2015 Fiscal Year Research-status Report
DNA損傷時における酵母ミトコンドリアDNAの組換え依存型複製開始制御機構
Project/Area Number |
26440013
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
凌 楓 国立研究開発法人理化学研究所, 吉田化学遺伝学研究室, 研究員 (70281665)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 組換え / ミトコンドリアDNA / DNA損傷修復 / 出芽酵母 / ロ-リングサークル型複製 / ミトコンドリアDNA / ホモプラスミー / コンカテマー |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでにRRM3遺伝子破壊株において核チエックポイント経路が活性化される。そしてこれに応答してDNA損傷に誘導されるDin7とmtDNA組換え酵素Mhr1が共に働く相同的DNA組換え依存型複製がmtDNAのコピー数を増加することを明らかにした。今年度は、活性酸素種(ROS)の発生を抑制するスカベンジャーであるビタミン C とアセチルシステインがRRM3遺伝子破壊株において核チエックポイント経路の活性化に応答するmtDNAのコピー数の増加を抑制することを見出した。これらの結果はROSによる相同的DNA組換え依存型複製を活性化することで核チエックポイント経路の活性化がミトコンドリアDNA複製に寄与することを示唆している。 これらの研究と平行して、ミトコンドリア病患者由来のヘテロプラスミー状態の細胞に細胞分裂の際、適度な濃度の過酸化水素(H2O2)で処理し、活性酸素種(ROS)を発生させると出芽酵母で観察された現象に酷似してローリングサークル型複製が誘導され、mtDNAからなる線状多量体(コンカテマー)が合成されたことを見出した。細胞分裂の際、細胞分裂後にコンカテマーが娘細胞に送り込まれることでmtDNAの“不均等な分配”が起こるため、正常型と変異型の混在が解消されホモプラスミーとなり、変異mtDNAによるヘテロプラスミーのホモプラスミー化が促進されることを明らかにした。この結果は、従来のシータ型複製(θ型複製)では説明できなかったmtDNAホモプラスミー化機構に、出芽酵母で明らかにした、ROSによるローリングサークル型複製の活性化が関与することを示しています。本研究は、母性遺伝(細胞質遺伝)を担うmtDNAの複製・分配機構の解明を通じて、どのような機構を経てミトコンドリア機能を健全化した子孫が誕生するかという、生命の基本原理の理解に繋がる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでに出芽酵母をモデル生物としてミトコンドリアDNA(mtDNA)の遺伝機構を研究し新しい組換え依存型mtDNA複製機構を提唱しこの機構が変異型mtDNAによるヘテロプラスミーのホモプラスミー化に機能することを明らかにしました。しかし、このような機構がヒト細胞においても保存されているかどうかについて依然不明でした。今年度で発表した研究成果から、ヒト細胞においても細胞分裂の際、細胞分裂後にできる娘細胞に単位長さのmtDNAからなる線状多量体コンカテマーが送り込まれることでミトコンドリアゲノムの初期化が促進されるというホモプラスミーの形成機構が酵母で発見したものと極めて類似していることが判明した。従って、本研究で、DNA損傷時における酵母mtDNAの組換え依存型複製開始制御機構という題名で得られた研究成果の主要な部分がヒト細胞にも通用するものであろうと推論でき、当初計画以上に進展していると考えています。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒトと酵母の細胞では、チェックポイント経路が活性化されるとmtDNAコピー数が増加する。一方、この際、mtDNAの変異も誘発される。これは、核チェックポイントが活性化されても、ヒトmtDNAに結合することで酸化損傷からmtDNAを守る作用をもつTFAMの量が一定で、ヒトmtDNAコピー数の増加に応じて増加しないことを明らかにした。また、申請者は、出芽酵母の核チェックポイントの活性化に伴い、TFAMのホモログであるAbf2の量が増加しないことと、Rrm3とAbf2の二重欠損細胞ではmtDNAの点突然変異の発生によるエリスロマイシン耐性コロニーの生成率がRrm3単一欠損変異細胞のそれと比べ、さらに3倍に増加することを見出した(未発表)。これは、出芽酵母の核チェックポイント活性化の際、Abf2の活性が不充分であれば新たに増加したmtDNAを守りきれず、mtDNAの点突然変異がより多く誘発されたと考えている。今後は、Abf2を活性化作用をもつ、ミトコンドリア内の遊離アミノ酸の存在、及び非存在下で、野生型ABF2を過剰発現させた細胞、Abf2の機能欠損細胞に対してMMS処理をするかRrm3を欠損させることでチェックポイントを活性化する。その際のエリスロマイシン耐性コロニーの発生頻度を測定することで、Abf2の活性化がmtDNA点突然変異の誘発に対する影響を調べる。これらの一連の実験によって、ミトコンドリア内の遊離アミノ酸の新しい生理機能を明らかにし、mtDNA変異の発生を抑制する新たな手法を開発する。
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Causes of Carryover |
MtDNAコピー数の増加がチェックポイントの活性化による核DNAの組換え修復に与える影響を調べる予定でしたが、未完成です。今年度に引き続き、予定の実験を行う予定です。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
RAD51、 RAD52、RAD55、RAD59などの核DNA組換えに関わる遺伝子群の欠損株の接合型の異なる半数体、及びそれを元にRrm3が欠損による多重変異株を作ることでチェックポイントの活性化にこれらの核DNAの組換え修復に必要ない遺伝子の役割を明らかにします。さらに、これらの多重変異株にMhr1の機能欠損変異を導入し、Mhr1に依存したmtDNAコピー数の増加がチェックポイントの活性化を伴う核DNAの組換え修復能に与える影響を明らかにする予定です。
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Research Products
(1 results)