2014 Fiscal Year Research-status Report
アダプタータンパク質が担う,乳がん細胞における転写因子STATの活性化基盤の解明
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26440016
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
尾瀬 農之 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (80380525)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの腫瘍組織やがん細胞株において,増殖の原因となる因子は複数考えられるが,JAK-STATシグナル伝達経路に属するSTAT3およびSTAT5の顕著な活性化が認められている.細胞生物学実験の結果を踏まえ,乳がん細胞株におけるSTAT3/5分子の活性化はアダプター分子STAP2とキナーゼBrkの協調作用による寄与が大きいと考えられるため,本申請研究では原子レベルでの活性化メカニズムの解明を行う. 転写因子STATファミリーの存在が発見され,Janus kinase (JAK)-signal transducer and activator of transcription (STAT)シグナル伝達経路の概要が明らかにされたのは約30年前である.JAK-STATシグナル伝達系はレセプターに会合するJanus kinaseと,その主要な基質である転写因子STATにより構成される.STATはJAKによりリン酸化・活性化され,SH2ドメインを使用してホモ二量体を形成すると核に移行し,標的遺伝子の転写を活性化する.JAK-STAT系は発生,細胞運動,増殖・分化,がん化や免疫系に深く関わっており,自己免疫疾患など免疫系を調節するターゲット分子としても近年注目されている. 活性状態のBrk, STAP2, およびSTATを調製することに成功していたが,さらに精製度を上げるためのコンストラクト改善を行い,Hisタグ融合タンパク質を大腸菌・昆虫細胞を用いて調製した.BrkによりSTAP2がリン酸化されることやBrkとSTAP2の結合を検出するBiacoreのアッセイ系も構築している.また,それぞれ単独,複合体の結晶化を試みており,小角散乱実験の結果と合わせ,パラメータを最適化中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間内での最終目的は,複合体結晶構造解析によりSTAT2とBrkが結合することがSTATリン酸化能の亢進に大きく関与することを説明することにある.これまで,それぞれの蛋白質を昆虫細胞や大腸菌を使用して調製してきた.精製度や修飾に相違があることが認められ,これが活性にどのように影響するか,また,溶液中での構造変化をするために小角散乱実験を適用している.蛋白質の性質としては,ある程度安定であるものの,長期間の保存はできず,大量に調製することもまだまだ必要である.しかし,結晶化をトライすることに耐えうる標品は得られており,スクリーニングや予備回折実験等を始めている.コンストラクトを工夫することで,様々な生化学実験・生物物理学実験も可能になってきており,多くの予備データが蓄積されてきたことは,概ね順調に進んできたと言って良い.
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Strategy for Future Research Activity |
STAT3-STAP2-BrkおよびSTAT5-STAP2-Brkの三者複合体の形成条件をSAXS法により検討し,pH領域や塩濃度などによる三者複合体の集合・離散を解析する.三者複合体の全体構造をSAXS法により解析する.SAXS法による複合体形成条件が検討できれば,その条件を満たすように複合体結晶化を試行する.STAP2やBrk単独の結晶構造ですら解析されていないが,これは両蛋白質の調製が難しいことに起因する.多くの最適化試行の結果,比較的安定にサンプル調製ができる系を立ち上げたため,小角散乱実験を有効に進めることができる. 多くの結合パートナーを持つ複雑な相互作用を取り扱う系では,結合の順序による構造変化の可能性にも充分注意を払う必要がある.相互作用は表面プラズモン共鳴(SPR)法や等温滴定型熱量計(ITC),を使用し,精密に相互作用パラメータを評価する.変異体作製により,各相互作用残基の役割を精査する.これらの機器は身近にあり申請者が常に使用しているものであるため,効率の良い実験ができる.蛋白質間相互作用の必要最小領域を絞り込み,実際に細胞中で改変領域が評価される必要がある.我々の経験上,高分子同士の複合体結晶を得るためには,組み換え発現コンストラクトの最適化が肝要となるケースが多い.相互作用ドメインの複合体結晶を得るには,適切なドメインのみにするために,コンストラクトの刈り込みも必要であろう. STAT3に対する研究とSTAT5に対する細胞生物学的研究が独立に行われたため系統的理解に至っていないが,本研究が達成されれば両経路に対する活性化メカニズムが原子レベルで明らかになり,両者を比較しながら以下の現象を説明し,創薬を考える上でも不可欠な分子基盤を提供したい.
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Causes of Carryover |
当初,実験補助員を雇用予定であったが,本人および大学院生2名が自身の研究として研究活動を遂行したくれたため,実験補助員に充当予定の予算を繰り越した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
結晶は多くの微結晶が得られることが予測されるため,評価や実際のデータ測定は大型放射光施設高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリーや,SPring8で行う.放射光施設には頻繁に訪れるため,その旅費に充当する.また,結晶は所属研究室にて液体窒素温度で冷却・保存するが,その際にクライオプロテクタント条件が適切かどうかをモニターする顕微鏡(凍結結晶観察用顕微鏡)の購入を行いたい.
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