的に解析することによって、暗黒バエの暗闇適応に関わる候補遺伝子を絞り込む。候補遺伝子の役割は、ゲノム編集技術を用いて検証する。このようなゲノム・トランスクリプトームによる網羅的解析と、ゲノム編集技術を用いた実証的な実験を組み合わせた研究は、環境適応の研究に新たなパラダイムを提供する可能性がある。
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Causes of Carryover |
平成27年度に使用した分子生物学試薬や組織染色試薬など消耗品の大部分は、研究室の既存のものを使用することができたので、物品費を節約することができた。また、平成27年度は、実験計画の調整ができず、学会に参加できなかったので、旅費の支出がなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度、KI系統を作製するために種々の条件検討が必要となり、並行してゲノム・トランスクリプトーム解析を行うので、分子生物学試薬や組織染色試薬など、多数の消耗品を新たに購入する必要がある。さらに、今年度は、学会に参加し、研究成果のアピールや情報収集を行う予定である。したがって、物品費、旅費ともに、平成27年度繰越分と28年度請求分を合わせた合計額を使用する予定である。
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Research Products
(2 results)