2014 Fiscal Year Research-status Report
野外コウノトリの生理学的および病理学的モニタリング手法の開発
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26430206
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
内藤 和明 兵庫県立大学, 地域資源マネジメント研究科, 准教授 (50326295)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江崎 保男 兵庫県立大学, 地域資源マネジメント研究科, 教授 (10244691)
大迫 義人 兵庫県立大学, 地域資源マネジメント研究科, 准教授 (40326294)
村田 浩一 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (00339285)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 保全生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
二重標識水法によるコウノトリの代謝量の測定プロトコルを確立するために,標識水の投与方法,投与量,および投与後の採血方法などを検討した.既往の文献を参考にして必要投与量を試算する一方,注射によってコウノトリに投与可能な量を考慮した結果,投与量を最大2mLとして投与液中の酸素安定同位体の量が最大となるように酸素および水素安定同位体の混合量を決定した.捕獲や採血に比較的慣れており,繁殖計画に組み込まれていない飼育下の3個体を最初の供試個体として選定し,二重標識水の投与後の安定同位体の減衰速度を求めるために,投与から最大8日後までほぼ48時間間隔で血液サンプルを得た.サンプルの安定同位体の解析はこれから行う予定である. コウノトリの自動体重測定を実現するために,野外個体が集まる屋根の無いオープンケージ内に止まり台を作製・設置し,コウノトリの反応を検証した.高さ25cmと50cmの2本を地上に固定し,自動撮影装置で計27日間記録をとり,1日に最大7~14の野外個体がこのケージ内に下りたことを確認したが,この台に止まる個体はいなかった. コウノトリとヒトとの共生を保全医学的に評価し生態学的健康の維持に役立てるため,病原性細菌と薬剤耐性菌保有について調査研究を行った.病原性細菌はサルモネラとキャンピロバクター,薬剤耐性菌については大腸菌を対象とした.兵庫県立コウノトリ郷公園内の個体ケージおよび検疫棟でコウノトリの糞便31検体を採取し検体とした.細菌培養および遺伝子増幅の結果,サルモネラとキャンピロバクターは検出されなかった.大腸菌は8検体(25.8%)から検出され,2検体(25%)が薬剤耐性を示した.1検体はセファロリンに対する単剤耐性であったが,他の1検体は11種の抗生剤に対する多剤耐性を示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代謝量を測定プロトコルの実施方法の検討と血液サンプルの採取まで実施しており,サンプルの安定同位体の解析が残されている.安定同位体の分析結果を基にその減衰速度を求めれば,血液サンプルを得る最適な間隔が計算でき,捕獲および血液サンプルの採取回数を最低限にした測定プロトコルを作成できるものと思われる. 自動体重測定および給餌によらない捕獲方法の開発については,コウノトリという種の誘引可能性やなわばりに関する情報の収集を行ない,自動体重測定のためのコウノトリの誘引に関する実験を実施した.その他は,実験に適した機材や材料の選定と可能性の検証にとどまっている. 病原性細菌と薬剤耐性菌保有の有無を確認した上で,対象細菌を絞った集中的な検索へ展開するという目的の第一段階は達成できている.サルモネラとキャンピロバクターが検出されなかったのは,日常的な健康管理による効果であると考えられた.一方,11種の抗生剤(ABPC-PIPC-OFLX-NA-ST-CZOP-OTC-CTRX-CTX-CXM-CET)に対する多剤耐性大腸菌が検出されたのは予想外の結果であり,再導入後の環境に与える影響を考慮する上で飼育下での健康管理には留意すべき面があるという最終評価につながる成果のひとつとなった.
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Strategy for Future Research Activity |
安定同位体の分析結果を基にその減衰速度を求め,血液サンプルを得る最適な間隔を検討する.高温期におけるコウノトリの代謝量を測定するために,二重標識水の投与および血液サンプルの採取を夏期に実施する. 自動体重測定については,誘引方法として,幼鳥,成鳥ともに観察される小枝の収集行動の利用を試みる.すなわち,長さ100cmほどの枝を地面に刺し,これへの関心と抜き取り行動を自動撮影装置で記録・確認する.さらに,ミラーへの誘引についても,同じく実験・検証する予定である.給餌によらない捕獲方法については,コウノトリのなわばり防衛行動を利用して,なわばり内にフィルムミラーを設置し,個体の接近・反応を自動撮影し効果を検証する.誘引が可能となれば,捕獲のためにネットランチャー(捕獲用の装置)を使うことができる. 病原性細菌と薬剤耐性菌の検出については,飼育下個体からの検体採取を継続し検体数および情報量を増やす方策を検討する.保菌率に関しては季節的変動も考えられるため,新たに初夏での検体採取を行う.さらに,飼育下コウノトリのみならず野生復帰された個体の病原性細菌および薬剤耐性大腸菌保有の実態を把握するため,野外において新鮮検体(糞便)とコウノトリが利用する環境中の各種試料(土壌や水など)の採取と分析を行う.セフェム系薬剤に対する耐性大腸菌が検出されたことから,公衆衛生面での評価指標となるβラクタマーゼ遺伝子の解析も加えたより詳細な分析を新たな研究項目とする.
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Causes of Carryover |
エネルギー代謝量の解明に関連して,二重標識水の投与液や血液サンプル等の安定同位体分析にかかる費用を翌年度に支出することとしたため,当初の予定と支出額との間に差が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
エネルギー代謝量の解明に関連して,二重標識水の投与液や血液サンプル等の安定同位体分析にかかる費用を支出する.また,捕獲手法の開発に関連して,フィルムミラーやビデオカメラシステム等の購入が必要となる予定である.感染症に関する基準値の解明に関連して,検体試料採取,前処理,保存用消耗品等の購入が今年度と同様必要となる.
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