2015 Fiscal Year Research-status Report
水平伝播を利用した細胞間ダイレクトクローニング技術の開発
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26430197
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
金子 真也 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (10399694)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ダイレクトクローニング / 大腸菌 / 枯草菌 / 応用微生物 / 形質転換 / 核酸 / ゲノム / バイオテクノロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度(平成27年度)は、前年の成果を下に計画通り実践的で応用的なクローニング技術の開発として「複数のDNAコンティグ断片を効率よくダイレクトクローニングする技術」の開発を行なった。具体的には、以前の研究で使用したマウスのミトコンドリア(mt)DNAのコンティグクローンを用い、これらを保持する別々の大腸菌株を供与菌として使用し、受容菌である枯草菌のゲノム中に相同組み換えを利用して組込み、コンティグクローン同士を枯草菌ゲノム中で連結させるというものである。これらマウスmtDNAのコンティグクローンは4断片からなり、両端が数百bpオーバーラップした構造となっているので、溶菌液を順次受容菌細胞に混合するだけで、マウスmtゲノムを枯草菌のゲノム中に再構築させることが可能である。実際に行なったところ、プラスミドDNAを生化学的手法による精製操作を経ずに、迅速に枯草菌ゲノム中に導入できることを実証した。昨年度の条件検討の成果として、ビルレントファージ(λgt10)を効果的に活用することができ、エキソヌクレアーゼやヌクレアーゼ阻害剤としてアウリントリカルボン酸(ATA)を適量(0.35mg/mL)使用することにより、endA1保持株(JA221)をドナーとした場合も問題なく実施可能であることが示された。しかし1カ所の相同組替えによるCambell typeでゲノムに組み込まれる確率が高く予想外に効率はあまり良くなかった。これは、当該技術における溶菌液中でのプラスミドDNAが、生化学的精製操作と比べて予想以上にダメージを受けないことを示すものであり、当該技術が、精製時に物理的ダメージを受けやすい100kb以上の巨大なDNAに対して非常に効果的であることを示唆している。今後、スクリーニング操作の改良を施す必要はあるが、新規のクローニング技術として実践可能であることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は実践的で応用的なクローニング技術の開発を目標とし、計画通り実践可能であることが示された。昨年度までに判明したビルレントファージ(virulent phage)による溶菌条件、エキソヌクレアーゼ及びヌクレアーゼ阻害剤の使用条件を適用し、マウスのミトコンドリア(mt)DNAのコンティグクローンを保持する別々の大腸菌株を供与菌として用い、受容菌である枯草菌のゲノム中に相同組み換えを利用して組込み、コンティグクローン同士を枯草菌ゲノム中で連結させることに成功した。当該操作において大腸菌がエンドヌクレアーゼ欠損株(JM109)の場合はもちろん、保持株(JA221)においても枯草菌へのダイレクトクローニングが可能であることも実証した。以上のことから当該技術は既存の大腸菌ライブラリーに適用でき、またプラスミド精製操作を省略できることから迅速かつ簡便なクローニング技術であることが実証できた。問題点としては枯草菌ゲノムへの相同組替えにおいてCambell typeや二量体のプラスミドがゲノムに組み込まれる確率が非常に高いことが挙げられる。このため目的株を得るための合理的なスクリーニング法を新たに検討すべきである。同様に複数の供与菌を同時に混合した場合においてもスクリーニング法の検討が必要であると考えられた。しかしながら、これらの問題点は溶菌液中でのプラスミドDNAが、予想以上にダメージを受けないことを示すものであり、当該技術が物理的ダメージを受けやすいサイズの大きなDNAに対して非常に効果的であることを示唆している。以上、複数の供与菌を用いて繰り返し受容菌へのクローニングする方法において当該技術は非常に効果的であることが確認され、実践的で応用的な活用を示せたことから、今年度の予定していた計画はほぼ達成できたものと考えており、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で「水平伝播を利用した細胞間ダイレクトクローニング技術」について、ほぼ当初の計画通り研究が進行し、モデル実験系による条件検討および実践的で応用的なクローニング技術を開発することができた。最終年度である平成28年度では、これらの成果を踏まえて、受容菌として枯草菌以外の宿主へのダイレクトクローニングを試みる。供与菌としてはこれまで通り大腸菌を使用する。受容菌の候補としてまず自然形質転換能を有するシアノバクテリアについて検討する。枯草菌の場合と同様に溶菌液をそのまま用いて形質転換が可能か、あるいは溶菌液に何らかの処理を施すべきか検討する。さらに自然形質転換能を有していない受容菌へのダイレクトクローニングも試みる。候補としては供与菌と同じ大腸菌などを検討する。この場合受容菌としての大腸菌に別のマーカープラスミドを保持させておくか、またはゲノム中に別のマーカーが組み込まれた大腸菌を受容菌として使用することで供与菌と区別する手段を構築する。平成27年度までに実施した「大腸菌→枯草菌」についても目的株のスクリーニング方法など最適条件をさらに検討する。そしてバクテリア間の「細胞間ダイレクトクローニング技術」にとどまらず、真核細胞への水平伝播も検討する。遺伝子工学で一般に広く使用されている出芽酵母や分裂酵母など形質転換が確立している真核微生物を対象として、供与菌としての大腸菌を溶菌させた後、溶液中に放出されたプラスミドDNAを精製することなく、直接真核細胞に導入できるか検討する。これらの実験を行う上でこれまでの「大腸菌→枯草菌」の場合と比較して最適条件を検討する。必要であれば溶菌液に何らかの処理を施すことを検討する。以上の実験を通じて当該技術の汎用性の拡大と実用化に向けた課題の調査、克服を目指す。
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Causes of Carryover |
当該年度(平成27年度)における研究の進展具合は極めて順調で、当初の計画目標を充分にクリアすることができた。次年度(平成28年度)使用額が生じた理由としては、初年度(平成26年度)に見送った追加備品(微量高速冷却遠心機(860千円))の分とあわせて、実験資材等の再利用などにより効率的に研究費を運用できた結果、当初の計画に比べてコストを押さえることができたことによる。最終年度の平成28年度ではこれまでの成果を踏まえて当該研究を締めくくるべく、様々な試みを実施するため、以下に示す使用計画の通りの消耗品費、旅費、人件費などが必要と見込まれる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は最終年度でもあり、これまでの研究の総括的なことも含めて様々な試みを実施するに当り、供与菌、受容菌の培養に必要な培養試薬類、培養資材類、また水平伝播に用いるプラスミドDNAの構築、精製と、様々な受容菌へDNAが水平伝播されたことを確認するため、さらに当該技術の高効率化検討のためなどに遺伝子工学用試薬類、遺伝子工学資材類、プライマー合成費などの消耗品費が必要と予想される。この他、単純な試薬の調整、培地の作成、操作、データの取りまとめを補佐する研究補佐(技術員1)の人件費、及び情報収集、成果報告(学会発表、論文発表など)のための旅費、謝金(論文校閲料を含む)などが必要と予想される。これまで予定通りかつ効率よく研究が遂行しており、最終年度(平成28年度)も繰越金を含め、当初の計画通りの予算で必要充分であると見込まれる。
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Research Products
(1 results)