2014 Fiscal Year Research-status Report
大腸菌とサルモネラの鞭毛レギュロンにおけるグローバル制御の全体像の解明
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26440006
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
沓掛 和弘 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (90143362)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 鞭毛レギュロン / 遺伝子発現制御 / グローバル制御 / 制御ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,主に大腸菌ASKAクローンを用い,高発現した場合に鞭毛レギュロンの発現に影響を与える非鞭毛遺伝子を,網羅的にスクリーニングする計画で開始した。まず初めに,運動性を指標としたスクリーニングと転写量を指標としたスクリーニングの2つの方法の有効性を検討した。前者は,大腸菌野生株からASKAクローンによる形質転換体を作成し,その運動能を検定するというものである。後者は,鞭毛レギュロンの最下流にあるクラス3に属するfliC遺伝子とlacZ遺伝子との転写融合株を宿主として用い,ASKAクローンによる形質転換体を作成してX-gal寒天平板上でカラーセレクションを行うというものである。解析の結果,前者は負の制御因子しか検出できないのに対して,後者は正および負の制御因子の両方を効率よく検出できる利点をもつことが確認された。この結果をもとに,本研究では後者の方法をとることに決定した。 ASKAクローンの組換え体プラスミド(4122個)のすべてについて,個々にそのDNAの精製を行った。それらをfliC-lacZ転写融合株に形質転換によって導入し,個々のクローンの形質転換体を複数個ずつ単離した。それらについて,X-gal寒天平板上で培養して青色の発色度を記録し,正および負の制御因子の候補を選択した。現在までに全クローンの検定が終了し,100を越える候補遺伝子が同定されている。それらのうちの多くは,これまで報告されていないものであり,新規調節因子である可能性が高いと考えられる。 次年度以降の研究の予備実験として,クラス2の負の制御因子として同定されたsdiA遺伝子について,その作用を詳しく検討した。その結果,sdiA遺伝子産物は,既知の負の制御因子YdiVの発現を介した経路と,それとは独立の経路の2つの経路で,鞭毛レギュロンの発現制御に関与していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
転写量を指標としたスクリーニングにおいて,4122個のクローンすべてについてプラスミドDNAの精製と第一次検定が終了し,検定結果をまとめた一覧表の作成が完了した。このステップは本研究計画中で一番時間と労力がかかる難所であり,それが当初の計画通りに初年度内に終了したことには,非常に大きな意義がある。これにより以降の研究の指針ができ,今後の研究が非常に促進されるはずである。また,上述のように,同定された制御因子の候補の中には,これまでには報告されていない新規なものが多数含まれており,本研究の意義がさらに高まったといえる。 一方,申請段階の計画では,スクリーニングされた各候補因子について,さらに二次検定として,そのターゲットとなる鞭毛クラスまたは鞭毛遺伝子の同定まで進める計画でいたが,これについてはまだ一部を除いて終了していない。しかし,これは計画全体からするとそれほど時間を要するステップではなく,平成27年度の早い段階で終了させることが可能であると予想している。したがって,この遅延による研究計画への影響は微小であると判断している。 他方で,個別の制御系の詳細な解析を開始しており,そのパイロット実験としてSdiAによる制御系の解析を詳細に進めることができた。そして,2つの制御経路の存在の可能性が明らかになるなど,予想以上の結果が得られており,今後の進展が期待される。したがって,この部分については,当初の計画以上に進展しているといえる。 以上の点を総合的に考慮し,全体としては「おおむね順調に進展している」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の解析で同定された各候補遺伝子について,その欠損および高発現が各鞭毛遺伝子の転写に与える影響を解析することにより,それぞれの遺伝子産物が鞭毛レギュロンのどのクラスまたはどの遺伝子の発現に関与しているかを明らかにし,それぞれの標的を決定する。 クラス1オペロン(flhDC)の発現に影響する遺伝子は,他の制御因子の発現制御を介して間接的にflhDCオペロンの発現を制御するものが多いと考えられる。そこで,flhDCオペロンの転写制御領域の変異体で負の制御を受けない株を用い,各遺伝子の欠損および高発現の影響を解析することにより,既知の負の制御因子との関係を検討する。また,それぞれの制御遺伝子について,相互に二重欠損株を作成してその表現型を一遺伝子のみの欠損株と比較したり,一方の遺伝子の欠損株内で他方を高発現させたときの影響を解析したりするなどの方法により,各遺伝子間の上位下位検定を行う。 クラス1オペロンの転写には影響せず,クラス2オペロンの転写に影響を与える因子については,クラス1の転写後制御やクラス2の特異的制御因子(FlhD4C2, FliT, FliZ)の活性制御に関わっている可能性を検討する。一方,クラス2発現に特異的に作用する非鞭毛蛋白質として既知の因子(CsrA,DnaK,ClpXP,YdiVなど)との上位下位関係を,上と同様の方法で解析する。 クラス1や2の転写には影響せず,クラス3オペロンの転写に特異的に影響を与える因子については,クラス3の制御系であるFliA-FlgM制御系の活性調節(発現を含めて)に関わる可能性を検討する。また,複数の因子が同定された場合には,上と同様の方法で上位下位検定等の解析を行う。 最終年度には,以上の解析結果に基づいて鞭毛レギュロンを中心とした遺伝子発現制御ネットワークの全体像を構築し,その検証実験を試みる。
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Research Products
(1 results)