2015 Fiscal Year Research-status Report
小胞体Ca2+ポンプの触媒部位から輸送部位への構造変化の伝達機構
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26440017
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Research Institution | Asahikawa Medical College |
Principal Investigator |
大保 貴嗣 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (90207267)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カルシウムポンプ / ドメイン / カチオン輸送 / リン酸化中間体 / 変異体 / 構造変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
Caポンプの輸送反応はリン酸化中間体(EP)の形成、異性化、加水分解を経る。EP異性化では、Caを輸送部位に閉塞したEPの細胞質領域のAドメインが大きく回転してリン酸化Pドメインに結合する。筆者は、この構造変化がAドメインに繋がるヘリックスM1、M2を通じて膜ドメインに伝達され、Caは内腔に放出されると考えている。M2はCa輸送に伴って大きく構造変化すると結晶構造から推測されるがその意義は不明であった。M2の各部分を破壊/伸長する変異体の解析により、M2は機能の異なる細胞質領域(M2c)と膜貫通領域(M2m)に概ね区別され、Ca輸送の特異的反応段階で働くことを示した (JBC 2014)。 今回M2c-M2m連結領域の役割を変異導入で調べた。この領域のG105のAla置換はCa輸送/ATP加水分解を脱共役させ、EP異性化を阻害した。従ってG105はM2cとM2mの蝶番として働き、Ca輸送で各々のダイナミックな構造変化を可能にすると考えられる。また、M2cとM2mの方向性をもつ構造変化がEP異性化とCa-gatingに重要であることが示唆された(投稿準備中)。 以前、M2上のY122を含む5残基がE2Pにて疎水クラスタ (Y122-HC)を形成し、これがE2P加水分解、およびCa遊離したE2Pの構造を安定化することを報告した。今回、EP転換の中間的EPであるCaE2PからのCa遊離過程を調べた。Y122-HC変異体では、低濃度Ca存在下でCa遊離がEP異性化に遅れるが、Ca無しでは遅れないことから、非閉塞のCa結合E2Pが検出された。これよりY122-HCがCa親和性低下に働くこと、Y122-HCの集合がEP異性化とCa放出の共役に段階的に対応することが示唆された(JBC 2015)。これによっても、M2が細胞質ドメインとCa遊離の共役に重要な役割を果たすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、Caポンプにおいて、リン酸化/脱リン酸化を経由してATP加水分解が起こる細胞質ドメインとCa輸送部位をもつ膜ドメインの間でいかに構造変化が伝達されて共役が起こるかを解明することである。筆者は、まずM2とAドメインを繋ぐjunctionループおよびM2に着目し、細胞質領域(M2c)と膜貫通領域(M2m)、およびそれらの連結領域が如何にはたらいて構造変化が伝達されるかを部位特異的変異導入により調べた。 これをもとに、平成26~27年度の計画に従って、その構造変化に障害を与える変異をM2上に見出し、速度論的解析に対応して構造的解析を行った。これらは①特異的プロテアーゼ切断への耐性による構造変化観察、②特異的位置に蛍光色素導入して構造変化を蛍光観察、③適当な2か所にCys導入して酸化的架橋による2点間位置変化の測定(遂行中)である。①、②について得られた主な成果は、M2cとM2mが各々の機能を果たすためにその接続部位のG105が重要な役割を持つという新発見であり、投稿準備中である。また、②について、低ノイズ蛍光観察に適するように蛍光ラベルしたCaポンプをnanodiscに入れてゲル濾過精製する系を利用している。③については①、②に基づいて遂行中である。 次に平成27~28年度に計画した④「新しい構造因子を探索する」では、AドメインとM3をつなぐループA/M3-link、およびM3に部位特異的変異導入し、解析を始めている。その予備的実験の結果は、A/M3-linkが適切な長さであること、またM3が正常なヘリックス構造であることがCa輸送の共役、従って膜ドメインのCa-gateを正しく開閉させることに重要であることを示している。 以上から、進捗状況はおおむね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、Caポンプにおいて、細胞質ドメインとCa輸送部位の間でいかに構造変化が伝達されて共役が起こるかを解明することである。最終の本年度は、平成27年度の成果:①特異的プロテアーゼ切断への耐性による構造変化測定の系、②特異的位置に蛍光色素導入して構造変化を蛍光観察する系を利用・発展させて、これらを動物培養細胞で発現させた変異体に応用する。このとき、③適当な2か所にCys導入して酸化的架橋による2点間位置変化の測定による構造変化の検出も行う。また、④「新しい構造因子を探索する」というテーマでは、AドメインとM3をつなぐループA/M3-link、およびM3に部位特異的変異導入した効果について速度論的解析を続行する。さらに、⑤リン酸化中間体の異性化E1P→E2Pの中間状態E2PCaの構造情報を得るため、A/M1-link変異体にリン酸化アナログBeF3-を結合したE2BeFCaの結晶構造を調べる計画を遂行する。まずは予備実験として、変異体タンパク質を非イオン性界面活性剤で可溶化し、活性を保ったまま分取可能か、さらにネガティブ染色で単粒子解析を行って構造を保つための条件設定をする。ところで、これまで使用してきた非イオン性界面活性剤では、可溶化時にCaポンプを安定化するため非生理的高濃度のCaを必要とする。この条件はCaポンプに非nativeの構造・状態を与える可能性があることから、新しい非イオン性界面活性剤を検索する必要がある。そこで27年度後半から着目した、Caポンプ可溶化に適した新しい非イオン性界面活性剤の検索を続行する。次に変異体タンパク質を精製して結晶をつくる系を確立し、構造解析に臨む。
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Causes of Carryover |
筆者はCaポンプを非イオン性界面活性剤で可溶化し、界面活性剤を除いてnanodiscに入れる系を確立してきた。また、結晶化やその予備実験でもCaポンプを非イオン性界面活性剤で可溶化する必要がある。しかし、これまで使用してきた非イオン性界面活性剤では、可溶化時にCaポンプを安定化するためには非生理的高濃度のCaを必要とする。この条件はCaポンプに非nativeの構造・状態を与える可能性があることから、新しい非イオン性界面活性剤を検索する必要がある。このための試薬購入予算枠を平成27年度予算内に設定したが、選定および予備実験に時間がかかったため一部「次年度使用額」が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度内に、非イオン性界面活性剤を選定後、追加購入に充てる。
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