2015 Fiscal Year Research-status Report
ほ乳類の進化過程における顎の基部―先端部軸位置遺伝情報の改変
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26440127
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
鈴木 久仁博 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (30256903)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若松 義雄 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60311560)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | オポッサム / 歯式 / ホメオボックス / 歯の分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類の進化過程において、切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯といった機能/形態の異なる歯の分化が顎の基部-先端部軸に沿っておこり、また顎の基部側にある顎間接が耳小骨として超感覚のために転用された。これらの特徴は顎原基間充織の基部-先端部軸に沿って発現するMsx1やBarX1などのホメオボックス型転写因子の種類と組み合わせによって規定されていると考えられており、ホメオボックスコード仮説と呼ばれている。しかし、この仮説は小臼歯や犬歯の無い特殊化した歯式を持つマウスを用いた研究から得られたデータをもとに提唱されたもので、哺乳類としての原型がどうなっているのかを知るためには、ヒトなどの霊長類を含む基本的な歯式を持つ哺乳類でホメオボックスコードがどうなっているのかを明らかにする必要がある。昨年度は基本的な歯式を持つオポッサムについて、発生期の顎原基におけるホメオボックス遺伝子群の発現を調べた。その結果、顎原基先端部のMsx1の発現領域とより基部側のBarX1の発現領域にマウスには見られない重複する部分が見つかり、これが予定犬歯-小臼歯領域に対応する可能性が示された。本年度は、Msx1やBarX1の発現領域と歯式の対応を明らかにするために、生後のオポッサム個体について頭部の連続切片を作成し、3D再構築によって歯胚の位置と形態の変化を追跡した。その結果、Msx1とBarX1が重複して発現する領域が予定犬歯-小臼歯領域に対応する可能性が高いことがわかった。また、マウスでは顎原基の上皮で発現するBMP4によって間充織にMsx1の発現が誘導されることが示されていることから、オポッサム胚の顎原基におけるBMP4とMsx1の発現を比較した。すると、Msx1の発現のうち基部側のBarX1発現領域と重複する部分についてはBMP4の発現領域から離れていたことから、BMP4とは別のMsx1発現誘導メカニズムの存在が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度終わりに計画した、生後のオポッサムでshhの発現によって歯胚を同定する試みは、ホールマウントin situハイブリダイゼーションがうまくいかなかったために失敗に終わった。しかし、パラフィン連続切片の作成と3D再構築によって、歯胚の形態を複数の発生段階で明らかにすることができたため、マウスとオポッサムの間でのホメオボックスコードの違いと歯式の違いを遺伝子発現と歯胚の形態の関連によって説明することができるようになったことは、本研究を推進するにあたって非常に大きな前進であったといえる。また、ホメオボックスコードの違いが、オポッサムにおけるこれまで知られていたBMP4による発現誘導とは異なるMsx1遺伝子の発現誘導機構の存在による可能性が示唆されたことは、本研究のさらなる進展にとって重要な発見であった。一方で、昨年度に計画していたオポッサム胚の全胚培養実験系の確立やオポッサム線維芽細胞のリプログラミングによる頭部神経堤細胞作成の進展は限定的であり、来年度も継続する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに明らかにしてきたマウスとオポッサムの顎原基におけるホメオボックスコードの違いが、単に有胎盤類と有袋類の違いによるものである可能性は完全には否定できない。したがって、様々な哺乳類胚の顎原基について、ホメオボックスコード遺伝子の発現を比較することで、より明確な解答が得られると思われる。そこで、有胎盤類で完全な歯式を持つフェレットやマーモセット、有袋類でマウスに似た歯式を持つワラビーについてホメオボックスコードを調べることを計画している。 また、並行してオポッサム胚の全胚培養実験系の確立やオポッサム線維芽細胞のリプログラミングによる頭部神経堤細胞の作成を継続していく。
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Causes of Carryover |
投稿論文の校閲,印刷費用を用意していたが年度の〆切までに間に合わなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の投稿論文の経費として使用する予定。
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Research Products
(4 results)