2016 Fiscal Year Research-status Report
EGFR天然変性ドメインの構造変化ダイナミクスの1分子FRET計測
Project/Area Number |
26440088
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
岡本 憲二 国立研究開発法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 専任研究員 (40402763)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 1分子計測 / FRET / 分子構造ダイナミクス / EGFR / 天然変性蛋白質 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度以降の研究計画に従って実験を進めていく中で、試料処理に関して問題が明らかになり、ガラス基板の表面処理法を改善したが、引き続き、条件の最適化等をおこなった。ガラス基板表面にポリエチレングリコール (PEG) を化学結合させて非特異吸着を抑えると同時に、PEG の中に1%程度ビオチン修飾されたものを混在させることで、ガラス基板表面への分散固定を実現した。実験に用いる EGFR-CT 断片分子や Grb2 分子を用いて、非特異吸着の抑制や特異的な固定が十分な性能で実現されていることを確認した。 高感度の sCMOS カメラ、および、カメラの半分ずつの視野に2色の蛍光像を分割して投影する W-view システムを装備した顕微鏡システムを用いて、in vitro で上記の処理を施したガラス基板に固定された EGFR-CT 天然変性ドメイン断片分子の1分子 FRET 計測実験をおこなった。得られた FRET 分布は、一見すると単一のピークで構成されているように見えたが、詳細な解析により、2つのピークが重なり合っていることが分かった。すなわち、EGFR-CT 分子は、2種類の構造状態で混在すると考えられる。天然型分子と擬似リン酸化分子との比較では、FRET 分布に明確な違いは見られなかった。また、FRET の時間変化の軌跡を調べたが、2つの状態間での遷移ダイナミクスは確認されなった。これば、構造状態の遷移が起きていないか、または観察の時間スケールが遷移レートとずれているために検出できていない可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度以降の研究計画に従って EGFR 分子の構造変化ダイナミクスの計測を進めていく中で、試料処理に関する問題点が明らかになっていた。これまで採用していた1分子計測データの中に、ガラス基板表面との非特異吸着により構造変化ダイナミクスに影響を受けている分子が含まれている可能性があることが分かった。この問題を放置することは長期的な視野からも研究計画に与える影響が大きいと判断し、ダイナミクス計測実験より優先して、ガラス基板の表面処理法を改善することとした。平成28年度も引き続きプロトコルの最適化などをおこなう必要があった。 EGFR-CT 分子の1分子 FRET イメージング計測によりダイナミクスの計測をおこなう予定であったが、FRET 分布情報は得ることができたものの、ダイナミクスを確認することができなかった。ダイナミクス自体が存在していないか、計測の時間スケールがダイナミクスのものとずれていた可能性がある。 また、Grb2 結合による影響も調べる予定であったが、1分子イメージング実験や生化学的手法などでは Grb2 の結合を検出することができていない。EGFR-Grb2 の結合反応には、これまで未知の条件があった可能性がある。Grb2 結合状態と EGFR 分子の構造状態との関係を調べることは、本研究の重大なポイントであり、結合条件を明らかにすることが優先されるため、現在はその条件について検討している。 上記の理由のため、本来想定していた実験結果を計画通りに得ることができず、遅れが生じる結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画と比べてやや遅れた分を含め、従来の研究計画に従って、EGFR 構造変化ダイナミクス計測実験を進めていく。 EGFR-CT 分子を対象とした1分子 FRET 計測実験により、FRET の分布とダイナミクスを明らかにする。これまで FRET のダイナミクスを検出できておらず、条件を探索する。計測の時間スケールが実際のダイナミクスのものとはずれていた可能性があり、励起光パワーを変えてこれまでより速い、あるいは、遅い時間スケールのダイナミクスの検出を可能にして測定をおこなう。その他の条件としては、EGFR-CT 分子は天然変性蛋白質であり、その構造は電荷の影響を受けることが考えられるため、溶媒の pH を制御することが考えられる。また、Grb2 分子による EGFR 分子構造およびそのダイナミクスへの影響を明らかにする実験に取り組む。EGFR-CT 分子では Grb2 との相互作用により構造変化する部位が特定されていないため、FRET ラベル位置を変えた試料分子の計測結果を比較することによって構造変化部位を特定する実験に取り組む。またこれまでに、Grb2 によって誘起された構造変化は、時間とともに緩和することが示唆されている。そこで、Grb2 によって構造変化を引き起こした後、溶液交換によって Grb2 を溶液中から取り除く事で、構造緩和過程のダイナミクスを観察する実験もおこなう。 これらの実験は、TIRF 顕微鏡と sCMOS カメラによる高スループットのイメージング実験によって傾向を把握した後、コンフォーカル顕微鏡を用いた1分子 FRET 計測と変分ベイズ-隠れマルコフモデル解析法の組み合わせによる高精度の計測をおこなうことで、ダイナミクスの詳細を明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
EGFR-CT 分子は Grb2 分子と結合することが知られているが、1分子イメージング実験では結合反応を検出することができなかった。EGFR-Grb2 の結合反応には、これまで未知の条件があった可能性がある。また、1分子イメージング1分子 FRET イメージング計測によりダイナミクスの計測をおこなう予定であったが、FRET 分布情報は得ることができたものの、ダイナミクスを確認することができなかった。計測の時間スケールがダイナミクスのものとずれていた可能性がある。これらの理由のため、本来想定していた実験結果を計画通りに得ることができず、実験計画に遅れが生じる結果となり、さらに実験を追加して研究を継続する必要が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該助成金は、主に実験の遂行に必要となる消耗品等の購入に使用する。
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Research Products
(2 results)