2015 Fiscal Year Research-status Report
EGFR天然変性ドメインの構造変化ダイナミクスの1分子FRET計測
Project/Area Number |
26440088
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
岡本 憲二 国立研究開発法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 専任研究員 (40402763)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 1分子計測 (SMD) / 天然変性タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度以降の研究計画に従って実験を進めていく中で、試料処理に関して問題が明らかになり、ガラス基板の表面処理法を改善したが、引き続き、条件の最適化等をおこなった。ガラス基板表面にポリエチレングリコール (PEG) を化学結合させて非特異吸着を抑えると同時に、PEG の中に1%程度ビオチン修飾されたものを混在さることで、ガラス基板表面への分散固定を実現する。実験に用いる EGFR-CT 断片分子や Grb2 分子を用いて、非特異吸着の抑制や特異的な固定が十分な性能で実現されていることを確認した。 上記の処理を施したガラス基板を用い、in vitro で固定された EGFR-CT 天然変性ドメイン断片分子の1分子計測実験をおこなった。Grb2 の結合-解離キネティクスの計測をおこなったところ、従来は EGFR と Grb2 が自発的に結合-解離の平衡状態に至り、Grb2 結合サイトのチロシン残基がリン酸化されることで結合反応が促進されると考えられていたが、結合反応を有意に検出することができなかった。結合反応には、従来は考えられていなかった条件が必要とされる可能性が明らかになった。 またそれらと並行して、フォトンカウンティング検出と変分ベイズ-隠れマルコフモデル解析法を用いた1分子 FRET 実験をおこなってきた。ホリデー・ジャンクション DNA を対象として1分子 FRET 計測実験をおこない、離散的な分子状態を識別し、状態遷移ネットワークを再構成することに成功した。この成果を Biophysical Chemistry 誌に発表した。これらの手法は、研究計画で予定されていた高精度のダイナミクス計測を実現するものであり、EGFR の構造変化ダイナミクス計測においても有効であることが確認できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度以降の研究計画に従って EGFR 分子の構造変化ダイナミクスの計測を進めていく中で、試料処理に関する問題点が明らかになっていた。これまで採用していた1分子計測データの中に、ガラス基板表面との非特異吸着により構造変化ダイナミクスに影響を受けている分子が含まれている可能性があることが分かった。この問題を放置することは長期的な視野からも研究計画に与える影響が大きいと判断し、ダイナミクス計測実験より優先して、ガラス基板の表面処理法を改善することとした。平成27年度も引き続きプロトコルの最適化などをおこなう必要があった。 また、改善したガラス基板を用いておこなった EGFR-CT 分子の1分子計測実験の結果、Grb2 の結合反応について、従来の知見から予想されていたのとは異なる結果が得られた。EGFR-CT 分子の Grb2 結合サイトであるチロシン残基に自発的に結合するものと考えられていたが、1分子イメージング実験の結果、有意な結合が観察されなかった。EGFR-Grb2 の結合反応には、これまで未知の条件があった可能性がある。Grb2 結合状態と EGFR 分子の構造状態との関係を調べることは、本研究の重大なポイントであり、結合条件を明らかにすることが優先されるため、現在はその条件について検討している。 上記の理由のため、本来予定していた実験を計画通りに進めることができず、やや遅れが生じる結果となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画と比べてやや遅れた分を含め、従来の研究計画に従って、EGFR 構造変化ダイナミクス計測実験を進めていく。 EGFR-CT 分子では、天然型 (WT) 分子と疑似リン酸化変異体 (PM) 分子では FRET 分布が異なり、さらに PM 分子では溶液中に Grb2 分子が存在することで FRET 分布が変化することなどから、Grb2 によって構造変化が誘起されることが考えられる。そこで、その過程のダイナミクスを直接観察することで、Grb2 分子による EGFR 分子構造およびそのダイナミクスへの影響を明らかにする実験に取り組む。また、EGFR-CT 分子では Grb2 との相互作用により構造変化する部位が特定されていない。そこで、FRET ラベル位置を変えた試料分子の計測結果を比較することにより、構造変化部位を特定する実験に取り組む。またこれまでに、Grb2 によって誘起された構造変化は、時間とともに緩和することが示唆されている。そこで、Grb2 によって構造変化を引き起こした後、溶液交換によって Grb2 を溶液中から取り除く事で、構造緩和過程のダイナミクスを観察する実験もおこなう。 上の「9.研究実績の概要」で述べたガラス基板処理の改善により、従来の問題点を解決できただけでなく、さらに実験の精度と効率を上げることが可能になり、これまでの遅れを取り戻して実験を進めていけると考えている。 これらの実験は、TIRF 顕微鏡と EM-CCD カメラによる高スループットのイメージング実験によって傾向を把握した後、コンフォーカル顕微鏡を用いた1分子 FRET 計測と変分ベイズ-隠れマルコフモデル解析法の組み合わせによる高精度の計測をおこなうことで、ダイナミクスの詳細を明らかにしていく。
|
Causes of Carryover |
当初の研究計画と比べて、進捗がやや遅れているため、本来は本年度中に使用するはずであった予算を使用しなかったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画において本年度におこなう予定であった実験の一部を次年度におこなうために、次年度に使用する。
|
Research Products
(3 results)