2014 Fiscal Year Research-status Report
水平伝播を利用した細胞間ダイレクトクローニング技術の開発
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26430197
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
金子 真也 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (10399694)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ダイレクトクローニング / 大腸菌 / 枯草菌 / 応用微生物 / 形質転換 / 核酸 / ゲノム / バイオテクノロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度(平成26年度)はモデル実験系を用いた条件検討を行なった。供与菌として大腸菌株DH5α、DH10B、HB101を用い、受容菌は自然形質転換能を有する代表的な枯草菌株168TrpC2株またはその誘導株で制限修飾系酵素を欠損したRM125株を用いた。DNAとして受容菌でのみ発現するGFP遺伝子を有するシャトルプラスミドpGETSGFP(17.1kb)と、GFP遺伝子を有し、供与菌でのみ複製可能な大腸菌プラスミドpSHINE2121(6.6kb)を用いた。形質転換体は抗生物質とGFPの発現によりスクリーニングした。結果としてビルレントファージλgt10を供与菌の植菌時にMOI4.0で感染させ、一晩培養することで十分溶菌を誘導できた。受容菌は凍結保存することで高品質で大量供給出来ることを実証した。溶菌液には大量の大腸菌ゲノムDNAも含まれ競合阻害が生じる。そこでサイズが大きくダメージの入りやすいゲノムDNA分解のため、エキソヌクレアーゼを溶菌液に加えることで形質転換効率が上昇することを見出した。添加量5unitにより、平均してコロニー数が1.5倍程上昇することが示された。ただし5unit以上添加しても1.5倍以上の上昇は得られなかった。また供与菌として大腸菌の代表的なエンドヌクレアーゼ(endA1)を欠損したDH5α、DH10Bでは溶菌後20時間後でも安定して形質転換体が得られたが、endA1保持株(HB101)ではほとんどコロニーが得られなかった。そこでヌクレアーゼ阻害剤としてアウリントリカルボン酸(ATA)を適量加えることで、HB101株を用いた場合でも安定してコロニーが得られることを確認した。ATAは宿主の生育も阻害するため添加しすぎも逆効果だったが、最終濃度0.35mg/mLの添加が最も効果的であった。以上の結果は基本条件を確立する上で重要なデータである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は「水平伝播を利用した細胞間ダイレクトクローニング技術」について、モデル実験系を用いた条件検討を目標とし、計画通り詳細な最適条件を得ることができた。一般にクローニング等で利用される大腸菌株DH5α、DH10Bにおいてλgt10を用いたビルレントファージ(virulent phage)による溶菌誘導が可能なことから当該技術は簡便で汎用性が高いことが期待される。DH5α、DH10Bはヌクレアーゼ(endA) 欠損株であり、溶菌後20時間後でも安定して当該技術を運用できることが判明した。一方HB101株のようにヌクレアーゼ(endA) 保持株であってもヌクレアーゼ阻害剤(ATA)を用いることで当該技術を利用できることがわかり、供与菌の株によらず汎用性の高さを実証できた。受容菌である枯草菌においても制限修飾酵素を欠損したRM125株を用いることで汎用性高く様々なDNAに対応できると期待される。また高コンピテントを有する状態で凍結保存することで一定の品質のコンピテントセルを供給できることが判明し、ハイスループット化等に向けての効率化も期待できる。当該技術では供与菌である大腸菌が溶菌する時に放出されるゲノムDNAが競合阻害として効率低下を招いていることが予想されていたが、これもエキソヌクレアーゼを用いることで改善できる糸口が見出された。高効率化に向けてエキソヌクレアーゼ以外の方法も検討する余地は残されているものの当該年度における条件検討としては、十分な成果を上げることができた。形質転換体の選択方法に関しても当該モデル実験で用いたpGETSGFPとpSHINE2121に関しては大腸菌、枯草菌それぞれで働く抗生物質により充分スクリーニングすることが可能であった。以上、今年度は当初予定していた通りのペースで本計画が進行しており、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で「水平伝播を利用した細胞間ダイレクトクローニング技術」について、当初の計画通り研究が進行し、モデル実験系による条件検討で、基盤となる実施条件が明らかとなった。平成27年度では、今年度の成果を発展させ、より実践的で応用的なクローニング技術の開発を目指し、当初の計画通り受容菌への「複数のDNAコンティグ断片を効率よくダイレクトクローニングする技術」の開発を目標とする。具体的には実施例として以前の研究で使用したマウスのミトコンドリア(mt)DNAのコンティグクローンを用い、これを保持する別々の大腸菌株を供与菌として使用する。これらコンティグクローンはマウスmtDNAをカバーする4断片からなり、両端が数百bpオーバーラップした構造となっている。これらを受容菌である枯草菌のゲノム中に相同組み換えを利用して組込み、コンティグクローン同士を連結させ、マウスmtゲノム全長を再構築させる。当該クローニング技術は大腸菌からの精製操作を必要としないため、簡便で迅速なゲノム再構築、ゲノム合成技術として利用できると期待される。手順として繰り返し受容菌(枯草菌ゲノム)へのダイレクトクローニングを行う場合と、複数の供与菌を同時に混合した場合を比較し、枯草菌ゲノムへのDNA構築技術の効率化を検討する。当該実験を通じて、クローニング効率のさらなる向上を目指して、モデル実験系を参考に最適条件条件検討も実施する。またマウスmtDNA以外のDNAとしてBACのコンティグクローンなどサイズの大きいDNAに対しても有効か検討する。
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Causes of Carryover |
当該年度(平成26年度)における研究の進展具合は極めて順調で、当初の計画目標を充分にクリアすることができている。次年度(平成27年度)使用額が生じた理由としては、当初追加備品として想定していた微量高速冷却遠心機(860千円)の購入を見送ったことが挙げられる。見送った理由としては消費税増税などに伴い、購入にあたって当初の見積額以上の予算が必要な点、また遠心機を用いないDNA精製キットの導入や作業の効率化により当該年度の研究に支障が出ないと見込まれたため。消耗品費に関しても実験資材等の再利用等により効率的に研究費を運用できた結果、大幅にコストを抑えることができた。さらに次年度(平成27年度)以降、より実践的な研究に向けて、以下に示す使用計画の通り、当該年度以上の消耗品費、旅費、人件費などが必要と見込まれたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度はより実践的な条件検討を行なうにあたり、供与菌、受容菌の培養に必要な培養試薬類、培養資材類、また水平伝播に用いるプラスミドDNAの構築、精製と、受容菌へDNAが水平伝播されたことを確認するため、さらに当該技術の高効率化検討のためなどに当該年度以上の遺伝子工学用試薬類、遺伝子工学資材類、プライマー合成費などの消耗品費が必要と予想される。この他、単純な試薬の調整、培地の作成、操作、データの取りまとめを補佐する研究補佐(技術員1または2名)の人件費、及び情報収集、成果報告(学会発表、論文発表など)のための旅費、謝金(論文校閲料を含む)などが必要と予想される。 当該年度(平成26年度)は予定通りかつ効率よく研究が遂行しており、次年度(平成27年度)も繰越金を含め、当初の計画通りの予算で必要充分であると見込まれる
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